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2007年11月16日(金)第4,185回 例会

クルーズの楽しみ方

幡 野  保 裕 氏

郵船クルーズ(株)専務取締役
(元飛鳥船長)
幡 野  保 裕 

1944年北京生まれ。高校時代はインター杯の柔道長野県代表として活躍。東京商船大学卒業。’68年日本郵船(株)入社。一等航海士としてコンテナ船,オイルタンカーなどの経験を積み,陸上勤務でも船員教育,労働管理,人事管理を担当。’89年に船長に昇進。’95年6月より飛鳥副船長,’96年6月より2003年3月まで同船長を務め,4回の世界一周クルーズを指揮。

 客船の船長を8年した経験を通して,クルーズの楽しみ方をお話ししたいと思います。

 クルーズ文化はやはりアメリカが一番進んでいて,年1,000万人以上が楽しんでいます。日本は10~15年遅れていると言われます。

’89年に商船三井の「ふじ丸」がデビュー。私どもは’91年に「飛鳥」を動かしてビジネスを始めました。クルーズ人口は17~20万人弱とみられています。日本の客船は「飛鳥Ⅱ」「ふじ丸」「にっぽん丸」「ぱしふぃっくびーなす」の4隻しかありません。ベッド数を全部合わせても1,600人が乗れる程度です。大きさも値段も似ており,選択肢が狭いのです。

 やはり日本人は大変働き者で,ゆっくりと楽しむことが苦手なようです。農耕民族で船が恐い,欧米人より船に酔いやすいのでクルーズが伸びない,とも言われています。

 それでも今,世界中が日本に注目しています。65歳以上の方2,200万人が,国民の預貯金1,400兆円の約60%を持っているそうです。海外旅行に慣れた団塊世代などの間に,現地へ空路で飛んでクルーズを楽しむ「フライ&シー」が増えるとも期待されています。

安全・快適…魅力ある旅

 安全,快適,便利,感動,健康。旅に求められる5要素をクルーズはすべて備えています。そして「クルーズは時のゆりかご」。すべての時間がお客さまのものです。浮世の憂さを忘れる。それが最大の魅力と思います。

 まず,危ない所へ行かない。世界中から情報を集め,安全で良い港を選びます。行く先の一番良い季節を選び,例えば北半球なら日本を4月初めころに出ます。ヨーロッパもアメリカも初夏。穏やかにクルーズできます。

 「飛鳥Ⅱ」副船長の大きな仕事がセキュリティーです。この下にテロや麻薬,消防の訓練を受けたセキュリティーオフィサー,さらにファイヤーパトロールがいます。火災探知装置や防犯カメラも動いています。一番安全な乗物が船だと言っても過言でないと思います。海賊があちこちに出没していますが,客船が海賊に襲われたことはありません。

 「飛鳥Ⅱ」の長期クルーズには医師と看護師2人ずつが乗り組み,お客さま800人とクルー470人の健康を管理します。警備員とセキュリティーシステム,病院付きリゾートホテルと考えていただけばといいと思います。

 荷物を出発港に宅配便で送れば,乗船時にはキャビンに用意されています。出入国,関税,検疫の手続きをパーサーがほとんどしてくれます。港によってはパスポートのコピーと身の回りの品だけを持って上陸できます。家具や椅子をお土産に買っても,キャビンに入る大きさなら心配いりません。

感動と出会い自分を発見

 海では,感動的な自然現象が見られます。

満天の星。朝日と夕日も雲の色,光の具合,同じものは決してありません。虹の輪の中を船が走ることがあります。太陽が沈むときに緑色にピカッと光るグリーンフラッシュ。それを見ると幸せが来ると言われています。満月のときにスコールがあると,ムーンボーといって月光で虹が見えることもあります。

 私たちは,いつ,どこへ,どうやって行けば美しい風景が見られるか,計算して船を動かします。例えば,サンフランシスコへ朝一番に入ると,ゴールデンゲートの真ん中から太陽が上がり,金門橋が本当に金色に輝きます。鯨や海ガメ,イルカ…。自然の中で生きている海洋生物にも出会えます。

 良い友達ができます。そして,新しい自分を発見できます。船ではさまざまな教室を開いています。お孫さんにマジックを覚えて帰ろうと思った方が,すっかりとりこになってマジックで老人ホーム慰問を始めたり,ダンスのコンテストに出たり,絵や写真を覚えて個展を開いた方がたくさんいます。

 運動も十分できます。「飛鳥Ⅱ」のデッキは1周440mで10周歩くと4km以上。フィットネスの道具も,ストレッチや気功の教室もあります。船に乗ったときは杖をついていたのに,その杖を忘れて下りた方がいました。

 海自体に癒し効果があるようです。末期ガンの方が,それでも世界を見たいと乗ってこられました。少し元気になられ,その後も何回かクルーズを楽しまれました。

「70点主義」の思いやりで

 よく受ける質問が5つあります。「揺れませんか」「退屈しませんか」「ドレスコードが面倒ですね」「上級の部屋に入らないと惨めですね」「クルーズはお高いですね」。

 お答えします。

 最近の船は真ん中に羽を持っていて,大きく揺れることはめったにありません。

 絶対に退屈しません。原稿用紙を持って乗られる作家がいますが,(楽しくて)ほとんど書けなかったと言われる方ばかりです。

 ドレスコードはありますが,一番多いのがカジュアルです。週1回くらいだけフォーマルがあって,盛装を楽しんでいただきます。

 最近の船はどのパブリック,どのキャビンに入っていただいてもサービスは一緒です。

 すべての料金がインクルードだと考えれば,クルーズは決して高くないと思います。

 ただし,クルーズは団体生活です。お客さま同士の気配りがないと良くなりません。斎藤茂太さんがよくおっしゃっていた「70点主義」という言葉があります。100%を要求するのでなく,70%でいいやと思うと,余裕を持って楽しんでいただけるということです。

 ロータリアンは,みなさんが思いやりの心を持っておられ,お客さまとして最高です。ぜひ,お乗りいただければと思います。