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2007年10月12日(金)第4,180回 例会

なにわ伝統野菜の復活

森 下  正 博 氏

元大阪府立
食とみどりの総合技術センター
森 下  正 博 

1947年生まれ。’71年三重大学大学院農学研究科修了。同年大阪府立農林技術センター栽培部,そ菜科研究員,野菜園芸グループリーダーを経て’07年3月に退職。著書に「なにわ大阪の伝統野菜」(共著)「21世紀の食と農を考える」など。羽曳野市在住。

 まずお話したいのは「日本の食生活と気候風土」です。日本はモンスーン気候という風土の中にありますから,稲作を中心とした食文化です。それ以前は狩猟民族でしたが,稲作の渡来とともに,米とか魚を中心にした食生活となり,エネルギーでいえば「低エネルギー型」の民族であるといえるかと思います。

それに対してヨーロッパとかアメリカなどは肉やチーズ製品など「高エネルギー型」の食をとる民族ということができ,根本的に体が違うといえます。別の言い方をしますと,日本のような低エネルギー型は,大阪で言う安上がりの民族ということが言えると思います。基本的にわれわれの体は,米とか麦とか芋とかでうまく機能するような体になっておりますので,少しの,あるいは適当な肉や乳製品の量であればいいんです。それが過ぎると,最近よく言われるいろんな病になる,そういう状況があるかと思います。

市場の変化

 大阪は,昔は生駒の麓まで海が入り込んでいて,淡水と海水が入り混じった潟を形成していました。ですから,土壌的には砂の多い土地で,野菜づくりには好適な場所です。「淀の苗」というのが有名ですが,淀川のあの近辺でつくられる苗で,5月ごろの園芸店では淀苗として売っています。いずれにしても,野菜は砂の多い土壌というのがつくりやすいということです。

 「なにわの伝統野菜」の復活に取り組んで20年ほどになるんですが,周年に供給できるような野菜が求められるようになってきました。そうしますと,季節限定の野菜はつくらなくなる。つくっても市場が買ってくれないということで,やはり市場が買ってくれる品種にこの30年,40年で変わってきたんです。

 つまり現在主流のF1(エフワン)という品種に取って代わってきたわけです。F1というのは,犬でいうミックス,雑種なんです。ミックスというのは非常に丈夫で長生きする。農家の人もつくりやすい,商うほうも扱いやすい。使うほうも,メニューどおりにいつでも使えるわけです。ですから,季節限定のもの,あるいは地域限定のものというのは,社会的な必要性から生産されなくなってくるわけです。

手作りの取り組み

 しかし,わしはこれでなかったら食べた気がせえへんという人もおられるわけです。例えば「田辺大根」。短い大根なんですが,肉質が緻密で,大根おろしにすると非常に辛い。これは秋まき専用の品種ですから,春や夏にはありません。この種は,今から20年ほど前に大阪市の品評会でたまたま出ているのを見つけて,「これが,江戸時代の名産の資料に載っていた大根かな」と思って,農家の方に少し種を分けていただいて,それを育てて種をふやして持っていたんです。そうすると,たまたま東住吉のほうにお住まいの方たちが地域のことを勉強しておられて,「われわれのとこに田辺大根というのがあったらしいで,一回どんなんか見てみたいな。食べてみたいな」というようなことで,私が勤めておりました試験場のほうに問い合わせがあり,「種分けてください」ということで,地域に持って帰られました。

 畑がなくても,プランターや,園芸用の土の袋を立てて種をまいたらできるんです。いまは「あの幻の大根はこんな味か。ひとつ漬物にしてみよう,キムチにしてみよう,おでんや,大根おろしや」といろんな食べ方をされています。12月には地元商店街のイベントで,町の人に種を配ったり,品評会を開いたりしています。

 「天王寺蕪」は,大阪の人はあまり知らなかったんですが,野沢菜の親だったんです。野沢温泉村には,大阪の天王寺から来た種ですよということで石碑まであります。あるテレビ番組の取材で野沢菜は「大阪の天王寺蕪がルーツやで」ということになって,天王寺蕪が野沢菜とご対面というようなこともございました。そして,地元の阿倍王子神社さんでは,天王寺蕪の石碑をつくられました。

 そしたら,「わしらも負けられへん」ということで,玉造稲荷神社に「玉造黒門越瓜(しろうり)」の石碑ができました。白い斜めの石で瓜をあらわした石碑です。「天王寺蕪や玉造黒門越瓜に負けてられん」と,田辺大根の石碑が東住吉の法楽寺さんにできております。「毛馬胡瓜」につきましては,都島の新京橋商店街さんが中心になって,7月に一般の人に苗を配ったりして,また,できた胡瓜を持ち寄って品評会をしたりしてくれています。

「しんか」させよう

 今回復活デビューさせていただいております野菜は,大阪の人たちのおなかを満たすだけの生産能力はありません。とれる期間が非常に短いですから,それは不可能なんですが,われわれを育んでくれた食べ物という観点でとらえることによって,現在市場に流通している食べ物への見方も変わるんじゃないか,と思っています。

 最後に,伝統野菜で「しんか」しようということを提唱させていただいております。本物(真価)で,技術とか情報とかを深め(深化),前にいかなあかんな(進化)というわけです。つくる側,食べる側の多様性を認めながら,伝統野菜で大阪が「進化」できるんかな,と考えております。