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2007年10月5日(金)第4,179回 例会

小・中学校への出前授業のすすめ

畑 田  耕 一 氏

国際ロータリー第2660地区
職業奉仕委員会副委員長
畑 田  耕 一 

1934年大阪市生まれ。’57年大阪大学理学部化学科卒業。ダイセル化学工業(株)研究所入所。’83年同大学基礎工学部教授。’97年同大学副学長。現在は大阪大学名誉教授,福井工業大学教授。’01~’02年度,豊中RC会長。’04年から地区職業奉仕委員会に所属。

 (10月5日の卓話をもとに一部加筆したものです)

 きょうは「出前授業」の話をさせていただきます。私は1975年から,いろんなところで「出前授業」をやらせていただきました。豊中RCでは7年目になります。

悲鳴をあげる学校の先生

 最初に、私の感じております日本の学校の現状ですが、これは、一言で言うと「学校は悲鳴を上げている」というような状況に近い気がいたします。 日本の国は、世界に追いつけ、追い越せと言っていた時代から、世界のリーダーになるべき時代に入ってきたわけです。そのためには、個性ある子供を育てねばならず、クラスの子供の一人一人に、それぞれの子供に合う教育をするという大変なことが要求されます。教育の個性化は教育の多様化を意味するのです。個性ある子供の育成を目指して新しく新設されたのが、総合的な学習です。これは、子供がそれまでに学んできた知識をもとにして、自分で問題を発見し、自分でその解決方法を計画して、それを実行する、先生はそれを支援するという授業です。先生方にとっては、これまでやったことの無い授業で、かなりの努力が必要です。さらに、以前は家庭と地域社会でやっていただけた躾の初歩まで、学校で教えねばならなくなってきました。 それに情報の授業なども加わって,先生方が大変忙しくなってきたので、「出前授業」を通して、学校教育の支援を行う必要が出てきたというわけです。

「出前授業」の目標ですが,それは子供の好奇心を育てるということです。子どもは好奇心が旺盛で、「何故?」という質問をよくします。これに先生や保護者が適切に対応できないと、折角の好奇心が萎んでしまいます。これは,日本を萎ませることに繋がりかねません。

 もうひとつ,子ども特に小学生の質問は自然科学に関するものが多いのです。ところが、小学校の先生には文系の人が多いので、先生にも分からないような質問が一杯出ます。ここが出前授業の出番です。私は実験を見せたり,その結果について子どもと一緒に考えたりして、子どもの考える力の養成に努力しています。

根本原理を話そう

 皆さんが出前授業をされる時には,自分の分野の哲学,根本原理を話してやって頂きたいのです。私の専門は高分子化学ですが,小学生に「プラスチックて何や?」と聞くと,「燃やしたらダイオキシンが出るもの」という答えが返ってくることが多いのです。これは、ある特定の場合には事実であっても、真実ではありません。その子どもが自然科学以外の分野に進むと中学、高校そして大学でも高分子の話は殆ど出てこないので,そのままで社会人になってしまう恐れがあります。だから,子どもには根本原理・哲学を教えてやってほしいのです。プラスチックは高分子という大きくて、細長い糸のような分子でできている,これが一番大事なのです。

 小学校に行った時,こんな質問がありました。「先生,輪ゴムを手で引っ張ったら伸びる。手を離したらもとの長さに縮む。でも,机の上に何日も置いといたら,だんだんネチャネチャになってくる。それを引っ張ったら伸びるけど,もとの長さには縮まない。もっと置いといたら,ネトネトになって溶けたみたいになる。もっと置いといたら,砂みたいになる。これは何でや」。この質問に皆さん,答えられますか。小学生が,ここまで詳しくゴムの一生を観察してくれたことに感激しました。子どもが、ゴムの詳細な観察を通して、高分子物質の本質に迫る問いを投げかけてくれたのです。ゴムは高分子という糸のように細くて長い分子から出来ているという高分子化学の根本が分かっておれば、小学生にも分かるように、この質問に答えることは、比較的容易です。小学生にこそ根本原理を学ばせる努力をするべきではないでしょうか。

小学生のすごい能力

 「出前授業に行ってくれませんか」とお願いすると,「私のやっていることは難しくて,小学生には分からないと思います」という方がおられます。でも、子ども特に小学生は、どんな難しい分かりにくいことを聞かされても、それを頭の中に入れて置いて、だんだんと勉強を重ねていって記憶したことが分かるようになったときに、それを記憶の中から引っ張り出して、改めて理解してみようとする能力を持っています。「あの時,あのおっちゃんが言ったことは,こういうことだったのか」というわけです。だから、自分のやっていることが難しすぎて、子どもに分からないのではないかというような心配はしないで、どんどんと出前授業をやっていただきたいと思います。子どものときに聞いた大事な話は、しっかりと頭の中に残っているのです。 自分の言っていることが難しいなと思われても,言わないよりましです。言って置いていただくと,必ずわかる時期が来ます。

 例を一つお話します。小学校5年生の時,戦争が終わる二ヶ月前、近隣の学校の先生を招いて,体操の参観授業がありました。体操の後、演壇に上がった陸軍の中尉さんが,「君たちは今日上手に体操をやった。私は大変心強く思った。しかし,君たちは小学校の生徒だ。勉強も一生懸命やってくれよ,戦争が終わった後の世界の平和のために」と言われたのです。当時の小学生にとって「世界の平和のために勉強する」というのは非常にレベルの高い話ですが,この一言は齢を重ねるとともに私の中で重みを増していきました。

 では,最後に、「ゴムはなぜ伸びたり縮んだりするのか?」というお話をします。ゴム球をお湯につけると,よく弾むようになります。常温では伸びないグッタペルカというゴムはお湯につけると伸び縮みするようになります。これはご覧のとおりです。今日は時間の関係でこの実験はお見せ出来ませんが、ゴムに重りをぶら下げておいて、熱湯をかけるとゴムが縮んで重りが持ち上げられ、氷水をかけると縮みます。 ゴムを作っている高分子のような細長いものの各部分が激しく動くと,丸まった形になって縮むのです。外部から力を加えて引っ張ると伸びますが、力を取り去ればまたもと通りに縮みます。このような実験をしながら、子どもたちに考えることの面白さを知ってもらいます。

 皆さんが「出前授業」に行かれたときに,面白いと思ってくれた子どもがほんの僅かのように思えても,悲観しないで下さい。その子どもが家に帰って、「お母ちゃん,今日こんな面白い話を聞いたで」と母親に言う。それを聞いた母親が、なるほど面白い話だと思えば、そのことを知人に話す。この様にして話の輪は地域社会にどんどん広がっていくのです。1億の国民が知るのにそんなに時間はかからないと思えば、出前授業にも精が出ます。教育の世界でも一人ひとりの小さな努力が、やがては大きく実を結ぶのです。