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2007年8月10日(金)第4,172回 例会

BKほんまもんや

堂 元    光 君(放送)

会 員 堂 元    光  (放送)

1951年生まれ。’74年早稲田大学法学部卒業。同年日本放送協会(NHK)入局。北九州放送局放送部,報道局政治部,名古屋放送局報道部を経て’00年報道局政治部長。’05年報道局長。’06年大阪放送局長。
’06年8月当クラブ入会(PH準F/米山準)。

 NHKの放送局を識別するのに,東京はJOAK,大阪はJOBK,名古屋はJOCK…と名前が付いています。大阪放送局は短くして「BK」と昔から呼んでいただいています。全国でもそういう名で親しまれているのは,ここ大阪以外にはありません。地域の皆さまからの期待,愛着を感じています。

 私はやっぱり,公共放送は「ほんまもん」を追求するということに尽きると思っています。世のため,人のため,社会のため,地域のためにある。関西弁で表現すると,「BKほんまもんや」と言っていただける放送サービスを展開しなければなりません。

好評「芋たこなんきん」

 一例が,藤山直美さん主演でBKが制作した朝の連続テレビ小説「芋たこなんきん」です。皆さまから,関西弁の美しさ,大阪の文化,風土をよく全国発信してくれたとか,夫婦の会話,家族の団らん,昭和の街並みなどの失われたものを復活させてくれたと,とても好意的な反応をいただきました。

 私も街に出て,ドラマの前後でガラリと変わったなと感じることがありました。「受信料ほんまに義務化しまんのか」で始まっていたある飲み屋のおやじさんの会話が,「『芋たこなんきん』おもろいなあ。あのおでん食べてみたいな」になりました。

 先ごろ新潟で中越沖地震,その前には中越地震が起きました。私どもは阪神大震災を教訓に災害報道を強化し,被害を少なくする減災報道に取り組んできましたが,その後のフォロー,復興支援報道に本格的に踏み切ったのが中越地震です。「24時間キャンペーン」と銘打った放送を展開し,山古志村の村長さんから「自分たちも復興再建への意欲を失わずに済んだ。全国と山古志村を結んでくれたのはNHKだ」とお言葉をいただきました。

 では,「ほんまもん」とは何ぞや。身近な情報をきめ細かく地域の人々に伝える。地域の情報をより広く全国に発信する。ざっくり申しますと,この2つしかありません。

 情報が豊富な関西で,NHKはなぜ経済に特化した放送サービスを展開しないのだと私は以前から疑問に思っていました。そして,「ルソンの壺」という経済番組を今春から始めました。企業規模の大小や業種を問わないで,「その企業活動のツボとは何ぞや」を放送する番組です。今は2府4県向けですが,全国展開を目指すのは当然のことです。

 それから,2府4県の知事さんにBKに来ていただき,堺屋太一先生を司会者に,地域の課題に答える1時間を超す討論番組をつくりました。ゴールデンタイムの夜7時半から放送し,硬い番組にもかかわらず,2桁近い非常に安定した視聴率を得ました。6人の知事さんの話がうまかったのと,課題がたくさんあって,視聴者が,ゆっくり見てみようと受けとめてくれたのかもしれません。

大震災時には首都の代替

 「ちりとてちん」という新しい朝ドラが10月から始まります。落語家を目指す女性を主人公にしています。60年ぶりの(上方落語専門の定席)復活という繁昌亭にうまく連動させ,大阪の文化と伝統を全国に発信できればと思っています。

 BKでは(この3月に)亡くなられた城山三郎さんの「気張る男」という小説を3~4年前にドラマ化して放送しています。明治の大阪で関西の渋沢栄一と称された松本重太郎という人の生き様を描いているそうです。今秋に再放送する準備をしています。

 来年2008年の「源氏物語千年紀」,2010年の「平城京遷都1300年」。こういう大イベントにどのような放送サービス,事業を展開できるか,さまざまなことを考えています。いずれ皆さんに公表できると思います。

 それから,首都が直下地震に襲われた場合の代替論が,BKの最大の使命ではないかと思います。東京・渋谷の放送センターから電波が出せなくなるのが最悪の事態です。そのときはBKから全国へ電波を発信する以外にないのです。緊急報道は公共放送の使命だと日ごろから言いながら,いざ大地震のときに立ち上がれなかったら,公共放送は要りませんということになってしまいます。

 この問題を大きな番組にできないかなと考えています。BKでは「関西経済を災害から守れ」というテーマで番組展開を図っています。阪神大震災を経験した企業の間では,事業継続計画をつくる取り組みが進んでいるようです。そういうものを含め,災害,震災という観点からつくりたいなと思っています。

行く手に2つの大きな山

 放送とマスコミに対する視聴者,読者の目線は,私どもが会社に入ったころと比べ,はっきり変わってきました。都会と田舎では情報格差はほとんどないのではないか。真実は何か,事実は何かを分析して認識する力が,格段に違ってきていると実感しています。

 我々も一層気を引き締めなきゃならんと思いますが,まだこれから,本当の大きな山だろうというのが2つあります。

 1つは,デジタル放送です。アナログから完全に切り替わる2011年7月24日まで,もう4年を切りました。テレビをご覧になっている1人ひとりから,すばらしいと言っていただける放送を展開しなくてはなりません。要はソフトだと思います。デジタル時代の「ほんまもん」とは何ぞやというのが大きな山です。

 もう1つは,インターネットなどの通信分野の急速な発展です。そういう中で,テレビ離れ,文字離れが指摘されています。これはもっと大きな山だろうと思います。

 なかなか結論は出せませんが,この大きな2つの山に向かって,「BKほんまもんや」と言っていただける放送,行動を心がけてまいりたいと思っている次第です。