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2007年6月15日(金)第4,164回 例会

日本の教育問題

白 石  真 澄 氏

関西大学政策創造学部教授 白 石  真 澄 

1987年4月(株)西武百貨店入社。'89年5月(株)ニッセイ基礎研究所入社。'02年4月東洋大学経済学部助教授に就任。'05年6月東京海上日動あんしん生命保険(株)取締役就任。'06年4月東洋大学経済学部教授。'07年3月東洋大学経済学部教授退任。'07年4月現職就任。

 私には,高校2年生,中学校3年生の息子と娘が1人ずつおりまして,息子と娘の学校でPTA会長を2年続けてやりました。千葉県の教育委員というものを4年前からさせていただいております。

おかしな教育現場

 政府の教育再生会議の一員として教育を見たときに,どうも不思議なことがいろいろございます。長くいました民間企業の立場から見ると,それぞれが能力に応じて役割を果たしていくということは当然のことでございます。ところが,残念ながら,教育というのは非常に競争を嫌います。序列をつけることを避けてきました。この4月24日に「全国学力テスト」が行われましたが,40年間学力テストは行われておりませんでした。企業活動であれば現状をまず分析する。商品が売れないのであれば,なぜ売れないのかという調査をして,そこから次なる一歩が始まります。非常に「切磋琢磨をしない」ということが1点目でございます。

 2点目は,「閉鎖性」でございます。今,学校の現場の中に,免許を持たずに教壇に立てるという特別免許状というものがありますが,全国でまだ0.1%ぐらいしか,民間人の先生がいません。それも,美術とかコンピュータというふうにごくごく限られた方たちで,英語,国語,算数,理科,社会,こういう一般的な教科を教えるというようにはなっておりません。

 さらに,いじめ問題を隠蔽しようとする体質が非常に濃いと思います。今の先生たちの評価の仕組みが,可もなく不可もなく,何事もなくその一定期間学校現場の中で過ごしていれば,昇進していく仕組みでございます。教育委員会から,いじめがある学校は悪い学校だ,いじめが起こったときに何ら対処をしなかったということで懲罰が行われますので,学校現場はそれを表に出さないように,表に出さないようにしてしまうわけです。

 3つ目が,費用対効果です。例えば,昭和45(1970)年から子どもの数は半減いたしております。しかし,全国の学校数というのは数%しか減っておりません。大学はもっとひどくて,過去12年間で18歳人口は4分の3になりました。25パーセント減ったわけでございますが,4年制の大学は30%ふえまして,今,全国に734です。国の意図は,今ふえ続けてきた大学をいかにつぶさないか,延命させるかということを意図しているのではないかと思います。

社会総がかりで挑む

 日本の子どもたちの学力低下は非常に進んでおります。こうした中,安倍総理が,教育は最重要課題ということで「教育再生会議」を立ち上げました。私は17人のメンバーの中で,学校再生分科会の主査をさせていただいておりまして,初等,中等教育を中心に取りまとめの責任を負っています。

 再生会議が目指すところは,「社会総がかり」で,子どもの教育に当たるということでございます。日本の子どもたちの教育を再生させるために,1つは,「授業時間をふやしていく」ということでございます。

 平成4年から平成19年,15年間で授業時間数は7%減りました。土曜が休みになった結果,午前中子どもたちは地域で親と過ごしているのではなく,月曜から金曜の疲れで寝ている,テレビゲームをしている,ボーッとしている,もしくは塾に行っているという,本来ゆとり教育の目的とは違った過ごし方をしているのが実情です。この土曜に,正規の授業を行えるようにしました。

 もう1つは,「教員の質の向上」でございます。先生たちは,4年間の教職課程を経て,教員免許を取得して教壇に立つわけでございます。私は,この教職課程のカリキュラムから変えていかなくてはいけないと思います。そして,学校の先生たちは,今,官僚化して,書類を書くことに追われております。教員の給与というのは一般公務員よりも数パーセント高いのですが,残業代が全くつきません。ここ10年間で先生たちの残業というものが2倍にふえております。教育委員会への報告のためにほとんどがペーパーを書いています。

 学校の先生たちが子どもと向き合えるように,先生たちを応援するために外部人材を入れていく。先生たちをたたくだけではなくて,学校の先生たちの負担を軽減して,授業に集中していただける時間をつくっていくべきではないかということも盛り込みました。

 3点目が「道徳」でございます。残念ながら,日本の子どもたちは公共心が薄うございます。今,1週間に1回道徳が行われていますが,これは正規の授業ではございません。しっかり学校現場で,子どもたちに規範意識を教えていく。そのために,「徳育」というものを新設いたしました。

真の教育再生に向けて

 いずれにしても,私は,教育再生と申しますのは,人数を減らしたり,ふやしたり,小手先のお金をつけたりすることだけではなく,教育のシステムそのものを変えていくことではないかなというふうに思います。

 教育現場にいろんな人たち,多様な考えを持った人たちに来ていただく,予算配分の仕組みも変える,先生たちの質を上げていく,一たん採った先生たちに,民間企業に出ていっていろんな能力をつけていただいて,また教壇に立ってもらう。

 そして,国から地方に権限を移していき,地方が責任を持って自分の地域の子どもたちを育てていく。全国公教育マップというものをつくって,自分のところの公教育予算を情報公開していこう,こういうことも決めました。情報公開が進むことによって,より多くの国民の関心が教育再生に集まるのではないか,そういうことを期待しております。