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2007年4月6日(金)第4,156回 例会

ウィッジウッドの伝統と現代性
ー家内工業から世界ブランドへ

トーマス R. ウェッジウッド氏

ウォーターフォード・ウェッジウッド・ジャパン社 
ブランドアンバサダー
トーマス R. ウェッジウッド

1969年ジンバブエ生まれ。イギリスの陶磁器ブランド、ウェッジウッド社の創始者で、「英国陶工の父」といわれるジョサイア・ウェッジウッドの直系8代目。'92年にウォーターフォード・ウェッジウッドUSA社に迎えられ、2002年5月から現職。東京都在住。

 数年たちますと、ウェッジウッドとしても創業250年という重要な節目を迎えます。会社としてもファミリーとしても私たちはこれまで達成したことを誇りに思っております。ヨーロッパで一番歴史の長いブランドに育ちました。

工芸と科学の融合

 創始者ジョサイア・ウェッジウッドについて,少しだけ紹介したいと思います。

 ジョサイア自身ですが、私と似ているんじゃないでしょうか。ジョサイアのほうがもっとスタイリッシュですが。ジョサイアの話ができるのは、私にとっても非常にうれしいことです。本当に多才で、夢を見る人でした。英国ではまだまだ単なる工芸レベルであった陶磁器を、産業に育てました。アーティストとして、あるいはビジネスマンとして優れていましたが、もちろん科学の能力はすばらしかった。ユニークなもの、全く新しいものを生み出しました。そして、歴史と伝統を大事にした人間でありました。

 ジョサイアは科学の才能がありましたので、それを活用して「クリームウェア」をつくり出しました。それまでは茶色っぽいもので、オリジナリティーがなかったのです。彼は、紅茶を飲む習慣はエレガントであるべきだというふうに考えましたので、このすばらしいクリーム色の陶器を生み出したわけであります。

 しかし、これで広く人気を得るためには、セレブに支持を得なければならないと考えていました。英国を超えて世界中に広げるためには重要だというふうに思っていたわけであります。このクリームウェアが完成したときに、彼は、このコピーを王妃シャーロットに贈りました。王妃は一目で気に入り、たくさんのティーサービスセットの制作をジョサイアに依頼しました。クリームウェアは、ヨーロッパの陶磁器産業の歴史を築くものとなりました。

日本の伝統美との融合

 もう1つお話ししたいのは、有名な「ジャスパー」についてです。ジャスパーは全く新しい陶器でありました。ジョサイアは、古代ギリシャ、古代ローマの神話からすばらしいストーリーを取り出して、それを陶器の上にレリーフとして再現しました。ウェッジウッドの工場では、250年前と変わらない方法で制作をしています。陶工が集まって仕事をしています。

 世界中どこへまいりましても、「ウェッジウッドのイメージは何ですか?」と聞きますと、必ず「ジャスパーのペールブルーだ」というふうに言っていただきます。

 したがって、これに現代的な意味合いを持たせるのが一番難しいことであります。ジャスパーに現代性を与えようということで、世界のほかの地域の文化として、特に日本を考えました。そこで、すばらしい陶工との出会いがありました。中村卓夫さんというすばらしい陶芸家が金沢にいらっしゃいます。この方は2代目の陶芸家でありまして、伝統と現代性の融合というウェッジウッドの精神を理解してくださっている。したがって、中村さんに英国に来ていただきまして、ジャスパーの工場を紹介しました。そして、彼のスタイルで両方の文化を表現できるようなものを何かつくっていただきたかった。単なるほかの文化のコピーはいやだったのです。

 私たちの工場のアーティストとの交流がありました。中村さんがつくられた「茶道」と「華道」と「書」を入れ込んだ作品であります。これをジャスパーでつくったのです。

ダイニングテーブルを囲む

 さて、今日私たちがウェッジウッドをもう一度振り返る際に、どうやって顧客に対して責任を持ち、そして、社会に対して責任を持ち続けられるかということを考えますと、陶磁器産業は規模としては縮小しておりまして、なかなかテーブルウェアのメーカーとしては生き残りが難しくなっています。

 ゆっくりと座ってディナーを楽しむということが少なくなってきました。若い人たちは、何でもレンジを使う、テレビを見る、そして、ゆっくり食事を楽しむということがありません。私は、きちんとしたディナーを大切にするということは本当に重要だと思っています。つい携帯電話で話をする、メールでやり取りをする、文字のやり取りで済ましてしまうのですが、しかし、もう一度ダイニングテーブルを囲むということが本当に重要だと思います。これはまさにコミュニケーションです。これが基礎となって、社会が成り立つのだと思います。文明の基礎です。

 特に重要なのは、集まってゆっくりと顔を見ながら話をするということではないでしょうか。難しく考える必要はありません。ゆっくりと時間をとればいいんです。

 若い人たち、イギリスでもそうですが、マナーなんかどうでもいいというふうに考える人が多いのですが、マナーは相手を大切にすることでありまして、これは人生のすべてに通じるものだと思います。一緒に食事をするということから始まって、ビジネスの話もあるでしょう。何をしていても人生のすべての面で相手を大切にするという気持ちにつながると思います。

 ウェッジウッド家としては非常に強い日本との関係がありまして、実は私の妻が大阪出身です。娘は9代目となります。私は、「時間をとってディナーのテーブルに座りましょう」と、娘にいつも言っています。

 そして、妻に、「本当のビジネスマンになるには『あきんど』にならなきゃだめよ」「大阪で時間を過ごして『あきんど』になりなさい」というふうに言われております。