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2007年2月23日(金)第4,150回 例会

人類の将来がかかる地球温暖化への対応

鈴 木   胖 君(教育研究機関管理)

会 員 鈴 木   胖 (教育研究機関管理)

1934年生まれ。'58年大阪大学工学部卒業。'72年同大学教授。'95年同大学工学部長。
'98年同大学名誉教授,摂南大学教授。'00年姫路工業大学学長。'04年兵庫県立大学副学長。専門はシステム工学。著書に「成長の限界」「浪費の時代を超えて」「分散エネルギーシステム」。'98年当クラブ入会。PH準フェロー・米山準功労者。

 1973年10月に東京で,世界約30の国から約400人の科学者が集まり,ローマクラブの東京大会が開かれました。その初日,私は報告の中で「エネルギーの大量消費による排熱と炭酸ガス排出の影響が,21世紀初頭から大きなものになる可能性がある」という問題提起を行いました。それから35年。一般市民の方の間でも,地球が有限であることは,当たり前のことになっています。ただ,温暖化問題は難しく,さらに地球と人間の時間スケールが全く違うので,議論がしにくいのです。

「70のルール」

 簡単な認識の方法があります。「70のルール」といいます。物量があるパーセントで成長したら,倍になる期間は70をそのパーセント数で割ると出てくるのです。’70年代初頭にエネルギー消費は年間5%増加していました。70を5で割ると,エネルギー消費が倍になるのは14年後です。単純計算をすると約30年で4倍になります。ですから,エネルギー資源は長続きしないというのが,直感でわかりました。

 一方で,外国の人に「’70年ごろから地球環境問題をやっている」と言うと,「動機は何だ」と聞かれました。「海を見て育ったことと,量的な成長を考えたら,ほとんど直感的にわかる」と説明したら,わかってくれました。そういう認識を持つのも,育った環境が大事だと思いました。

 きょうの主題の「地球温暖化」というのは,ある意味で誤解を招く表現です。正確には「気候の温暖化」です。地球の気温は宇宙から見たら一定で,気候が温暖化しているのです。ジェット機が飛ぶぐらいの高度までが温暖化で,その上空は寒冷化しているのです。

 重要なのは,これまで人類の発展が安定した気候に支えられてきたことにあります。約1万5,000年前に最後の氷河期が終わって暖かくなり,1万年前から今のような安定した気候が続いています。安定した気候のもとで農耕をやり,富を蓄積して現在にいたっています。

 大きく変わったのは,18世紀末の産業革命から。産業革命で化石燃料を使うようになり,200年ちょっとで破綻をきたしている。発展のもとになった安定した気候を,人間が自らの手で壊そうとしている。これが気候温暖化です。

ダイナミックな地球の変化

 対策をたてねばならないのですが,難しいのは地球と人間の時間スケールの違いにあります。人生はたかだか100年ですが,地球の変化は何百万年,何千万年,何億年。累積すると大きく変わります。ですから,「地球に優しく」という標語がありますが,これは地球と人間との関係ということを考えれば随分重い言葉です。

 地球の変化を,長い年月で見るといかに大きいか。2億年ちょっと前の世界には,一つの超大陸がありました。その超大陸が,どんどん分かれていったのです。動きは1年間に2.5センチ。しかし,100万年で25キロ,1億年で2,500キロ,2億年で5,000キロの移動になります。このように,地球はダイナミックに動いているのです。

 さらに気候の変化をマクロに言えば,寒冷時は海の水が陸に堆積して陸地の氷になり,海面は今よりずっと低くなります。温暖化はその逆ですから,陸地の氷が海へ移動して,持続的な海面上昇をもたらします。自然の動きは一見小さいのですが,累積すると想像しがたいような局面があらわれます。

化石燃料からの脱却

 コンピューターシュミレーションでしかわからないのですが,今世紀末の温度状況の予測では,省エネ,再生可能エネルギーという試みを組み込み,人口増加率と経済成長を入れた上で,最大限に努力をしても大体1.8度ぐらいの気温上昇はあるのではないか,とみています。人間社会がどう動くかを考えると4度の上昇。高目にみると6.5度と,新聞にも報道されていました。

 この気候温暖化の主原因は,排出温室効果ガスの大気への蓄積です。

 二酸化炭素の排出源は,発電所,自動車など,毎日使っているものから出ています。半分が大気に蓄積され,半分は海に溶け,森林に吸収されます。

 排出温室効果ガスの原因は,日本の場合ははっきりしています。94%までが化石燃料が起源です。ですから対策の具体的な手段は簡単です。二酸化炭素の排出を減らし,温暖化にブレーキをかけるには,化石燃料に依存してきたエネルギー消費から脱却しなければいけないのです。

 代替エネルギーの大きな柱は原子力の利用。しかし,1つの種類だけに依存することは危険が伴いますから,もう1つの再生可能エネルギー,太陽や風力やバイオマスを考えないといけない。現状では,原子力はなかなか伸びず,再生可能エネルギーについて日本は非常に遅れています。

 化石燃料は非常に使い勝手のいいエネルギーですが,自然が生成したエネルギーです。再生可能エネルギーは,変動が激しくて貯蔵ができなかったり,高くつくのです。

 そういう高くつくエネルギーを,どのような政策でもって使うように変えていくか。要するに化石燃料の使用について,何らかのペナルティーをかけて,再生可能エネルギーを使用するように向けねばならない――このことが,わかっていても,なかなか合意がとれないというのが,われわれの今の状況です。

 この話に関連する企業の方もたくさんおられますが,そういう基本のことをやらねばならなくなっているということを,きょうは申し上げたかったのです。