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2006年10月27日(金)第4,136回 例会

買収雑感

出 原  洋 三 氏

日本板硝子株式会社
代表取締役会長
出 原  洋 三

1938年生まれ。'62年京都大学法学部卒業,同年日本板硝子(株)入社。'96年同社常務取締役就任。'98年同社代表取締役社長。'04年同社代表取締役会長,現在に至る。

 英国企業の買収を通じて,英国と日本の経営の違いや文化の違いについてお話をさせていただこうと思います。

世界シェア1位

 今年6月に,ピルキントンという英国の板ガラスの会社を約6,100億円で買収しました。板ガラスの企業は,世界では中国を除いて主要8社。ピルキントンは世界シェアが11%で2位か3位。当社はシェアが4%で,合わせますと売上高が約8,000億円強,シェアは15%を超え,今まで世界1位だった日本の旭硝子とフランスの会社を抜き業界で世界1位になりました。

 買収前から長いつき合いで,2001年にはピルキントンの株式を20%,取得しました。年に3,4回,重要問題の話し合いをする機会があり,感じたことが5項目あります。

 1つは「株主に対する忠実な対応と短期思考の経営」。ピルキントンは資産売却や将来有効と思われる投資をやめてまで,高配当を維持していました。大半の株主が機関投資家で,短期業績を非常に重視するとともに,配当維持を強く要望しているためです。どうしても長期的観点からの経営施策が後回しになってしまう。減配でもするとトップ責任を問われるという深刻な問題もあります。株主と経営者の関係は,日本よりもはるかにシビアであると感じました。

 2つ目は「徹底した本社管理」。ピルキントンは世界24カ国に工場がありますが,各工場の権限は小さい。そのかわり本社のトップは社長を初めとして,非常によく働く。

 3つ目は「トップ後継者の育成難」。本社の少数で集中管理をしていて,地域の管理職,本社でも中間管理職にはあまり権限がなく,経営全般を見る感覚は育っていません。

 4つ目が「経営者の頻繁な交代」。内部に人が育たないため,結局中途採用になる。この会社の先代社長,今の社長,副社長は,すべて4,5年前に外部から来た人で,トップ経営者が頻繁に交代しています。欧米でも優秀な会社は内部から経営者が選ばれるとも聞いており,こう頻繁に経営者が代わるのは問題点の1つではないかとも感じています。

 5つ目は「赤字事業の早期撤退」。短期的な経営と関係しますが,赤字が続くとすぐに撤退の話が出ます。解決できるのではないかと思っても,努力より売却金で有利な投資をした方が株主は喜ぶという考えのようです。

交渉を振り返って

 次に買収交渉で感じたことを申し上げます。

 1つは「ナショナリズムの問題」。ピルキントンは,現在の板ガラス製法を約45年前に発明した会社です。この製法が世界に広まり,特許料で莫大な利益を得ました。本社もバッキンガム宮殿の近くにある名門企業です。ナショナリズムから買収に反対が起きないかと心配しましたが,全く問題はなく,新聞もナショナリズムの観点からの記事はありませんでした。

 2つ目が「買収交渉の内容と交渉テクニック」。交渉相手のピルキントンの会長と社長は,提案される買収価格だけに関心があり,統合後の戦略とか従業員の処遇などには関心がないようでした。株価がつり上げられるだけだと,私は昨年12月の3回目の交渉で帰国しました。これに相手は驚いたようで,すぐ飛んできて1月に交渉が再開,同月中に話がつきました。英国人との交渉は,やめると言ったときから本番が始まる――と英国に詳しい人から聞きました。

 3つ目が「宣伝合戦」。英国では,買収交渉を始めると,株主のために交渉経過を,日本の証券取引委員会のようなところへ報告をしなければなりません。この報告に従って新聞,証券会社のアナリストがコメントを発表します。実は,このコメントや新聞記事の内容は,買収する側,される側が,それぞれ雇ったPR会社に書かせているのです。英国では常識のようでした。

日欧の違い

 買収後,どのような会社にするかをトップ同士で話し合いました。そこでも5点ほど感じたことがありました。

 まず1つは「根回し」。買収後,初の会議前に,議題を送付したところ,向こうの社長から「会議をどの方向でまとめるつもりなのか。突然いろいろ提案されても,会議が混乱する」と言われました。こういった根回しが,その後も随所にありました。

 2点目は「本社集中型の意味」。買収後,「もう少し地方に権限を与えて地方分散型にしたい」と提案したところ「以前に任してみたが,言いわけばかりで目標を達成したことがなかった」と反論されました。誤解を恐れず言いますと,欧米人は会社への忠誠心で働くのでなく,契約に従って働く。基本は会社のためではなく,自分にいかに有利になるよう仕事をするかなのです。

 3つ目は「予算厳守の考え方」。日本では予算未達でも首になるわけではありません。欧米では予算は契約ですから,必ず守らねばならない。この弊害もありまして,利益が足らないと,出張は全部取りやめということも時々起こっているようです。

 4つ目が「すべてをシステム化」。品質管理,安全管理,後継者育成プラン,何もかもシステムができていて,詳細なマニュアルもあり,感心します。

 最後が「年収の高さ」。この会社レベルの社長給与が,日本の10倍,約5億円。子会社の社長の給与が親会社の会長の10倍なのです。一方で,現場の給与が日本の現場に比べて低い。つまり,トップと現場の給与格差が非常に大きいのです。

 今後も,ご興味のある方は日本板硝子という会社の将来にご注目をいただきたいと思っております。