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2006年10月6日(金)第4,133回 例会

生産性運動50年
~労使の信頼と協力関係作りを使命として~

辻 本  健 二君(協会・団体)

会 員 辻 本  健 二 (協会・団体)

1947年生まれ。'70年神戸大学経済学部卒業後,生産性関西地方本部(現 財団法人関西生産性本部)入局。'97年同理事を経て,'01年5月より同専務理事に就任,現在に至る。'06年6月よりレンゴー株式会社監査役に就任。著書に「ミドルの書いた日本経営」「職場リーダーのための生産性ハンドブックQ&A」「生産性運動の昨日・今日・明日」等多数。'03年当クラブ入会。PH準フェロー・米山準功労者。

 僭越ではありますが,生産性運動について皆様方にご理解をいただく絶好の機会をいただいたと感謝して,役目を務めさせていただきたいと思います。

生産性運動について

 最初に生産性本部について。東京に社会経済生産性本部があり,全国8つのブロックに推進センターがあります。この生産性本部は,経営者,労働組合のリーダー,学識経験者という三者で構成されている点が特徴です。世界には,58カ国に生産性本部があります。

 生産性は,「インプット分のアウトプット」という式で表されます。分母のインプットには労働とか資本とか土地などの生産要素を入れます。インプットを少なくして,アウトプットをいかに多くするか,この創意工夫が生産性運動です。

 生産性向上運動は,1947年の米国大統領のトルーマン宣言に端を発します。第2次世界大戦後,東ヨーロッパ諸国の共産主義化,ドイツや韓国の分断,中国の共産党政権などで地球上のあちこちで共産主義が勢いを増していました。危機感を持った米国が共産化の根底にある貧困をなくすため,戦後の経済復興策としてマーシャルプランを発表しました。生産性本部はこのプランの一環です。’48年に英国に英米生産性協議会ができ,次々に欧州に生産性本部が誕生しました。活動は米国の高い生産性に学ぼうと,視察団を米国に派遣,米国から経営専門家を招きセミナーを開いて経営の近代化を学ぶという内容でした。欧州の経営者は,米国の高い生産性は,広い土地,豊かな資源にあると考えていましたが,実際には近代的な経営管理手法を開発,実践していることを発見しました。

 日本の生産性運動は,政府,特に通産省と,財界の同友会,米国の三者が推進しました。 ’55年に民間の機関として日本生産性本部ができました。活動は欧州と同様,米国への視察団の派遣。7年間,米国のサポートがありました。この間に400チーム,4,000人が米国や欧州に行きました。この視察団で,同時通訳業が誕生しました。同時通訳の先達の方々は,米国大使館と生産性本部の試験をパスした後,米国務省の通訳訓練学校で訓練を受けて活躍しました。このチームを,福田元総理は「昭和の遣唐使」と表現されています。

労使の信頼と協力

 日本に独特なミッションとして,労使の信頼と協力関係の確立があります。当時の日本の労使関係は,大変厳しいものがありました。生産性運動をスタートさせた方々は,「労使の信頼と協力関係を打ち立てることこそ,生産性運動を成功させる根本」という強い信念を持っていました。ですから,いかにして労働組合がこの運動に参加して国民運動として展開していくかに,心血が注がれました。労働組合が参画できる理念として考え出されたのが,生産性運動の3原則。雇用の維持・拡大の原則,労使協議の原則,成果の公正配分の原則です。労働組合では,総評は反対でしたが,総同盟は生産性本部に加盟をして,三者構成の形が整えられました。労使の信頼と協力関係のため,生産性本部がやりましたのは,主に,労使協議制の普及と労使関係教育でした。労使がよくコミュニケーションをとりお互いの理解を深めていくことと,その内容の理解でした。企業についての理解,資本と労働が協力して生産・販売を行い,そこから付加価値を出して,資本には利益,労働には賃金を分配していく。この利益が再び次の期の資本に戻り,賃金は労働に戻っていく,この循環運動が企業の姿です。このループを太くしていくことが大事だと強調したのです。

 この50年間に生産性向上の成果の配分をみると,労働生産性指数は14.5倍,賃金は24.5倍,実質に置き直すと4.6倍に増え,年間の総労働時間は361時間減っています。

そして,世界へ

 日本の生産性運動の成功を見まして,シンガポールから日本に協力を求めてきました。’83年から7年間,シンガポールの生産性向上プロジェクトが行われました。これ以降,東欧,ロシア,中米,韓国,タイ,ブラジルと展開しています。こうした活動が認められ,JICA(国際協力機構)を通しまして,生産性本部が第1回国際貢献賞を受賞しました。しかし,日本の生産性はまだまだ低いのです。日本はOECD30カ国の中で,19位。製造業のトップは非常に高い生産性ですが,中小企業,その他の産業はこれからなのです。

 そこで,50周年に当たりまして,これからの生産性運動ということで,「企業の生産性向上から社会の生産性向上へ」というスローガンを掲げました。自治体,学校,病院など公的組織の経営力の向上ということにも取り組みたいという内容です。

 これらの組織も生産性向上といいますか,経営品質の向上といいますか,これらが社会的に要請されていると思います。ここでのポイントもやはり企業と同様,労使の信頼と協力関係づくりではないかと考えております。

 自治体の改革モデルの一つといわれております三重県では,労使共同宣言をしました。「対立・交渉・妥協の関係から脱し,対等と信頼を基本としたパートナーとして県民満足度の向上と働き甲斐のある職場を目指し,県民から信頼される元気な県庁づくりに取り組む」との内容で,ここから三重県の改革がスタートしました。これからも生産性運動に,ますますのご協力とご参加をいただければありがたいと思います。