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2006年9月8日(金)第4,129回 例会

認知症の高齢者と触れ合うということ

石 田  易 司 氏

桃山学院大学 教授 石 田  易 司

1948年生まれ。京都府立大学卒業後,朝日新聞社入社。朝日キャンプ,朝日新聞厚生文化事業団にかかわり,'98年桃山学院大学教授。日本キャンプ協会専務理事,大阪市立いきいきエイジングセンター館長。著書に「福祉ボランティア」「いきいき高齢者ボランティア」など。

 認知症のお年寄りのことをお話ししようと思います。私は医師ではありませんし,高齢者福祉を専門にしているわけでもありません。基本的にはソーシャルワークという言葉でひとくくりにできると思います。社会福祉の現場のなかで,どのようにして認知症のお年寄りに関わったらいいのか,ということを学生たちに教えております。

人生80年の課題

 認知症のお年寄りとの日々には,いろいろな触れ合い方があると思います。私は,一人の先輩として自然に触れ合っています。認知症の問題は,今までの障害者の問題とは違うと,強く思っています。例えば脳性マヒという障害がありますが,脳性マヒとならずに生まれてきますと,そういう障害の人を見るときには違った目で見てしまいます。ところが,認知症は,もうすぐ私たちが行く道なのです。認知症には,若年性というのもありますが,一般的には年をとるとなりやすいと言われています。

 人生50年という時代に生まれ育ってこられた方にとって,その時代に認知症は,あまり大きな社会問題ではありませんでした。人生80年時代になって注目されています。大雑把な統計では,85歳になると4分の1は認知症になるそうです。私どもの世代でいいますと,私の両親2人と妻の両親2人いれば1人は認知症になる可能性がある。一家に1人が認知症という時代なのです。85歳になると女性は3分の1ぐらいが認知症になるそうです。男性は5分の1。これは,男性が85歳までに死亡する率が高いから,だそうです。

 ここで,障害について,すこし体験をしてもらいたいと思います。好きな食べ物を思い浮かべていただき,それをローマ字で綴ってみてください。寿司でしたら「SUSHI」で,その子音をとって母音だけを発音して当てあいます。寿司の場合は「UI」。これは,脳卒中などで倒れてしまい,言語機能,口を動かすことが,うまくできなくなったときの発音で,こういう言葉になるのです。これを周りの人が聞き取ってくれるかどうか。単純な言葉でも,理解することは難しいのです。

 例は言葉の不自由さですが,認知症は基本的に記憶の障害です。記憶は覚えることだけではなく,保ち,引き出すなど,さまざまなことで成り立っていますが,認知症初期には覚えることが侵されますので,今ご飯を食べたけれども,何を食べたかわからない,というようなことが起こるのです。

介護のプロの地位

 2000年に介護保険という制度ができました。10年ほどさかのぼりますと,当時の厚生省が「ゴールドプラン」という計画を出しました。お年寄りの多い社会になって,介護にお金がかかる。その財源に「消費税」を提案しました。介護にはお金がかかるということです。

 しかし,今の日本では,その金をもらっているプロが,プロとしてのポジションを得ているかと言うと,そうではありません。

 医師や弁護士などの国家資格では資格を持っている人しかその業務に携われない。一方,福祉の仕事には,いろいろな資格があります。仕事としては誰がしてもいいというあいまいな地位しかないわけです。

 さらに,日本の福祉は基本的に自己申告がベースです。困っている人を行政が探し出して助けるというふうにはなっていません。本人が「何とかして」と言わない限り,どうしようもできないのです。

 認知症の問題では,大きな枠としては社会的介護というのを認めて,皆で何とかしよう,少なくともお金は皆で出し合おう――という形にはなったのですが,いい形で自分の老後が保障されない,ということにもなっているわけです。

 そういう中で大事なのが,近隣の付き合いかもしれません。「素人」が何らかの形で認知症のお年寄りと触れ合うことで,お年寄りの生活周辺の心理的な負担を,少しでも減らすことができないだろうかという発想で,私たちは認知症のお年寄りのキャンプを行っています。

自然とのふれあい

 私は大学1年生のときに,朝日新聞が行っています朝日キャンプに出合いました。大学の4年間,青少年を育成するボランティア活動に参加しました延長線上で,朝日新聞社に入りました。その経験から,キャンプを通して認知症のお年寄りと触れ合うことができないだろうかと考えたのです。

 今のお年寄りは,都市よりも農村での生活の方が長い。認知症という重い障害をお持ちになったときに,少年,青年時代を過ごした自然の中で触れ合えば,元気なときの記憶がよみがえってくるのではないだろうか。

 「回想法」といい,意図的に昔のことを思い出すことが,認知症のリハビリになる,あるいは進行をとどめるという医師が,英国におられます。キャンプファイヤーの際,薪が燃えるにおいに,大阪大空襲を思い出したお年寄りもいました。自然の中で,薪でご飯を炊くとか,魚を釣ってさばいてみるとか,老人ホームではそういうことはいたしません。しかし,全介助で,ご飯を人に食べさせてもらっている人が,ご飯を薪で炊いておにぎりをにぎってというなかで,自分で手を出して食べることがあるのです。もちろん専門家の支援を受けながらですけれど,お年寄りが本当に元気になられます。

 ぜひ,皆さんもそれぞれのエリアの中で認知症のお年寄りを意識していただきながら,自分の問題でもあるということを考えていただいて,何か関わっていただけたら,おもしろい世界が展開できるのではないかなと思っています。