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2006年9月1日(金)第4,128回 例会

親を学ぶ・親を伝える

岩 堂  美 智 子 氏

相愛大学人間発達学部教授 岩 堂  美 智 子

1943年生まれ。大阪市立大学大学院家政学研究科児童学専攻修士課程終了,'84年博士。同大学生活科学部講師,助教授を経て
'96年教授。'98年同大学保健管理センター・カウンセリングルーム室長。'00年同大学院教授。'06年同大学名誉教授,相愛大学教授。

 私は,大阪府教育委員会のつくる社会教育委員会議の議長を仰せつかっております。「親学習プログラム研究開発委員会」の委員でもありまして,子どもに関わる課題の解決に取り組むための教材を作成しました。大阪府教委のホームページからダウンロードできますので,どうぞ,ご覧になってください。

支え合う育児

 私は長い間,教育相談,子育て相談に携わり,実際に親と子に会って今日の子どもの問題を考えるという実践的な研究を続けてきました。しかし,少子化,都市化の進む中,地域社会で孤立した子育て,母と子だけの子育てが進行し,深刻で新しく難しい問題が次々に出てきています。地域のさまざまな人が子どもに出会い,子育てのサポートをするような仕組みや,親が1人で悩まないで,似たような子育て真っ最中の人と一緒に,育児について話し合い,支え合うような生き方ができる町づくりの必要性を考えてまいりました。

 また,私は約20年間,保健センターと連携して「どんぐり教室」という名の2,3歳の子どもを持つ保護者のグループをつくり,毎週,一緒に遊ぼうという親子教室を続けてきました。その教室には,実習の形で大学生たちも参加します。2歳,3歳,時には0歳児の相手をしますが,日本の大学生は既に少子化が始まって兄弟数が少ないものですから,その不慣れなあやし方にお母さんたちが思わず笑って,非常にリラックスして,気楽に気軽に学生たちに子育ての難しさ,楽しさを語っています。こういう関係がすごくいいなと,私は思っています。

 2時間ほどたちますと,大抵小さい子どもは遊び疲れて眠くなり,ぐずり出して親を困らせます。そういう姿を見て,子育てがいかに大変かということを学生たちも身をもって知り,「親のありがたさがわかった」と自分の親に対する感謝の気持ちを実習レポートにつづってきます。

地域の助け合い

 かつては地域社会の中で,年齢,年代の違う人々が,いろいろなイベントを通じて出会う機会を持っていたはずです。今日ではどの年代でも,別の世代の人々と出会うことが非常に難しくなっています。今のままでは,子どもを産んだ方が,子育てってこんなにしんどいものか,もう2人目なんか産まないぞ,というような形で産まなくなってしまう。それが少子化につながっていくのです。

 「どんぐり教室」では,一人っ子を優先して来てもらうようにしていました。最初は,自分の子どもしか見えない,あるいは「もう子どもは産みません」という方が,いろいろな人の力を借りて子育てをしたっていいんだ,とわかるようになり,「2人目を産んでみようかな」と思うようになります。

 このようにグループでワイワイ言いながら子育てをしますと,他人の子どもを見る余裕,ゆとりが出てきます。いま,自治体で「ファミリーサポートセンター」という事業が展開されています。これは地域の中で,他人の子どもをひととき預かってもいいという会員と,子どもを見てほしいという会員さんを結び,自治体がバックアップをして事故のないようにして,地域の人と人が子育ての助け合いをするシステムで,厚生労働省もバックアップをしています。大阪でも力を入れていますが,まだまだ会員が足りません。どの地域でも,預けたいという方のほうが多いのが実情です。

 兄弟は,6人,8人,10人いたという方がいらっしゃいます。子育ては,こういう多数の兄弟,おじいちゃん,おばあちゃん,そして,まだ結婚していない若いおじさん,おばさんが,ともに住む家庭の中で行われてきました。それが日本の姿でした。地域の方々も,親が忙しいときには手助けをしてくれ,悪いことをしたらしかってくれました。子どもは,親が忙しくても,自分が周りの人に気にかけられていることを実感して育ちました。大きくなると,今度は自分が小さな子の面倒を見ていました。子育ては,教わらなくても体験で学んできたわけです。今,これがないまま大人になって,結婚して子どもを産んで,初めて子育ての大変さを知ることになります。こういう子育て文化がなくなると,生きる力を持った自尊感情の高い,他者にも思いやりを持てる子ども,ないしは大人には,なかなかならないのではないかと思います。

安全・安心の町へ

 モノが豊かで,自由な私たちは,一人っ子だと,一生懸命にわが子だけに働きかける子育てを,どうしても進めがちになります。私は「競争の子育て」と呼んでおります。「競争の子育て」が悪いわけではありません。しかし,地域社会が取り組む「共同の子育て」も忘れないでいただきたい。「共同の子育て」の経験は,楽しい経験をふやすだけではなく,さまざまなネットワークを持って子育てをしていれば,さまざまな人に出会えて,問題が解決できることを教えてくれます。私は地域のこうした「共同の子育て」の文化を,赤ちゃんが3歳になるまでにすべての親が実感できるように,地域社会に子育てネットの枠を広げたいと思っています。

 少子高齢社会と言われております。少子高齢社会は,大人も子どもも,人とつながって生きることが不可欠の時代であると思っています。兄弟も親戚も少なくなってきた現在では,身内や親戚だけでは,誰もが長い人生を心豊かにおくることは難しくなってしまいました。地域で子育てという作業を核にして,人がつながっていければ,地域社会が住み心地のよい町になり,いわゆる安心・安全の子育てネットができることと思います。それは,高齢者も含めすべての人にとって,居心地のよい町作りではないか,と思っております。