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2006年4月7日(金)第4,110回 例会

ロハスと"懐かしい未来"

小 黒  一 三 氏

雑誌「ソトコト」編集長 小 黒  一 三

1950年生まれ。'75年慶應義塾大学卒業。(株)マガジンハウス在籍中に「クロワッサン」・「ブルータス」・「ガリバー」の編集を経て,'99年LOHASブームの先駆であるエコ・マガジン「ソトコト」創刊,編集長に就任。現在に至る。

 私はエコ・ファッションマガジン「ソトコト」の編集長です。88年にアフリカを訪れて感銘を受け,60回ぐらいケニアに行きました。ついにはマサイの酋長さんと交渉し土地の借地権を得て,ホテルの経営もしております。「ソトコト」はバンツー語で「木の下」「木陰」を意味します。ケニアでは木の下で結婚式も裁判もとり行われます。われわれの民族だとお釈迦様が木の下で悟りを開いた聖なる場所です。アフリカ人とアジア人は似ています。

 マサイ族は本来,遊牧民ですが,当時ケニア政府が定住化政策をとったため,農耕民になり,ニンジンとか野菜をつくり出しました。ニューヨークのお金持ちはサバンナに「動物と私」みたいなロマンを抱いて来るのですが,現場ではマサイのお母ちゃんがいろいろな野菜を育てており,それをゾウが食べに来るのをほうきで追っかけているような光景が繰り広げられました。ロッジの経営者は大半が白人です。彼らは「このままでは動物がいなくなる。ここは国立公園だからマサイを排斥しよう」と決議しかけたことがあります。日本人の私は農耕民の味方で,「ここはマサイの土地。彼らがここで農耕するのは仕方ないことだ」と主張しました。結局,決議はされずに村は守られました。

環境問題を身近に考えるのは女性

 日本で新雑誌を創刊するに当たり,やはり環境問題抜きでは語れないと思いました。環境先進国のドイツ,ニュージーランド,カナダ,それと北欧では環境にとても留意した新しい暮らしをしています。それを紹介しようと始めたのが「ソトコト」です。当初は8万部刷ったのに1,800部ぐらいしか売れず大変苦労しました。もともと男性誌ですが,3年ぐらいして,環境問題に関心があるのは実は女性なのだと気づきました。お母さんは自分の子どもたちに何を食べさせたらいいか考えます。女性は子孫のことを素直に考える人たちなんです。いま読者の6,7割は女性です。

 4年前にイタリアにスローフード運動があると聞き,調べてみました。スローフードというのは単にゆっくり食べるとか,地産地消のことではありません。北イタリアのブラという町でカルロ・ペトリーニという雑誌の編集者が始めたグルメの会が基本です。ローマにマクドナルドができる時に,子どもたちが食べたら,舌の感覚が単一化してママの複雑な味を忘れてしまうと立ち上がったのです。会員は昨年世界で10万人を数え,日本には47支部あります。そのスローフードの紹介をし始めてから「ソトコト」誌が売れ出しました。

 スローフード協会はブラの近郊に古いお城を買い「食の大学」も設立しました。地下はイタリア中から集めたワインを貯蔵しワインバーになっています。新しいブランド「バローロワイン」も世に出しました。穀物やワインだけでなく今や水産資源にまで興味を持ち,世界中から農民や水産業者を集め,トリノで大きなイベントを開いています。

健康で持続可能な暮らし

 そのうちアメリカで同じような運動をしている「ロハス LOHAS」という団体のことを知りました。「ロハス LOHAS」とは,「lifestyles of health and sustainability」の頭文字で,「健康で持続可能な暮らしを望む人たち」という消費者集団を指します。アメリカでトヨタの1代目のプリウスを買った人たちがロハス層と言われていました。宇宙開発とかに積極的な科学信仰派の人たちとは異なり,健康とか持続可能とかそういう新しい価値観を信じる人たちで,今では全米人口の37%に及ぶということです。

 毎年いろいろな商品展示会が開かれ,アメリカのロハス協会によると,26兆円の市場規模に拡大しました。それを私どもが紹介し,東京や名古屋地区などでロハスへの関心が高まっています。従来のエコロジストとの違いはたとえば食べ物です。エコロジストが健康のために玄米を食べる「玄米正食」を信奉しているとすると,ロハス層は玄米も食べるけれどもヒエやアワも食べる。今はやりの雑穀にして,白米にして食べる。おいしいし長続きする。それを私たちは「エゴから始まるエコ」と言っています。

 地球のために何かをするというより「自分のために環境にいいことをする」。中心軸が自分にあるのです。ヨガとかアロマセラピーなどに代表される新しい健康的なライフスタイルがロハスです。

 私はある日気づきました。「人類はもう折り返し地点を過ぎた」と。でも先行きには楽観的です。映画「3丁目の夕日」が当たり,ローリングストーンズは若い世代にも人気があります。われわれは20世紀の化石燃料の文明で行き着くところまで行った。これから過去のいろいろな事例の中をまたゆっくりと戻り,同じ出発点ではなく新しい価値観の場所にたどり着くのではないでしょうか。

ロハスを通じ新しい社会を創造

 現代の車社会はガソリンを大量に消費しています。そのガソリンも9割は熱に消え,推進力に使うのは10%です。BSE牛の問題もそうです。世界中に13億5,000万頭の牛がいますが,1頭育てるのに17人分の穀物が大量に消費されています。20世紀が最高だという価値観を,もう一度ロハスというフィルターを通して置き換えて新しい社会をつくることが人類の英知を信じる人たちの使命だと思います。

 ロハスの「持続可能」には多様性が必要です。日本人ほど多様な遊びができる民族はいません。大阪の人たちは遊ぶのが好きです。遊びの文化を活性化することがロハスの新しい世界へとつながるのだと思います。