大阪ロータリークラブ

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2006年3月3日(金)第4,105回 例会

よろこびを力に・・・

有 森  裕 子 氏

NPO法人「ハート・オブ・ゴールド」
代表理事
有 森  裕 子

1966年岡山県生まれ。就実高校,日本体育大学を卒業して(株)リクルート入社。バルセロナ・アトランタオリンピック女子マラソンで銀・銅メダルを獲得。後NPO「ハート・オブ・ゴールド」を設立,代表に就任。国連人口基金親善大使就任。'02年4月(株)ライツ設立,取締役就任。日本陸連女性委員会特別委員等多くの団体委員を務める。米国コロラド州ボルダ-在住。

 2日前にエチオピアから戻ってきました。特殊メイクのように顔が黒くなってショックを受けております。大阪は私がマラソンランナーとして生まれた場所です。人見絹江さんは同郷の大先輩ですが,彼女が亡くなられた地で自分自身が生まれたと思っています。初マラソンを走った大阪にいろいろな縁をいただき,現在の自分があります。本日は,平成10年10月10日にスポーツを通して自立支援をするために立ち上げたNPO「ハート・オブ・ゴールド」の話をします。

 私の生い立ちですが,両足とも股関節脱臼で生まれました。それを母が見つけ,両足を半年間矯正バンドでつり上げて股関節をはめて,何とか歩き始めたのです。今こうやって走れるのは,「走ること」に出会い,「走ること」の才能を持てたためです。それがすごく嬉しかったから「走ること」をあきらめませんでした。その気持ちが通じ,大阪で初めてマラソンに出て,そこで成し遂げたのが初マラソン日本記録でした。

アンコールワット行きが転機に

 1996年,アトランタのオリンピックを終えたとき,大阪のある新聞社の方から「カンボジアのアンコールワット周辺でハーフマラソンをやるから,来てくれないか」と誘われました。カンボジアは地雷がたくさんあって,義肢,義足がまだまだ必要だということはテレビで見て知っていました。カンボジアの地を踏んだのはその年の12月です。

 もちろんランナーとして参加しましたが,いろいろなことにショックを受け驚きました。自分の目の前に,子どもが手足のない子どもを抱いて寄ってきて,「お姉さん,これ買って。1ドル」と日本語で言うんです。物乞いをする子どもをカンボジアの大人が座ってじっと見ている,その姿は悲しかった。それでも,寄ってくる子どもたちの目がギラギラとしていて,生きることへの力が満ちていた。ものすごく人間としてステキというか,嬉しかったのを覚えています。

 97年の2回目の大会時はカンボジアの国内情勢が非常に悪く危険な状態でした。しかし,このとき,カンボジアに対する私の気持ちが大きく変化しました。走るぐらいなら日陰で休みたいという子どもばかりだった第1回目に比べて,子どもたちがものすごく変わっていた。1回目のときに提供したシューズやTシャツを身につけて前の日から練習している。その姿を見たときに,スポーツが生きる喜び,うれしさ,目標を子供たちに与えたと感じました。それまでスポーツといえば,タイムや成績ばかりに注目していましたが,もっと人間が生きるために大事なものを生む力を持っている,そういう手段としてスポーツを使えることを教えてくれた瞬間でした。

スポーツで絆や信頼感を学ぶ

 招待されて行くのでなく,組織としてマラソン大会に関わろうと立ち上げたのが「ハート・オブ・ゴールド」で,毎年のマラソン大会に続き,青少年指導者育成プログラムを5回やりました。マラソンだけではなく,サッカー,バレー,バスケ,バトミントン,レクリエーションの5種目を専門にしている人にカンボジアに来ていただき,現地でこれから指導者になりたい人や地方の先生方に指導方法を教えてきました。そこで学んだ人たちが今度は子どもたちに教えるのです。

 カンボジアは1970年代~80年代にポル・ポト政権による悲惨な内戦があり,指導者のほぼ3割が殺されました。ですから,いまだに指導者が足りません。援助をするときにコミュニティーをつくり,そこをベースに発展させるのは非常に有効な手段ですが,ポル・ポト政権は徹底的にコミュニティーを壊す政策をとり,子どもには親を親と思うなと家族の絆をすべて断ち切らせたのです。そんな背景もあり,カンボジアではグループを組織することがすごく難しい。その点,スポーツは集団競技もあり,仲間の信頼感でつながります。子どもたちが仲間を思いやったり,信頼したりすることを学ばすのに非常にいい手段だということが,最近わかってきました。

 スポーツのルールを通して社会のルールを学ばせることができる。最終的には心身の健康ということを考える一番いい手段になります。カンボジア側もスポーツの効用に関心を高め,小学生の体育の教科書になる指導要領の作成を手伝ってほしいという依頼が「ハート・オブ・ゴールド」に来ました。

ランナーが起こすパワーに期待

 国際協力事業団(JICA)と筑波大学の先生方と一緒に今年から作成にとりかかります。スポーツを通しての支援は学校施設のようなハードではなくソフトの支援ですから,目に見えてわかるものではありません。でも,今回エチオピアで会った大学生の女の子に仕事を聞かれ,「ランナー」と答えたら,「You are lucky」と言われました。そのぐらいランナーも含めスポーツをする人間が起こすアクションから得られるパワーを期待している人たちが,発展途上国には非常に多いと感じています。

 私はランナーとしても現役です。3年半ほど休んでいましたが,そろそろ走り始めないと体型を保てないのでトレーニングを開始しました。何のためと言われたら,来年の引退のためです。その場所が大阪であったら一番いいのですが。NPOの仕事をする中で自分が生きる軸というか,生きる力が少し太くなってきたと思っています。皆さんにはスポーツを通した社会貢献をぜひ応援し,たくさんのチャンスをつくっていただけたら幸いです。