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2005年11月18日(金)第4,092回 例会

印刷会社が取り組む仮想現実
~VRで文化遺産継承~

降 矢  祥 博 君(印刷業)

会 員 降 矢  祥 博 (印刷業)

1949年岐阜県生まれ。上智大学法学部卒業,'73年凸版印刷(株)入社。営業職,海外本部担当を経て,'04年関西事業部長として,取締役に就任。 '05年当クラブに入会。

 バーチャルリアリティー(VR),すなわち仮想現実とはコンピュータで生成された画像の中を自由に移動しながら,あたかも画像の中に入り込むかのような「臨場感」や「没入感」を体験することができる高度なデジタル画像技術でございます。

VRは疑似体験できるツール

 本来バーチャルリアリティーは航空訓練,宇宙開発,災害などの現実には体験できない,あるいは体験が非常に難しいことを疑似体験するツールとして発展してきました。今日では「時間と空間を越える新しい情報コミュニケーンョンの手段」として利用され,世界の文化遺産などをテーマにしたさまざまなコンテンツが制作されるようになりました。

 グーテンベルクが活版印刷技術を発明して以来,印刷というものはその時代,時代の情報だとか文化というものを後世に伝えてきているわけでございます。今日のわれわれの印刷業においても,その社会的な責任というのは変わっておりません。すべての印刷情報関連企業にとって,「情報・文化の担い手として社会に貢献する」ことを目指して,これら情報,文化を伝えていくのが社会的使命であると痛感しておるわけでございます。

 VRをより臨場感と没入感あるものとして体験していただくには,VRシアターが重要な役割を担っております。VRシアターというのは大型のスクリーンと滑らかな映像表示,そして操作性のよいコントローラーで,スクリーンに広がるコンピュータ画像を自由自在に操作し,その空間を自由に移動できる仕組みです。弊社・凸版印刷は現在までに8つのコンテンツを制作しました。そのうちの幾つかを紹介させていただきたいと思います。

 (映像とともに)

 1997年に制作した「システィーナ礼拝堂」でございますが,15世紀末にヴァチカンに建てられたシスティーナ礼拝堂の内部を再現しております。ミケランジェロをはじめとしたルネサンスの画家たちが描いたフレスコ画を鑑賞できます。最後の審判などの壁画や天井画はススで汚れておりましたが,修復した結果,壁画,天井画が洗浄されて,制作当時の鮮やかな色がよみがえりました。それらの絵を高精細なデジタルカメラを用いて撮影し,画像データのVRコンテンツを制作いたしました。

 こちらは1999年に制作いたしました「唐招提寺」でございます。唐の高僧「鑑真」によって開山された世界遺産である唐招提寺をデジタル技術で記録保存しております。東山魁夷氏による障壁画も間近に見ることができます。2004年には第2弾として解体修復中の金堂の内部構造を再現いたしております。このように保存や修復のため公開が制限されている文化財をVRでいつでも気軽に見ていただけるようになったわけでございます。

 次に,2002年に制作した「二条城」でございます。周囲の構造物との関係を考慮して,当時の鮮やかな色彩を忠実に再現できております。

公開制限の文化財も気軽に鑑賞

 これは2002年に制作した「マヤ文明・コパン遺跡」でございます。コンテンツは大きく4つのパートから構成され,「現在のコパン遺跡」,「802年ごろのコパン遺跡」,「ロサリラ神殿」,そして「マルガリーダ神殿」。VRのコンテンツとして作成した遺跡の総面積というのは,先ほどの唐招提寺の約10倍の大きさになってございます。

 最後に,文化遺産テーマで培ってきましたバーチャルリアリティーの技術を使いまして,教育ツールとしてのコンテンツであります「スペースシミュレータ」を若干ご覧いただきたいと思います。教育のツールとして使いやすいように,一応メニューの形式により構成してございます。では,実際に幾つかのデモをご覧いただきたいと思います。

 (映像とともに)

 これは地球でございます。スクリーンの右の上のほうに日付が出ております。時間の進み方をゆっくりして,現在の時刻に合わせてみます。もう少し地球に近づいてみますと,ご覧いただいているとおり日本は今,昼でございまして,当然アメリカのほうは夜であります。少し地球の後ろの方に回り込んで見てみます。当然のことながら,アメリカが夜となっておりますので,ちょっとライトをつけて明るくしてみたいと思います。夜の部分もこのように見ていただくこともできるようになっております。

VRで社会文化活動に貢献

 ここで地球に住むわれわれが,普段見ることのできない月の反対側を若干見ていただきます。そのままでは真っ暗で何も見ることができませんので,ライトアップしてみます。──これが月の裏側でございまして,われわれが日ごろ見ている表側よりもさらに起伏に富んだものであるということがおわかりになっていただけるのではないかと思います。

 このようにバーチャルリアリティーというのは,ストーリーをみずからがつくっていくことができて,その内容は無限に広がってまいります。バーチャルリアリティーの技術というのは,今後もますます身近なものになっていくと思います。

 ご紹介しました文化遺産をテーマにしたコンテンツを今後もさらに続けてまいりますし,加えてさまざまなジャンルの高精細映像とVRのテクノロジーを融合して,スペースシミュレータのような,文化遺産だけではなくてあらゆるジャンルに取り組んでまいりたいと思っております。多くの人々にいろいろな場面で,こういう臨場感,没入感が体験していただけるように,弊社としてもますます努力して社会文化活動に少しでもお役に立てればと思っております。