大阪ロータリークラブ

MENU

会員専用ページ

卓 話Speech

  1. Top
  2. 卓話

卓話一覧

2005年10月28日(金)第4,090回 例会

糖尿病の予防

春 日    雅 人 氏

神戸大学付属病院 病院長
大学院医学系研究科 教授
春 日    雅 人

1948年東京生まれ。'73年東京大学医学部卒業,'79年米国留学(Diabetes Branch NIH,Joslin糖尿病研究所)。'83年東京大学医学部助手,'89年同医学部講師。現在神戸大学大学院医学系研究科(糖尿病代謝・消化器・腎臓内科)教授,日本糖尿病学会理事長日本糖尿病学会シオノギ・リリー賞,持田記念学術賞,ベルツ賞,日本糖尿病学会ハーゲドーン賞等受賞。

 糖尿病という病気についてお話しいたします。血液の中の糖(ブドウ糖)を示すグルコース(血糖)が2~3日とか1週間ぐらい上がっても糖尿病とは言わず,それが何カ月もの単位で上がっている場合を糖尿病と言います。皆さんに一番申し上げたいのは軽症の糖尿病というのは自覚症状がないので,気をつけていただきたいということです。

自覚症状がない糖尿病

 家庭の医学書にはいろいろな症状,例えば疲れやすい,尿の量がふえる,喉が乾く…,いろいろ書いてあります。そういう自覚症状が出る糖尿病はある程度重い,かなり進行した糖尿病とお考えいただきたい。軽い糖尿病なら食事はおいしいし,体重は減らず,非常に活動的になって体調がいい,自分はどこも悪いところがないのではないかと思われる。糖尿病は,きちっと血糖を管理すれば決して恐い病気ではないのです。しかし,自覚症状がないままに,血糖の高い状態が何年か,それも1年,2年ではなく5年,10年と続きますと,合併症が起こります。このため,世間では恐い病気と言われるのです。

 糖尿病の恐い合併症は大きく2つに分けられます。1つは,細い血管が障害されるような合併症で,これは目とか腎臓とか神経が悪くなることです。もう1つの動脈硬化は心筋梗塞とか脳梗塞とか,大きな血管が悪くなる合併症であります。特に動脈硬化の合併症は糖尿病があると起こしやすく,糖尿病がごく軽い方でも動脈硬化を進める要因になるので,早期から血糖が少しでも上がらないようにすることが重要と考えられています。

 細い血管の障害で目が悪くなって失明なさるという方は,1年間に大体3,500人ぐらいという統計がございます。腎臓が悪くなって人工透析をなさらなければいけない糖尿病性腎症ですが,毎年日本で1万3,000人ぐらいの方が人工透析に入られます。糖尿病の方の平均寿命は男性で10歳ぐらい,女性で13歳ぐらい短いという報告があります。

 日本ではこの30年間か40年間に30倍~40倍糖尿病の方が増え,740万人に達し,予備軍を入れると880万人という厚生労働省の平成14年度統計がございます。アメリカの糖尿病の患者は2,000万人で,2003年に比べて14%増加しているという報告がございました。2000年の全世界での糖尿病の方は1億5,000万人で,2010年には2億2,000万人に,50%ぐらい増える。東南アジア,東アジアで増加率が非常に高いと言われています。

 糖尿病の予防では,「食事と運動」の2つに気をつけていただくしかない。結局自分で自分のいろいろな欲望を規制していただくということですので,ちっとも医学の進歩がないではないかとおしかりを受けます。幾ら食べても,全く体を動かさなくて汗をかかなくても糖尿病にならない薬をつくるのがお前たちの役目ではないかと言われます。非常に申しわけありませんが,まだ私どもの研究ではそこまで進んでおりません。

食事は「ゆっくり,腹八分目」

 食事に関しては,例えば1日何カロリーと言われても,実際の生活でどうするんだということになる。いわゆる「腹八分目」にしてほしいということと,「いろいろな種類のもの」を召し上がっていただきたい。それから,「脂の非常に多いものは控えて」いただきたい。「会話をしながらゆっくり」召し上がる,しかも「規則正しく」召し上がる,おやすみになる2時間,3時間前には控える。そういうことが非常に大事だと思います。

 人間の体は急激にやせようとしても,必ずもとの体重に戻そうといういろいろな仕組みがあります。短期間に2,3キロ,ある程度の減量をするのはそれほど難しくないと思うんですが,一番難しい点は,その落とした体重をずっと続けることなんです。人間は,もとの体重の5%から7%以上落とすと,多くの場合またもとに戻ろうとする力が非常に強く働いてダイエットを失敗する。ですから,医者たるもの,最初から10%を目標にして減量しろと言わずに,やはりせいぜい5%ぐらいを目標にして,その段階で,その減量した体重をある程度の期間維持するように指導しろというふうなこともあります。

長めに有酸素運動を

 もう1つは運動ですが,一番大事なことは,皆さんがその運動をしていいか,いわゆる「運動療法」していいかどうか必ず1回チェックして,よろしいということになればやっていただきたい。「有酸素運動」といいますか,体の中に酸素を取り込むような運動が非常に重要です。短距離競争とか重量上げみたいに息をしないで力を入れるような運動は適当ではありません。また,「強さと時間と頻度」を必ず念頭に置いていただきたい。どのぐらいの強さの運動を,どのぐらいの時間,どのぐらいの頻度で行うかということです。早足で歩く,サイクリングする,少し汗ばむような運動をしていただきたい。時間は20分から30分以上続けないと脂肪が燃えない。頻度は1週間に3回以上です。

 最後に1つだけ申し上げたいのは,ご自分は糖尿病でないと思われても念のため,定期的に,1年に1回で結構だと思いますが血糖を測定されて,自覚症状に頼らずに糖尿病でないことを確認していただきたいのです。少し糖尿病と言われた場合でもすぐ早期治療といいますか,ご自分で気をつけて,なおかつ主治医の先生に管理していただいて,糖尿病が進んで合併症が悪化しないように気をつけていただきたいと思います。