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2005年8月26日(金)第4,082回 例会

総合科学技術会議の1年半

岸 本  忠 三 君

会 員(医学研究) 岸 本  忠 三

1939年生まれ。 '64年大阪大学医学部卒業, 第三内科入局。 '79年医学部病理病態学教授, '83年細胞工学センター教授, '91年第三内科教授。'97年大阪大学総長を経て,現在大阪大学名誉教授, 総合科学技術会議議員。日本学士院会員。文化勲章等を受賞。
当クラブ入会1997年。'03~'04年度会長。PH準フェロー・準米山功労者。

 内閣府の建物の中に総合科学技術会議があります。科学技術というと,遠いところの話というのがほとんどの人の考えです。しかし,本当は非常に大事なことです。

 100年前だったらここにいる人はほとんど生きていない,平均寿命は40歳です。今や80歳を超えても元気,という時代になりました。これは100%科学技術のお陰です。

日本の発展を決める科学技術

 1年間に日本は約3兆6千億円の税金を科学技術に使います。総合科学技術会議の役割はそのお金をいかに効率よく使うか,そして21世紀に日本が発展していくために科学技術の方向を決めていくことです。

 会議の議長は総理大臣です。最終的な決定をする本会議は月に1回あり,その時に科学技術がいかに重要かという話をしています。

 8月11日には,「重量子線によるがん治療」の話をしました。重量子線というのは,炭素の原子から電子を全部とると原子核になりますが,炭素の原子核は陽子が6個と中性子6個からなるものです。したがって,プラスに荷電しています。それをマイナスの電圧をかけて加速します。それからシンクロトロンというところで100万回ぐらい回します。そうすると,炭素の原子核は,光の速さの80%ぐらいの速さの弾丸になります。その弾丸を患者のがんに照射するわけです。一番強いエネルギーを放射してがんを殺します。早期の肺がんでは,1回数分の照射で治る例がたくさんあります。

 国は千葉に放射線医学研究所をつくりました。10年前から照射を人に使い始め2年前から高度先進医療で使えるようにしましたが,予約がいっぱいです。したがって,日本に幾つかそういう場所をつくることが必要です。やっぱり大阪にもあればいいのではないかと思います。

「ペット(PET)」の話もしました。陽電子放射断層撮影装置のことです。ブドウ糖などにアイソトープを付けて,ガンマー線が出るようにして注射します。非常に働きの盛んな細胞にはエネルギーが必要ですから,ブドウ糖を取り込むわけです。これにより,どんな小さながんであっても,わかるようになります。科学の進歩で小さながんでも見つけられるようになったという話です。

 バイオテクノロジーでは,例えば稲の遺伝子は全部明らかになりました。中国と日本で分析しましたが,日本が大部分の役割を果たしました。稲の遺伝子が全部わかると,組み換えでやらなくても,ある部分を目印にすると,10年かかった品種改良が数年でできるようになります。北海道でもできるコシヒカリも生まれました。

省庁のカベを破る

 4月には「花粉症」の話をしました。花粉症緩和米というのを農水省がつくっています。スギ花粉症を起こすアレルゲンの遺伝子はわかっており,稲の遺伝子も全部わかっているわけですから,その中へ組み込んで花粉症のアレルゲンの入った米をつくります。人間は,口から入ったものに対してはアレルギー反応を起こさないというのが免疫の原則ですから,食べて花粉症を治す米をつくるわけです。

 日本の科学行政の問題は,省庁の壁が縦割りということです。例えば,鳥インフルエンザがカラスに感染したら環境省の仕事,鶏に感染したら農水省の仕事,人に感染したら厚生労働省の仕事,DNAがどうかなど基礎的なことを研究するのは文部科学省といった具合です。一つの鳥インフルエンザのウィルスでもそれぞれ皆が別々にやっているわけです。

 なかなか省庁の壁を破ることはできませんが,ことしから同じようなものは一つのところへ集めて,効率的にやりましょうということにしました。

 官僚の一番の業績はいいプロジェクトを計画し,どれだけたくさんの予算を取ってくるか,ということです。各省庁がいろいろなプログラムをつくって持ってきます。それに対して我々が,S,A,B,Cの4段階の評価をします。Sがつけば予算が増えるなど評価で予算が決まります。したがって,ちゃんと点数づけをすることが,一番大きな我々の仕事です。それによって国の科学の方向性が決まります。

モノからヒトへの投資が大切

 第2期の科学技術基本計画はことしで終わります。この5年間で,24兆円を科学技術に投資しました。欧米先進国並みに科学予算にお金を出すようになりました。しかし,科学の分野で世界から顔の見える人の数が,圧倒的に少ない。創造的な科学は,個人個人の力がなければならない。科学というものは芸術や音楽,絵,文学と同じことです。そういう突出した人をつくっていかなければなりません。

 来年から5年間の科学技術基本計画を今つくっています。お金はある程度のところまでいきました。しかし,第3期目はやっぱり人をつくることが一番大事です。第3期の基本方針は「モノから人へ」。人に投資をすることが重要です。そのためにはどうすればいいかを考えていくことが必要です。

 科学技術にどれだけのお金を投資し,どこに重点的に配分し,どう変えていくかを決めていくのが我々の役割です。科学技術会議が指令塔としての役割を果たすためには,そこが言うなら仕方がない,と思わせるものでなければなりません。そのように尊敬されるものでなければ成り立たないと思います。