大阪府出身。OLの時に,自身が自律神経失調症になったことをきっかけに渡米。カリフォルニアのエサレン心理研究所にて心理学を学んだ後,ニューヨークで心理カウンセラー,セラピスト,ドクターなどとの幅広いネットワークを持つ。帰国後,(株)アイ・ディアカウンセリングセンターを設立し,現在同社代表取締役。プロスポーツ・オリンピック選手や芸能人,企業経営者などのメンタルトレーニングで成果をあげる。テレビ番組出演や著書も多数。
今日は組織、個人を強くするストレスケア、いわゆるメンタルトレーニングのお話をします。この夏、さまざまなスポーツの世界大会が各地で行われました。つい先日、体操の世界でも大学の世界選手権がトルコであり、私の教え子が金メダルをとりました。
少し前まで日本人はとてもメンタルに弱い、だからオリンピックの舞台では、実力が上でも負けてしまう事が多かった。でも皆さんは昨年のアテネオリンピックで日本人のメンタルが強くなりつつあることに気づかれたのではないでしょうか。水泳で金メダルをとった北島康介君からは「超気持ちいい!」というセリフが飛び出しました。
先日、体操で金メダルをとった私の担当選手は若干20歳、昨年までは無名の選手でした。私がメンタルトレーニングを担当してから半年になりますが、メキメキと力を発揮してきました。メンタルトレーニングの面白いところは、「もともとある力をいかに最大限引き出して結果を出すか」というところに集約されます。たった半年のメンタルトレーニングで、なぜ無名の選手が金メダルまで到達したのでしょうか。メンタルトレーニングには3つのキーワードがあります。
第一は「感情のコントロール」です。スポーツ選手がけがをしたまま不利な戦いを強いられる時、感情面では頑張りたいと思う気持ちと、もう嫌だ、恐い、負けるんじゃないかと思う恐怖心があります。今までの精神論や根性論では恐怖心は自分の力で打ち勝つものとされてきました。ところが、感情というのは不思議なもので、表に出さずに中にため込むほど、大きなストレスになり、パフォーマンスを著しく落としていくのです。
私は今、体操とテニスの日本代表選手、Jリーグのチームから依頼を受け、個人だけではなく団体そのものを強くする手助けをしています。これまでスポーツの世界でもビジネスの世界でも、経験者が後輩に心の持ち方とかを伝受していくというのが日本流のやり方でした。しかし、メンタルの強い監督がメンタルの弱い選手を教える時にはギャップがあって、弱い選手はどんどんつぶれていく。会社組織でも同じです。このギャップを埋めていくことが組織を強くするのです。
まず、自分の感情を認識させて、その感情を自分でマネジメントできるということをしっかりと教えるのです。恐怖心はあってもかまわない。それを本番では必ずコントロールできるという自信をつけさせることが大切です。私は選手の皆さんに、「マイナスの感情を吐き出して強くなって」と言っています。今の恐い気持ち、自信のない気持ちを3分、5分と時間を決めて、試合の直前に吐き出してもらいます。クリアリングという処方です。そうすると、不思議とすっきりした顔になります。感情をしっかりコントロールできるということを本人が学ぶことが大切です。
組織でも不満やマイナスの感情が蔓延してきたときに、それをただ抑圧するだけだと、生産性が落ちるなど弊害が出てきてしまう。感情のコントロールは意外にもパフォーマンスと関係があるのです。
第2は、「イメージトレーニング」です。自分が成功しているイメージをきちんと頭で描くのです。1年に1回だけ本番前に描く人と、毎日朝、昼、晩、1日3回、自分が成功しているイメージを描く人とでは大きな差があります。私たちの脳は、自分が頭の中でイメージしたことを体によって再現するという構造になっているのです。リアリティーを持ってイメージすることを習慣化していくことは非常に大切です。世界のトップを目指す選手は、表彰台で聞く君が代、会場を包む拍手の音、金メダルの重さを五感を使ってイメージします。すると脳と体の一体化が起こるのです。最近ではイメージトレーニングは老人ホームでの痴呆の防止やがんの治療にも使われています。
第3は「ミッションマネージメント」、すなわち「使命感」です。「あなたは何のためにテニスをしていますか」「何のために金メダルをとりたいのですか」と問いかけます。企業においては目標設定とか、やる気・モチベーションに当たります。私たちの存在意義、何のために自分はここにいて、それをすることで自分はどういう満足感を得られるのかということを深く考えさせるのです。日本代表選手になり、世界で一番を目指すのなら、「何のために自分は存在しているのか」ということをしっかりと深く考える必要があります。
一人ひとりは人生も違います、考え方も性格も違いますから、「あなたにとっての金メダル」の意味を考えさせることが大切です。人生を何に使うことをあなたは約束をしますか。その結果を出すために自分に対してどういう約束ができますか、ということです。満身けがをして棄権をしようかという大会でも戦い抜いて記録を出した若い選手もいます。最後まで投げ出さないという約束を自分にしていたからです。その仕事をする意味、一生かけて何を残すか、その心の奥から沸き上がってくるその情熱と、自分のミッションと呼ばれる目的が一致したときに、奇跡的な結果が出るのです。日本人は団体戦に強い。個人よりも団体で勝てる国というのはそうそう世界にない。それは日本の企業が強いということとイコールです。より強い組織、人づくりを目指していただければ、うれしく思います。