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2005年1月28日(金)第4,056回 例会

上町台地は世界遺産に値する

河 内  厚 郎 氏

評論家 文化プロデューサー 河 内  厚 郎

1952年西宮市生まれ。一橋大学法学部卒業。「演劇界」の歌舞伎劇評募集で佳作となり, 執筆業に入る。 '87年「関西文學」編集長。 '91年事務所を設立。文化プロデューサーとして「咲くやこの花賞」, 「読売賞」など受賞。 NHK番組審議員, 毎日新聞紙面審議員などを歴任。 現在, 夙川学院短期大学教授。 著書多数。

 大阪は文化意識が弱いと言うけど,私は普段仕事をしていて,そうは思いません。にもかかわらず歴史の教科書とかに出てくるときに,大阪が全体的なイメージで語られていないことが多過ぎる。だから歴史的なイメージの発信で,何か戦略を打ち出さないと忘れられてしまいます。

でっかく発信

 何をまずイメージとして発信していこうかというときに,やっぱりでっかいものをバンと,しかも本格的なものを出したほうがいいんじゃないか。それで「上町台地のユネスコ世界遺産登録」に乗り出してみたらどうか,取りあえず,そういう運動を起こしてみようという話なんです。

 今から11年前に世界ユネスコ世界遺産の運動が始まったころは,法隆寺とか姫路城とか単体の建物だけでした。後にはゾーンで登録されるようになってきまして,例えば,近鉄電車から見えるあの平城京跡の朱雀門が入っているんです。あれができたのは5~6年前でしょう。時代考証が難しいから,柱は朱雀門で,屋根は四天王寺の瓦でといろいろ工夫して合成してつくっているようなんですが,それでもゾーンとして入っているわけです。

 そうすると,大阪城の天守閣は昭和6年に市民がつくり直した鉄筋コンクリートですが,掘ればもっといろいろな物があります。太閤さんの石垣も眠っていると思います。四天王寺も住吉大社もいろんな物が残っている。どれも完璧にそのまま残っているわけじゃないけども,一つの歴史ゾーンとしては超一級品じゃないかなと思うんです。

 大阪城の南に難波宮跡というのが残っております。上町台地の北から大阪城,難波宮,四天王寺,住吉大社,さらに南まで延ばせば大仙古墳(仁徳天皇陵)ぐらいまで入れれば,まずキャッスルが一番北,ロイヤルパレスの跡があって,テンプル,シュラインがあって,トームがある。この流れを見たら,かつて日本の伝統的建築物のスタイルというものが並んでいた場所である--これは実際に並ばせたと思います。

 古代の上町台地を想像しますと,これは十分に世界遺産の登録運動に値するんじゃないか。やってみないとわからない,始めてみたらどうかと思うんです。最近は申請が多いために,どんな文学作品の舞台になっているんだとか,どんな絵に描かれているとか,そんなことまで調べるそうです。私はそれを今,全部調べてみています。

 住吉大社に行きますと,川端康成の「反橋(そりばし)」という小説の文学碑が建っています。大化の改新の詔はどこで出たかちょっとよくわからないのですが,難波宮という説もあるんです。そういうことを知っているだけでも,上町筋を歩いていて気持ちが変わってくるわけで,やっぱり長い目で見て歴史意識はすごく大事なことじゃないかなと思います。 石原慎太郎さんが古代からずっと日本史を教えるのはやめろ,と言っています。自分たちとどうつながっているかということが全然見えないので,今からさかのぼっていくように教えたらどうだという大胆な提案をなさっているんです。今は漠然と習っているだけじゃないかという気がします。

関空を古墳の形に

 この間,西宮の短大で「火垂るの墓」という野坂昭如さん原作のアニメ映画を上映したんです。夙川辺りが克明に出てくるんですが,終わった後に,あの舞台に出てくるのはこの辺だと言いましたら,皆びっくりしていました。ある一点ピンと来たら全部ピンと来るんですが,そこを突破しないと上の空,興味のないことに関してはほとんどの人がそうなんです。歴史に興味がなかったら困るので,その取っかかりみたいなものをつくってほしいなと思います。

 イタリアなんかレオナルド・ダヴィンチ空港なんて名前をつけて,文化的にも平気で押し出します。関西空港も前方後円墳の形にしてみたらどうでしょうか。名古屋の中部空港は強敵です。関空辺り,大阪湾側も歴史的な演出をしていったほうが,生き残りにはいいんじゃないかな。ぜひ文化的なデザインを考えてみてほしい。

「オンリー」「ファースト」

 今後の課題としては,大阪を世界にどう発信するか。例えば「天下の台所と呼ばれました」というのを「Kitchen of Japan」と翻訳されたら,座敷はないのか,書斎はないのか--英語では通じないわけです。そこに興味を持ってくれてない人に一番わかりやすいのが「オンリー」とか「ファースト」がくっつくことだと思います。天神祭の説明も難しい。大阪天満宮の門前というのは,川端康成が生まれたところなんです。「ノーベル賞作家の川端康成が生まれたのがこのシュラインの門前で,そこの祭が天神祭です」。そういう一語があると,頭に残る。

 小ネタというか,とっておきのネタを頭に仕入れて「オンリー」と「ファースト」と言っておくとわかりやすい。そういう意識を高めていくためにも,日本で最古の都市ゾーン・上町台地の世界遺産登録運動を進めたいと思いますので,新聞にそういう記事が目にとまれば注目していただきたいと思います。