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2004年11月19日(金)第4,047回 例会

開かれた美術館をめざして

蓑  豊 氏

大阪市立美術館
館 長
蓑  豊

1964年慶應義塾大学文学部卒業。'76年ハーバード大学美術史科大学院終了。同年カナダ・モントリオール美術館東洋部長。
'85年米国・シカゴ美術館,中国・日本美術部長。'88年同美術館東洋部長。'96年大阪市立美術館長,現在に至る。

 26年間,アメリカとカナダにおりまして,帰ってきて非常にカルチャーショックを味わい,なかなかそれから抜け切れていません。日本の美術館がもっと皆さんの生活の一部として成り立たないといけません。そうでないと「美術館の冬の時代」が見えてきます。美術館がこれからの経済の発展で大事なことかということを,理解していただければと思って,きょうお話しさせていただきます。

 今まで経済が文化を支えてきたという思いがありますが,文化が経済や技術を支えてきたお陰で日本の経済が大きくなったということを忘れないでほしいんです。文化というものはなかなか目に見えないのですが,大変な力を持っているんだなということをもう少し理解してほしいと思います。

金沢市に美術館

 政府は文化に対して本当に恥ずかしいぐらいの予算しかつけていない。恥ずかしながら中国や韓国の予算にも達していません。日本はすばらしい文化のある国です。経済や技術を文化が支えて,感性ある国ができてくるわけですから,やはり美術館というものがこれから「まち」をつくらないといけない。まちが美術館をつくるんじゃなくて,美術館がまちをつくる,そういう思いが私にございました。

 私は1年半前に「金沢21世紀美術館」の館長に就任しました。この10月9日にオープンしまして大変な賑わいです。1カ月ちょっとで21万人という,現代美術の美術館としては考えられない人数の人が来ております。普段の日でも3,000人~4,000人の人が来ております。1年半前「なぜこの金沢でわけのわからない現代美術,がらくたを買っているのか」とか「この一番経済が苦しいときに,金沢市3,000~4,000億円の予算の中で200億円というお金を費やして,なぜ美術館を造らないといけないか」とか,いろいろなところで質問されました。その都度,美術館が皆さんの生活の中に入ればどれだけの経済効果があるかということを,100回近くいろいろなところに行って説きました。

 最初に始めたのが「ミュージアム・クルーズ」というプログラムです。金沢には90校の小・中学校があり,生徒数は4万1,000人。その4万1,000人を半年のうちに美術館に連れてきて,感動を与え,その子どもたちがいつかまた自分たちの子どもを連れてきてくれるという願いを込めて,5,000万円という予算をつけていただきました。

美術館の経済効果

 美術館が大事かということを知っていただきたい。天王寺美術館は,周りの環境が恐いというようなことを耳にしますが,あの圧倒されるような立派な建物は日本中探してもありません。いい企画をすれば多くの人が来ます。3年前に企画した「フェルメール展」のときも,たくさんの人が来ました。約10億円かけてフェルメール展をやりましたが,60万人が来たということは,大阪市にどれだけのお金が落ちたかということも知ってほしい。交通機関を使って,食べて,飲んで,デパートにも行ったでしょう。期間中の2カ月半の間に,何百億円というお金が落ちているわけです。

 金沢で1カ月半に21万人もの人が来たということは,大変なお金が金沢に落ちている。入場料だけが金沢市に入っているわけではない。年間7億円という運営,30万人入っても1億5,000万円です。しかし,それでたくさんの人が買物し,飲んで,食べて,交通,あらゆることを挙げると何百億円ものお金が金沢市に落ちる。商店街の人も本当に喜んでいます。美術館ができて,これだけの人が来るとまちが変わります。

 天王寺の界隈は,皆さんのお陰で本当に変わりました。それまでは美術館に来るお客と,うちに来るお客は全然関係ないと言っていたお店の人も,フェルメール展で普段の何百倍という売り上げがあったわけですから,美術館にたくさんの人が来るということが皆さんにも貢献しているということがはっきり分かったわけです。お陰さまでカラオケもなくなりました。展覧会にたくさんの人が来なかったら,カラオケはまだやっていたと思います。今は鳥の声もよく聞こえます。

美術館を応接間代わりに

 天王寺美術館は昭和11年に開館しました。立派な建物がありますから,あとはすばらしいソフトで勝負して,たくさんの大阪市民に喜んでもらう。皆さんの意識を変えることも大変なことです。市民の税金なんです。それを言ってもなかなか変えてもらえないというのが現状です。これは金沢でも一緒です。税金を使ってすばらしい建物を造っていただき,すばらしいコレクションができている美術館を,皆さんの応接間として使ってほしい。皆さんがもっと自由に,プライドを持って美術館を自分たちのリビングルームとしてお使いになるという気持ちがあれば,このまちは変わると思います。

 これからの日本の美術館は皆さんのプライドであり,美術館があることによってまちが変わります。昔はお城ができて城下町,お寺ができて門前町ができたように,美術館ができてミュージアム通りができる。そして,美術館が皆さんの生活の中に溶け込んでいってほしいと願っています。皆さんの協力,ご支援がなければ美術館は長続きしませんし,発展もありません。文化が経済,技術をつくるということを肝に命じて,話を終わらせたいと思います。