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2004年10月8日(金)第4,041回 例会

新たなる事業展開と職業奉仕
~斜陽産業から成長産業への挑戦~

川 田 達 男 氏

会 員 川 田 達 男

1940年生まれ。'62年セーレン(株)(旧・福井精錬加工(株))入社。'81年取締役,'85年常務, '87年取締役,2003年代表取締役社長・最高執行責任者。福井経済同友会代表幹事,(社)福井県労働基準協会会長,福井商工会議所副会頭などの公職につき,2001年雑誌「財界」経営者賞受賞。
'88年当クラブ入会。'91年SAA,'95年国際奉仕委員長・理事。
(繊維加工業)

 われわれは職業を通じて付加価値や利益をしっかり生まなければならない,それがあって道徳水準,あるいは奉仕があるんだろうと思います。実は私どもの事業は,この3つのバランスを大幅に崩してしまいました。一番肝心の付加価値や利益を生むことができなくなったわけです。ちょうど創業100年目にして企業存亡の危機を迎えました。17年前のことです。

生き残れる企業目指し

 そのとき社長のバトンが飛んできました。「21世紀に生き残れる企業にしろ」ということです。変えることを一つのテーマに,生き残る方法を考えようということでした。今までの繊維産業の常識,あるいはセーレン100年の常識を全部捨てて,繊維産業から成長産業へ転換ができないか,脱却できないかということですが,なかなか一朝一夕でこれは不可能です。私どもが100年間蓄積した技術資源,あるいは成長の遺伝子といいますか,そんなものを見つけ,異業種に転換し生き残れる企業にしたいということでした。こういう次第で「非衣料・非繊維化」,21世紀はITの時代になるだろうということで「コンピュータを使おう」,それから「グローバリゼーション」。この3つを戦術として企業の改革を進めました。

 企業を変えるときに,理念なき行動は意味がないので,バックボーンとなる経営理念を確立しないといけません。「21世紀のグッドカンパニー」としてしっかり生き残れる企業にするにはどうしたらいいか。それは「お客様・株主・地域社会から評価され,尊敬される企業,社員が誇りを持って仕事ができるような企業」ということです。社員から「のびのび いきいき ぴちぴちと働けるような会社にしてほしい」という声がありまして,これが2,500人の社員の共通した言葉になっております。

 「のびのび」と仕事をすれば,「自主性」を持って仕事ができる。「責任感」を持って仕事をすれば「いきいき」と仕事ができるだろう。「使命感」を持って仕事ができれば「ぴちぴち」と仕事ができる。私どもの持っている成長遺伝子を思い切って異業種へ展開し,繊維産業からの脱却,斜陽産業からの脱却をしたい,そういう思いでした。

繊維から異業種に転換

 結果的には,繊維技術を核としたシーズの具現化というか,製造技術,ツール,そして最終的に異業種での製品の開発ができました。自動車関連で自動車の内装材,シートとか天井とかドア周りはほとんど繊維でして,日本の道路を走っている2台から3台に1台は私どもの製品です。それから,ハウジング関連,バイオ・メディカル関連,またパソコン上でデザインされたデータを直接生地にプリントするシステム,ITですね。今,売り上げのうち,85%がこういう新しい仕事に生まれ変わりました。

 本日は,2つのことを紹介します。1つは,セリシンという医療関連の開発です。それから,あなただけ,私だけのものをIT技術を使ってつくるシステム。ITを利用してそういうシステムをつくっていこう。そういうIT活用のパーソナルオーダーです。

 まず,セリシンです。私どもの会社は116年前に絹織物からスタートしたわけですが,今も少しその辺の仕事が残っています。その職場で仕事をしている女性の手が,手だけを見ますと年齢が全く分かりません。これがヒントになって,技術部門で研究していきますと,カイコのまゆを構成している部分が絹糸になり,それを覆っているのがセリシンというタンパク質,これが抗菌,防臭,保湿,そして紫外線とか外部のいろいろなものから守っていることが分かりました。このセリシンというタンパク質から見つかりましたのが抗酸化機能で,細胞を老化させない。それから,細胞の増殖機能,強力な保湿機能,あるいは美白機能,そういう機能が見つかりました。医薬品に商品化しようと思いますと,非常に時間がかかります。早く商品化できないかということで,化粧品として商品化いたしました。これを使うと細胞が老化しない,強力な保湿機能でアトピーにも効くとか,美白機能があります。

 次はITの活用です。ビジネスモデルとして特許を取っているものがあり,世界で私どもだけが量産,あるいは生産をしています。コンピュータで自由自在に企画をしまして,これをデジタルデータにしてつくります。今まで繊維でいいますと,2,000メーター同じものをつくらないとコスト的に合わなかったのですが,1着でも,1メーターでも,違った色,柄,サイズ,デザインが連続して生産できるようになりました。

人的資源で仕事を拡大

 私どもの繊維産業からメディカルとか,ITとか,自動車とか,ハウジングとか,あるいはエレクトロニクスなんかもつくれるとか,そんなことになっております。これから持っている技術,われわれはたいしたことがないと思っておりましたが,「のびのび いきいき ぴちぴち」というこの人的資源が,自主的にこういう仕事を広げてくれました。そんなことで,職業を通じて付加価値,道徳水準を上げていく,奉仕の精神,この3つのバランスが崩れないようにしっかり歩んでいきたいと思っております。