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2004年4月23日(金)第4,021回 例会

景気回復が実感できる指標あれこれ
TDBの景気動向調査からみる大阪の景気

賀 島 泰 雄 氏

(株)帝国データバンク
取締役大阪支社長
賀 島 泰 雄 

1943年大阪府生まれ。立命館大学文学部日本文学科卒業。67年株式会社帝国データバンク入社。熊本支店長,岡山支店長,広島支店長,福岡支店長を歴任。02年取締役経営戦略本部長。03年取締役大阪支社長。

 日本の経済は,おおむね昨年春ごろから回復基調になったのではないかというのが一般的な見方です。株価を見ると昨年4月の7,693円のバブル後最安値から,今年3月末で11,715円とかなりの上昇です。内閣府発表の景気動向指数は昨年5月以降連続して50%を上回っています。10~12月のGDP成長率も年率6.4%であり,3月の日銀短観では2004年1~3月の大企業・製造業の景況感はプラス12ポイントと97年6月以来の高水準です。低調と言われた非製造業も前回の0から5へと7年4か月ぶりのプラスです。

 中小企業の景況感は大企業に比べるとあまりよくなくて,製造業はマイナス3ですが,前回マイナス10ですからかなり明るさが出ています。非製造業はマイナス20ですが,前回の25からはよくなっています。

 近畿地区は製造業がプラス・マイナス0と12年ぶりにマイナスを脱したところです。

力強さを示す3つの特色

 以上のような各指標に見られる景気回復は三つの特徴があります。企業の自律的回復,企業の構造改革による回復,中国景気に代表されるアジア圏景気による回復です。

 公共投資が5%ずつ4年連続減少している中,制度融資として98年10月からの30兆円の特別保証枠などのない回復は,自律的な回復と言えると思います。また構造改革とは,不良債権や過剰債務処理,資産処分といったバランスシートの調整,リストラ,賃金カットなど労働配分の適正化,技術革新による新製品創出など,利益率・生産性の向上です。そして中国の爆発的景気によって,部品・素材など中間財のアジアへの輸出が伸びたということ。短絡的に,中国の安価な製品が流れ込んで日本経済にデフレを引き起こしたと誤解もされましたが,総じて日本でしか作れない,高付加価値・高利潤の中間財によって利益を上げたと言えるでしょう。

 こういう特色を考えると,今回の回復は,多少力強くなりつつあるのではないかと思われます。

超低金利は「天の助け」

 次いで私どもの統計によって景気を見ますと,2003年の倒産は16,624件で,前年比14.6%もの減少。4年ぶりの減少で,しかも毎月,前年同月を下回っています。今年に入ってもこの傾向は変わっていません。ゴルフ場を除いて,ゼネコンの森本組の2,153億円以外大型倒産もなかったといっていい状況です。マイカル,そごうといった大型倒産が減少した理由として,大手ダメ企業が大体淘汰されたことがあります。そして債権放棄に代表されるメーンバンクの金融支援があったことも主な理由の一つであるということも考えなければなりません。借り入れ負担が重くのしかかっているものの,ゼロ金利政策による低金利が「天の助け」となって倒産の減少につながっているということです。経営内容がそれ程よくなったわけではないのです。

 中小企業について言えば,倒産の瀬戸際で超低金利はあまり関係なく,貸してくれるのか貸してくれないのかが問題です。有望企業中心ながら,中小企業への銀行の姿勢が貸し渋り一辺倒から変わりつつあるようです。

 メガバンクを中心に,うみを出して経営改善が進んだことによる,貸し出しに対するリスク負担能力の向上。そして中小企業融資拡大へ金融庁から強い指導が出ていること。また金融機関に内在する事情として,大手企業の銀行離れなどから,中小企業への融資が有望な収入源であること。その認識が金融機関の戦略の変化になって現れ,融資の緩和に向かっているものと考えられます。

 三井住友銀行のビジネスセレクトローン,UFJ銀行のビジネスローンといった無担保の中小企業向けのスピード融資。もう一つは政府系を中心としたセーフティネットです。商工中金,中小公庫の融資拡大,信用保証協会,中小企業事業団,地方公共団体の保証や倒産防止共済など,制度融資に近いものまで充実し,中小企業倒産の減少に寄与しているということです。また大手企業と同じく,すでに内容の悪い中小零細企業が淘汰されてしまったという見方もできます。

 一方22,000社からのアンケートを集計した景気動向調査のDIは,3月が全国43.7ですが,2003年1月の26.1からすればかなりの改善です。良い・悪い中間の50を下回っているものの14か月連続前月を上回っています。近畿は44.8,大阪は45.7で,全国を上回っています。

物事良いように考えよう

 回復の中でもいくつかの格差があります。まず大企業・製造業が中心で,それも中国・アジア,デジタル・ITの業績がよく,中小企業・非製造業は出遅れています。 地域別では北海道32.6,東北35.9,関東 46.6,東海46.0,北陸41.6,中国41.9,四国38.5,九州41.6で,やはり関東中心。液晶のシャープ,デジカメの三洋,V字回復の松下電産のある大阪は,よくなっているとはいえ47.7の東京と比べるとやや劣っています。トヨタのある愛知県は47.9と東京をしのいでいます。

 いろいろな格差は世界経済の中の景気回復や回復途上という点で避けられないでしょう。しかし経済の毛細血管と言われる中小企業の回復,地方の回復がないと日本経済全体の本格的回復はないと思います。

 ここ10年ほど,日本全体に「前年対比症候群」のような気がします。前年がどうの今年がどうのとあまり言わず,悲観的なことを避ける方が経済に何かプラスになるのではないかなという感じがしております。