1940年大阪生まれ。 64年甲南大学法学部卒業。(学)清風学園教諭, 副校長, 専務理事を経て, 01年(学)清風明育社理事長, 清風情報工科学院校長。現在, 佛教大学大学院博士課程在学中。 大阪青年会議所理事長, 関西経済同友会常任理事他。当クラブ入会 : 81年1月。 IAC・米山奨学会・青少年奉仕(理事)各委員長を歴任。 03年会長エレクト。地区でも青少年関係の委員長を歴任。マルチプル1準フェロー。 第3回米山功労者。(教育)
日本の教育の基礎は「九九」を覚え漢字をきちんと書かせるといった集中力と記憶力であり,「受験教育」です。今この教育のありかたに学力低下などの問題が出てきています。 学力の低下は,よく言われる昨年4月からの新指導要領に伴う週休二日制だけが原因ではありません。「ゆとり」教育は,第15期中央教育審議会の答申を受けて1980年に始まり,92年の改革を経て2003年の改革で一応完成したものです。
小学校で算数・国語・理科・社会の授業時間は80年と92年に500時間,昨年500時間減り,70年代と比べ1000時間削減されました。中学校では英語の必修単語が507から100となり,そのしわ寄せで高校の負担が増大して,大学受験必要数の6000語に対し入試対応が無理な状態です。しかも授業時間の削減にもかかわらず,登校拒否児は一向に減らず,むしろ増えています。
そして公立高校からの有名大学合格者が減り,私学からの合格者が増えました。理由の一つは公立校の教育レベルの低下であり,もう一つは,公平な教育という観点から進められる教員の定期転勤です。問題を抱える困難校では体力や根気が重要で,コンプレックスを持つ生徒には丁寧な指導が必要です。一方,進学校では教える学力が重要で,教える技術のためには訓練が必要です。かつての名門校には,英語や数学を教える名人で主(ぬし)のような先生がいたものです。それらの事柄を無視した「公平な転勤」が各学校に適した指導を困難にしています。指導要領にとらわれず,転勤もない私学は有利と言えます。
さらに大学での大きな問題は,私学だけでなく国公立にも導入され始めた推薦入試の大幅な増加です。内申点だけ,面接や論文だけ,中には特技入試や自己推薦もあります。
偏差値批判が起こって,教科偏重の入試を変えたことは評価できます。しかし問題は勉強せずに大学に行くルートができたことです。信じられないことですが,数学ができない,英語ができないという国公立合格者が続出し,全体に国語力の低下は目を覆うばかりです。
日経新聞が報じた99年OECD調査で日本は,学校外で数学を勉強する生徒の割合が74%で23か国・地域中22位。数学好きの割合は37か国・地域中36位。理科は23か国・地域中22位。さらに教育費はGDP比4.72%とG7で最低です。行政改革による教育費の削減と並行して学力が落ちています。
それが大学まで広がり,京都大学の西村和雄教授は12月の産経新聞に,アメリカの大学院でついていけないという日本の高等教育の実態を指摘しておられます。OECD学習到達度調査では,義務教育終了段階の数学,物理は世界1,2位なのに大学卒業時の科学認識度調査では先進国の最下位です。受験で疲れ果て大学では勉強しないということです。
デジタル・インターネット化した情報社会は人材育成競争の社会です。企業でも社員教育を大変大事にしています。米国の大統領教書や英国首相の施政方針演説は,国民や国の未来を決定する教育に一番時間を割きます。ところが日本の首相はほとんど取り上げません。文部科学省は学力低下に対して来年度から指導内容を強化しようとしていますが,それで今の社会の変化に対応できるでしょうか。
日本を飛び出した若者が海外のサッカーや大リーグで活躍し,日本のアニメーションやゲームソフトは韓国,台湾,中国で爆発的に人気を集めています。ところがアニメーションやゲームの開発に進むのは,受験で成功した人ではなく,むしろ対極の人たちです。プロ野球ドラフトでも早稲田,慶応,関大,近大などでなく,八戸大,九州共立大など全国では無名に近い大学が目立っています。東大建築学科教授だった安藤忠雄氏は大学を出ていません。これまでの価値観とは違うことが社会のいたるところで起こり始めたのです。
学校教育は過去の成功体験を学ぶものであり,受験教育は解答のある問題を解く能力を磨くものです。しかしこれからのデジタル・インターネット社会では,前例や過去の解答が参考にならないことになりそうです。日本の有力企業も,言われたことをするだけならロボットでも可能だとして人種,学歴などに関係なく世界中で人材を集め始めました。
どんな時代にも基礎学力は必要です。ただし疲れさせる受験教育だけで,今の社会が求めるひらめき,感性,積極性などを育てられるのかということです。受験から逃げ出した人材が世界で活躍し始めているのです。
これまでの小学校・中学校で絞り上げて大学に放り込むといった方法でよいのか,欧米型の小学校・中学校でいろんなことを経験させて大学で絞るというシステムがよいのかということも含め大きな選択が今求められているような気がします。登校拒否や落ちこぼれ,いじめも,単に社会現象としてではなく,学校教育のあり方の問題として解決を迫られているのだと思います。また日本の大学は全般に「教育」より「研究」を優先します。しかし例えばハーバードでも,エールでも,アメリカの大学の先生は「われわれの学校は,社会のリーダーを卒業させる。だから教育を一番大事にするんだ」と言います。
以上のようなさまざまな流れをふまえて,「これからの教育」という問題を考えていかなければならないと思います。