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2003年12月5日(金)第4,002回 例会

済生会と社会福祉のかかわり

斎藤 洋一 君

会 員 斎藤 洋一

1933年生まれ。 59年東北大学医学部卒業。 64年同大学院修 了, 医学博士。 79年神戸大学医学部教授(消化器外科)。 95年神戸大学医学部付属病院長。 96年大阪府済生会中津病院長。 00年より大阪府済生会中津医療福祉センター総長併任。 現在社会福祉法人恩賜財団済生会常任 事, 神戸大学名誉教授,日本肝胆膵外科学会理事長他多数。 当クラブ入会 : 97年7月。 PH準フェロー, 準米山功労者。(外科医)

 済生会は,歳末の助け合いなどに名前が出てくる日赤に比べ知名度が低いと思います。済生会は撫子の花がシンボルマークで,日赤の赤い十字ほど華やかではありません。これは初代総裁の伏見宮貞愛親王がお詠みになったお歌を元につくられ,木陰でひっそりと,しかし凛として花を咲かせる,そんな精神を受け継ぎ,あまり表に立たないということを創設の基本にしているからです。目立つべからずが教えですが,今年の日経新聞の「患者様にやさしい病院」全国ランキングで済生会が二位に入り,大変目立ったためここでお話をすることになりました。

明治天皇の慈善事業として

 明治44年2月,明治天皇が「済生の道を弘めよ」との勅語とともに150万円の恩賜金を出されたことで済生会誕生の下地が作られました。金の相場で現在に換算すると150億に当たるこれを基金に,さらに全国から寄付を募り,財界からは大倉喜八郎氏が100万円を出されるなどして同年5月「恩賜財団」が発足しました。ところが陛下が「私一人がつくった訳ではないから恩賜という名前はいかがなものか」とのご意向を桂太郎首相に示されたことから「恩賜」と「財団」を並列に書くようにしています。

 私がおります院長室に「済生」の額がかかっておりますが,これは二代目総裁の閑院宮載仁親王殿下の筆によるものです。「済生」とは中国の古典「詩経」「書経」に出てくる言葉で,人間の生命を救うとの意味です。当時,日清,日露戦争でたくさんの兵士が死亡しました。国家として医療をしっかりやろうといった時代背景もあったようです。総裁は歴代皇族で,現五代目は三笠宮寛仁親王です。会長ポストは初代が慶喜将軍のご子息徳川家達公,現在はトヨタ名誉会長の豊田章一郎氏です。理事会が運営を任されており,戦前は宮内庁,戦後は厚生省出身者が理事長を務めています。

 経済的に恵まれない人々の医療と福祉をやろうというのですから,ほとんどの施設は貧しい人々がお住まいの地域で無料の事業を行ってきました。ところが敗戦で天皇制の存続が危ぶまれ,恩賜の事業そのものが否定され路頭に迷う時代がありました。その後,生活保護法ができたものの,法律通りには行かないことで済生会活動が再び認められることになります。昭和26年の医療法で済生会,日赤,厚生連が公的医療機関として認知され,済生会は貧しい方の医療,日赤は救難医療,厚生連は無医村の解消を目的としています。翌年には社会福祉法人となり,いろんな法的保護が受けられるようになりました。

41都道府県に79の病院

 東京の三田が本部で全国に79の病院があり,済生会のない所は青森,秋田,岐阜,徳島,高知,沖縄のみです。施設は347で,瀬戸内海の「済生丸」は69の孤島の診療を受け持っています。各都道府県ごとの支部制で支部長は知事です。このため経理監査は府,市,中央と三者から受け,違う法律の下で監査されるという煩わしさがあります。

 大阪では大正2年に今宮,翌年佐野,本庄に診療所がつくられ,病院は同5年に北区中崎町で70床でスタートしました。これは神奈川,東京・芝に次いで三番目です。大阪には現在9つの病院,25の施設があります。

 診療希望者は府,市から無料診察券を受けてやって来るのです。病床が足りず,サントリー創始者の鳥井氏からベッドを寄付されたこともあったようです。昭和になって手狭になり,大きくしたかったが経済恐慌後で篤志家が減りました。でもメリヤス業の嘉門長蔵氏,コマ夫人から私財の提供を受けるなどで同10年現在地に建てられました。昨年その時の建物をそっくり再建しました。というのも京都,神戸から阪急で来阪すると「この病院のタワーを見て大阪に着いたと思う」という方が沢山おられ,中村喜八氏設計の明治調の建物でもあり取り壊さなかったのです。

助け合いの精神をいつまでも

 病院の一番の特徴は,社会奉仕の精神に基づき,生活保護の方,外国人,いろんな法律の谷間で困っておられる方々を無料診療することです。資金は自前で得た収益でまかなっています。社会福祉法人として固定資産税,事業税の免除,抵当権なしに融資が受けられるなどの税法上の特典があり,無料低額診療が可能なのです。ホームレスについては,倒れていると行路旅人救済法で市が面倒を見られるが,倒れていないと法律上むずかしい。そういう方を受け入れます。

 先日も不法入国のフィリピン女性が婦人科の手術を受けるが費用がないとのことで,治療しました。法的保護から漏れた方々を柔軟に受け入れるのが我が病院です。200人収容の特別養護老人ホームはこれまで先着順でしたが,必要度に応じて入れる方式に変えました。ほかに乳児院があります。母親が育てることができない二歳までの乳幼児を預かっています。昔は大阪駅の捨て子が多かった。

80人収容ですが,少子化を反映して現在67人。うち20人は虐待を受けています。母親に薬指,小指をはさみで切られた子もいます。対応は大変難しいのですが職員は本当の親とそん色ないよう子育てに頑張っています。 

 施設ではあるが家庭など一般社会の温かさを失わないよう努力しています。さらにはボランティア活動を積極的に受け入れ,助け合いの心を育てるのにも力を入れたいと考えております。