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2003年11月21日(金)第4,000回 例会

最近の中国医療事情

白方 誠彌 氏

総合病院 日本バプテスト病院 院長 白方 誠彌

1955年九州大学医学部卒業。 63年岩手医科大学講師(外科)。 65年神戸医学大学講師(外科)。 71年神戸大学医学部助教授(脳神経外科)。 78年淀川キリスト教病院院長。 96年~日本バプテスト病院院長。 (大阪淀川RC・脳神経外科医)

 昨年7月に中国・山東省の青島市立病院を,6日間訪問しました。最新の医学について講義をしてほしいという依頼があり,同僚ら3人で出かけました。青島市は人口約120万人の都市で,1898年にドイツが租借地とした有名な観光地ですが,高層ビルがどんどん建設されています。宿泊したホテルも近代的で立派な設備なのに驚き,中国の発展の勢いを目の当たりに感じました。通訳の現地の学生は「中国の政策は約10年前に共産主義から資本主義に移行した」と話し,中国は近い将来,末恐ろしい国になる,アメリカをも抜くのではと思いました。

日本並みの高度の医療設備

 青島市内には5つの病院があり,青島市立病院を中心に連携して運営されています。市立病院はベッド数1300床に対し,医師は約500人もおり,医療の内容,レベルは日本とほとんど変わりません。外来患者は1日約2千人で,救急治療室には多くの患者が運び込まれていました。

 検査機器のCTやMRI,手術せずコバルト線で治療する装置のガンマーナイフもあり,最先端の設備がそろっています。この病院の脳腫瘍の手術は年間150例,脳動脈瘤は50~60例で,日本の大きな大学病院にひけをとりません。廊下には,医師,看護師の顔写真が掲げられ,情報公開の面でよい仕組みと思いました。

 医学教育では,中国が日本より一歩進んでいると感じました。日本ではようやく,卒業前の臨床研修を,大学病院以外の,地域の病院などで部分的に受けるケースが増えてきました。しかし,青島市立病院では,最終学年の医学生200人が1年間を通して病院に入り込み,臨床研修に励んでいます。若者は書店で真剣に学術書を読むなど非常に勉強熱心で,日本の学生と全く違うのに感心しました。

医療面でも資本主義

 中国では,プライマリーケアの費用は国が負担し,24時間いつでも診てくれます。それ以外の診療は民間の医療保険による仕組みです。自己負担分は約30%で,国民の約80%が加入しています。しかし,残り20%は加入できず,貧富の差が大きくなっています。医療費を日中で比較しますと,下垂体腫瘍の手術料は日本が47万6千円,中国は3万2千円。この手術で1ヵ月入院すると,日本では手術料を含め約200万円,中国では24万円かかります。しかし,日本では高額療養費制度があるので,個人負担は約10万円ですみます。これに対し,中国では8万円も自己負担しなければなりません。青島の市民の収入は優秀な技術者で3万~4万,医師でも5万円程度ですから,医療費は庶民にとって大きな負担です。公立病院でも,政府からの援助はさほど多くなく,院長は経営に苦労していると聞きました。中国は医療面でも,米国に近い資本主義的システムを取り入れているという印象を深くしました。

日本でも制度改革の必要

 というのも,日本の医療制度は大きな曲がり角を迎えているからです。すべての人を保険で診るという皆保険制度は世界に冠たる制度で,アメリカ人がうらやむほどです。脳腫瘍の手術を受けると,1ヵ月間で約300万円かかりますが,高額療養費制度のおかげで自己負担は10万から15万円で済む。非常に素晴らしいことで,世界一の長寿国になれたのも,そのおかげです。個人的には今後も続けていくべきだと思います。しかし,少子化・高齢化に向かう日本の経済事情では,もう不可能だと思われます。

 では,どうすればよいのか。スウェーデンなどの北欧のように,消費税を大幅に増額することは,世論が認めないでしょう。

 今の国民皆保険制度を堅持しながら,高度な医療の恩恵を受けるためには,新しい民間医療保険制度を導入して,アメリカ型へ移行せざるを得ないのかも知れません。最近問題になっている混合診療は,民間医療保険で賄う方向へ向かうのではないでしょうか。

 混合診療は現在,健康保険法で禁止されています。例えば,すでに確立している治療法であっても,保険で治療している限り,保険で認められていない医療材料を使用することはできないのです。また,外国では標準的治療法になっていても,日本の保険診療と同時に行うことは駄目なのです。最初から保険を使わない自費診療であればよいのです。現物給付制度を採用しているので,日本で承認されていない薬を,たとえ医師と患者さんの合意があっても,追加して使用することはできないのです。

 日本の医療費は1996年の統計でGDP(国内総生産)の7・2%で,アメリカの14・0%よりかなり低いのですが,国が今後増やすとは思えません。

 したがって,例えば,心臓移植など,高度な医療を受けたいと思えば,医療費の一部は公費で賄うが,残りの大半は,新しい民間医療保険に加入しておき,そこから支払ってもらうようになると思います。

 そうなると,民間の医療機関,医師とも,公的保険の規定とは別に,診療報酬を自由に設定できる時代になるかもしれません。その場合には,もちろん十分な情報公開が必要ですが,自分の技術を堂々と売り込めるわけです。現在は,大学教授が診察しても,卒業して2年しかたたない医師が診ても,診察料,手術料とも一緒です。専門医制度で認定された医師でも同じ。こんな制度は世界では日本だけ。非常に遅れているわけです。抜本的に見直す必要があります。中国の医療事情を見てきて,そのことを痛切に感じました。