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2003年10月24日(金)第3,996回 例会

「ロック」って、何だ?

柿木 央久 氏

くいだおれ不動産(株)常務取締役 柿木 央久

1967年大阪市生まれ。東京大学教養学部卒業。大阪を代表する飲食店「大阪名物くいだおれ」の創業者は祖父にあたる。大学在学中からブラジル音楽を研究。音楽学会での発表や雑誌『ブルータス』でのボサノヴァ執筆等,新機軸の音楽批評で活躍。エフエム大阪番組審議会委員。

 1980年代以降のポピュラー音楽では,ロックとポップソングの違いがよく分からなくなっています。ロックはロックンロールという言葉から来ていますが,ロックンロールがいかにロックという音楽ジャンルになっていったのか。そしてロック・ミュージックとは何だったのかをお話ししたいと思います。(文中カッコ内は途中挿入された試聴曲名)

看板書き換えて生まれた新ジャンル

 1952年,アメリカ中西部クリーブランドのラジオ局で始まった番組「ザ・ムーンドッグ・ロックンロール・ハウス・パーティ」がロックンロールの始まりです。当時「リズム・アンド・ブルース」と言われていたものを「ロックンロール」と看板を換えてラジオで流しただけで,なぜ,新しいジャンルが生まれるという不思議なことが起こったのか。それは,黒人向けマーケットと白人向けマーケットが別々だったからなのです。

 リズム・アンド・ブルースの基礎になった「ブルース」は,アフリカの黒人音楽が教会音楽やヨーロッパの軽音楽などの影響を受けてできた「ゴスペル」とかの中から,20世紀初めにソロの形式として成立したものだと言われています。(Long Distance Call)

 アフリカ音楽はリズムが極端に発達し,ハーモニーは極めて貧弱です。逆にヨーロッパの音楽はリズムが貧弱で,旋律とハーモニーは極端に発達しています。(Magalenha,運命)

 この2種類の音楽が出会って発展したブルースの音楽的構造を,リズム・アンド・ブルースはそのまま受け継いでいます。それは「和声の枠組み」です。サンバなど黒人音楽の伝統は2拍子で1小節というビートを延々と繰り返す構造です。ブルースは,4拍子が12小節単位で反復され,この12小節で和声の枠組みが最初から固定されています。これが「ブルース形式」です。(Johnny B Goode)

 ブルースやリズム・アンド・ブルースは和音の枠組みと拍子が一体となっていて,拍子,リズムを支配するドラムス,リズムと和音の枠組みを支配するギターあるいはベースというものが重要になるわけです。

 リズム・アンド・ブルースを白人向けにラジオで流すと,白人ミュージシャンがまねるようになります。そこで初めて名実ともにロックンロールが生まれたのです。黒人のものを白人がまねたら,なぜ違う音楽になるのか。

 子供のころから培われた音楽的感性というのは変わらないのです。白人のミュージシャンが本領としたのはフォーク・ミュージックあるいはカントリー・ミュージックです。当時この分野は「ヒルビリー」と呼ばれ,ロックンロールとヒルビリーが合わさって「ロカビリー」が生まれます。(Rock This Town)

 ブルース形式の12小節ではなく8小節,16小節が多くなり,和音の基本もブルースよりは固定されたものでなくなって,いろいろバリエーションが生まれたところがロカビリー,白人版ロックンロールの大きな違いです。

舞台はイギリスへ

 元々白人音楽はメロディが重要なので旋律中心に和音をつくることになってきます。楽器編成,スタイル,音はロックンロールでも音楽的構造はメロディ中心だというポップスが50年代後半から60年代に幅を利かせるようになります。「オールディーズ」です。それに伴い正調のロックンロール,ロカビリーの時代は終わり,場面は英国に移ります。(I Left My Heart In San Francisco, Vacation)

 冷戦の最中,リバプールでアメリカ軍の水兵がレコードを売ったことからリズム・アンド・ブルースが流れ込んだと言われています。60年代にはロンドンにマニアのたまり場ができます。彼らはリズム・アンド・ブルースのちょっとひずんだ音色にひかれたようです。エレクトリック・ギターの音のひずみを追求して「ブルース・ロック」が生まれ,すぐにすたれるのと入れ替わりに生まれたのが「ハード・ロック」です。(Good Times Bad Times)

 ハード・ロックは,シンフォニーに至るヨーロッパ音楽で追求されたことの一つと思われる重厚な音色を目指したらしいのです。レッド・ツェッペリンというグループはコンサートでバイオリンの弓でギターを弾いたという有名なエピソードがあります。概してヨーロッパでハード・ロックをやっている連中にはクラシック・ファンが多いのです。

 音楽的にも和音の枠組みから離れたものが出てきます。クイーンというバンドは,アンプをひずませて出るギターの音の伸びを使って音楽をつくりました(Killer Queen)。バイオリンに近い音色。主旋律に対して独立した旋律を重ねる。ボーカルにもコーラスを持ち込む。美しくドラマチックな展開。オペラのような華やかな舞台装置…。そして1975年,ポピュラー音楽の世界に衝撃を与えた代表曲が生まれます。(Bohemian Rhapsody)

1970年代に完成し発展的解消

 和声の枠組みが決まったものとして始まったロックンロールは音楽的特徴がなくなり,普通の西洋音楽になります。1970年代でロックというジャンルはほぼ完成し,普遍的なポップスとして発展的解消するというのがロックの歴史です。80年代以降のロック・ミュージックは,歌中心のポップソングに対して,エレキ・ギターやドラムスを使ったものを指すことが多いのです。英国と違ってアメリカでは音色だけで規定し,やかましくやればハード・ロックになるという感覚があります。(Stuck With You,Ice Cream Man) 「こんなんロックちゃう」と言う人がおりますが,批評のボキャブラリーが乏しいだけです。本質的に音色の問題になってしまったということで,それでいいのだと思います。