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2003年9月19日(金)第3,991回 例会

最近思うこと

南部 靖之 君

会 員 南部 靖之

1952年生まれ。76年関西大学工学部卒業。76年(株)テンポラリーセンター設立。93年1月テンポラリーグループC.E.O.就任。93年6月社名・グループ名をパソナに変更。99年7月(株)パソナ代表取締役社長就任。00年6月(株)パソナ代表取締役グループ代表就任。 当クラブ入会 : 03年4月。 PH準フェロー、 準米山功労者。 (人材派遣業)

 1988年から8年間、米・ニューヨークでいろいろなことを学びました。95年に故郷の神戸が大地震に遭い、少しでも恩返しをしたいと帰国し、デパート、クルージングビジネスなどを手がけた後、パソナの母体を強くしようと東京へ戻りました。99年にパソナの社長に就任したが、半年後に辞任を決意しました。

 立てた三つの目標のうち、「パソナの1年以内の上場」と「売り上げの30%アップ」のメドはついたが、残りの「200万人の雇用の実現」を達成するには、「一をつかみて無念無想」でいかねばならないと考えたわけです。

活力、体力のない学生

 グループ代表という自由な立場で、この目標に向けて3年前から挑戦を始めました。そのためにまず、日本中を回ろう、地方の現状を見ようと、各地の商工会議所を訪ねたり、ひげを伸ばしベレー帽をかぶってホームレスの人々にも会ったりしました。大学生とも対話したいと1年半かけて約100の大学・学部を回りました。

 約1万人弱の学生に会った結果、「なぜ今の学生はもっと経済に対してものを申さないのだろう」と疑問を抱き、三つの大きな問題点があると感じました。この三つの問題はひょっとすると経済界、あるいは日本の国民の現状の問題かもしれないと思ったわけです。  一つ目は学生に活力とエネルギー、体力がない。学生に活力がないと。日本の将来のリーダーがいなくなると思います。リーダーの条件は活力とエネルギー、体力です。社員を賛同させることにも、引っ張ることも活力が不可欠です。

 二つ目は個性。学生らしさがない。日本の国の個性、らしさもどこへ行ったのか。これも大きな問題です。三つ目は、学生たちは損得勘定には非常にたけているが、社会の状況に無関心であること。自分さえよければ、社会はどうなってもという風潮は、今の日本の経済状況を反映している気がします。自分の業績が、自社の利益が上がればよい。だから、ちょっと賞味期限を延ばすとか、ちょっと生産地を変えておこうかという(企業倫理の欠如の)問題と同じです。

民間版ハローワークを

 大学回りの後、人材関係のビジネスだけやっていればよいのではなく、個人としていろいろな問題に果敢に挑戦していくべきだと感じました。「今後は雇用問題が一番クローズアップされる。とうとう自分の出番が来たぞ。これに挑戦しよう」と決意しました。

 27年前、学生時代に会社をつくった時、「人材派遣」という言葉はありませんでした。もちろん関西に派遣業者は一つもなかった。今は5千社の派遣会社が生まれ、百数十万人の派遣スタッフと(年間売り上げ額が)派遣市場だけで約2兆円の規模になっています。23歳の学生が抱いた疑問が、人材派遣業として成長したわけです。

 5年前に京都で開かれた財界セミナーで「日本経済の復興を主導するのは起業家の志だ。関西の経済界は手をつなぎ、自分たちの仕事や安全な生活を自分たちで作る必要がある。そのためには民間版ハローワークを作るべきだ」と提案しました。

 関西財界の幹部の方とご相談した結果、昨年12月、JR西日本、サントリーなどが集まって株式会社関西雇用創出機構が発足しました。半年後の今年7月には東京電力や東芝、キャノン、ソニーなどが集まり株式会社関東雇用創出機構が生まれました。

 両機構合わせて六十数社の参画をいただいてスタートしました。今後、札幌から福岡まであちこちで日本中の企業が協力して民間版ハローワークを作り、人材を流動化させて雇用を生み出していこうとする企画です。

農業で新しい雇用創出へ

 企業間だけでなく、企業から農業へも人材を動かそうと秋田県大潟村に焦点を絞りました。農地法の問題をクリアするため、秋田大学教授に任命してもらい、土地を使えるようにしました。関西、関東の両機構から9月1日付けで、25人が農業の勉強をしておられます。10月からは富士通やソニーなどの重厚長大型企業から35人が加わります。これがうまくいけば関西でもやりたい。大阪や兵庫の中心部の空きビルを農業ビルに切り替えるという企画も考えています。

 農業は経済成長の発展の基礎になる可能性が非常に高いと考えています。なぜなら大地は発明の母であり、新産業は農業から生まれるからです。月に一度は秋田へ行き、顔を真っ黒にしながら、何万人もの雇用がこうして生まれる、さらに、フリーターや身体障害者の方々の雇用も、農業を中心に実現できればいいなあと思っています。

 日本に帰ってから、「頭が光っているだけではいかん、足の裏が光ってこそベンチャー経営者、いや創造者だ」と自分に言い聞かせています。経営者は数字に強いかもしれないが、自分は創業者だ。創業者はアーティストであり、作り終えるまでは、現場に寝泊まりしてやり遂げるまで頑張らなければなりません。

 最後に、私の一番好きな言葉をご紹介したい。陽明学の王陽明の言葉で、学生時代に訪れた山口県・萩の吉田松陰の庵で見ました。私の行動原理でもあります。

 「知識をつけることは、行動することの始まりであり、行動することは、つけた知識を完成させることである。行わなければ、知っているとは言えない。知っていても行わないのは、まだ知らないのと同じである。知って、行ってこそ、本当の智恵、真知である」