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2003年8月22日(金)第3,988回 例会

「アメリカよもやま話-
9・11以降のニューヨークそしてアメリカ 」

谷村 啓 氏

NHK本社秘書室長 谷村 啓

早稲田大(政経)卒。NHK入社後、経済部記者を経て、ロンドン支局長。99年7月からアメリカ総局長としてニューヨークに駐在。01年9月11日に同時多発テロに遭遇した。03年7月帰国、現在NHK本社秘書室長。

 私はニューヨークに1999年夏に行きました。その暮れはミレニアムの大みそかで、 2000年1月1日を迎えるブロードウェイのカウントダウンは200万の人が出て大変なものでした。私はふと、歴史上最強の都市と言われるニューヨークの最後の輝きかということをちょっと感じました。経済では10年続いたITの繁栄の陰りが秋から現れ、政治では次の年の大統領選でクリントンの次の大統領が登場するといった中で、アメリカの繁栄が一つの区切りを迎えたのかという直感をもって2000年に入ったわけです。アメリカが輝きを失っていくのを“さおさした”のが 2001年9月11日のテロという感じでした。テロで経済や社会が大きく変わったと言われますが、私には、大きな歴史の流れの中でテロがそれを加速したように見えました。

恐怖と“ハネムーン

 この間の停電ではビルのエレベーターがほとんど止まったのに混乱が起きませんでした。9・11以降アメリカの人たちは何かあるとテロじゃないかという一種のトラウマ、恐怖心が強いですが、逆にその経験から冷静に対処することにもなっていると思います。また、アメリカでSARSは発症の報告がされていないわけですが、9・11後厳しくなった生物・化学兵器に対する水際でのチェックが、思わぬところで功を奏したという話もあります。

 ニューヨーカーといえば、肩で風切り人のことは構わないように見えますが、9・11を境に人に優しくなりました。社会心理学では“ハネムーン”といって、同一の強烈な体験をした後、かばい合い親切にする現象だそうです。

 市民の犠牲を目の当たりにして9・11後一気にタリバンやアル・カイダに戦争を仕掛けるときのアメリカの人たちには、今度のイラク戦争よりもはるかにはっきりしたものがあって90%の国民が支持したわけです。人々は“United We Stand, Divided We Lost(団結しよう、ばらばらになれば負ける)”という標語と国旗と“God Bless America”の歌、この三位一体で戦争に突入していきます。

 ワシントン・ポストの記者ボブ・ウッドワードの『ブッシュの戦争』などを読むと、キリスト教原理主義というか、国際社会の不正義に対し自分たちが第一線に立つというピュアな感じがあります。ホワイトハウスでは同時にイラクをたたくべきかといった、ネオコン=新保守主義を背景とする議論があったのですが、それよりもブッシュ大統領は、西部の保安官が飛んでいって事態を収拾するような気持ちだったように見えました。

振り子と自由

 一方、9・11の被害者の中にも自分たちの犠牲をアフガニスタンの市民に及ぼすことはやめてくれと反対する人たちがいました。一人の反対でも段々大きくなって、一方に振れた振り子を戻すという“復元力のあるアメリカ社会”といった印象を持ちました。

 “開かれた社会”がテロを生んだのだから“管理された社会”になってもやむを得ないという話になったとき、いやアメリカは“開かれた自由な社会”で成り立っているのだから自由を守ろうという意見との間で振り子が動いていくわけです。

 9・11の1年後から今度はイラクだということになったわけですが、今でも、イラクはテロと関係があったのか、大量破壊兵器を持っていたのかという点で、国際世論とアメリカ世論を説得し得てないと思います。国連にアメリカが1441決議案を出してもう一度査察をすると言ったとき、アメリカとイギリスは最後通牒のつもりだったのに対して、フランス・ドイツ・ロシアではテストの“最初”と見ていた思惑のずれがあって、ついに調整されずに3月の開戦に至りました。このときのアメリカ社会のホワイトハウスへの支持は、タリバンとアル ・ カイダに対するときより落ちていました。もっとはっきりした証拠がないと戦争はできないという意見があったのです。

 今言ったような中で、アメリカの一国主義・単独主義が変わろうとしているのか、従来以上に一国・単独主義になるのかが問題になると思いますが、ブッシュ・ドクトリンの「アメリカは先制行動を辞さない」というのはこれから大きな課題になると私は見ています。

 イラク戦争のときニュージャージーの住宅街には兵士を出しているという黄色いリボンがたくさん付いていました。その一方で遠いイラクでの戦争の先行きには不安がありました。

 そして国際社会の不正義に対して国連という場が機能しなかったことは大きな問題を残したと思います。

アメリカン・スタンダードと日本

 日本が国連主義で国際協調をしていく以上は、安全保障理事会の常任理事国の地位を占めて、国際協調と日米同盟の調和を考えていかないといけないと思います。私の問題意識では、国際協調か日米同盟かではなくその間の調整をどうするかということであり、その延長上にある集団的自衛権の問題も考えなければならないし、これは日本のこれからの大きな課題だと認識しています。

 話は変わりますが、日本は“たばこ天国”だということです。ニューヨークでは4月の初めからあらゆる建物が禁煙です。日本にたばこをどんどん輸出して、そのお金を国内の肺がん患者に回しているという形です。

 アメリカは“これはよし”と思えばどんどん先へ行き、金融問題でもそうでしたが、アメリカン・スタンダードがグローバル・スタンダードだというふうに来る。それに対して日本もどうするか考えておかないといけないのかなということを感じています。