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2003年7月25日(金)第3,985回 例会

戸惑う男たち

大村 英昭 氏

大村 英昭

関西学院大学社会学部 教授
1942年、大阪生まれ。京都大学文学部哲学科卒。京都大学大学院文学研究科博士課程修了(社会学専攻)。文学博士。大阪大学大学院人間科学研究科教授を経て現在、関西学院大学社会学部教授。兵庫県宝塚市の圓龍寺の住職。
主な著書:『宗教のこれから-日本仏教が持つ可能性』『日本人の心の習慣 鎮めの文化論』『非行のリアリティ』

 中高年男性の自殺が増えていることが、昨日、警察庁から発表され報道されています。  社会学の領域では、100年以上前に書かれたエミール・デュルケームの「自殺論」という大古典があります。  自殺現象に関する社会学的研究は本来もっと盛んであってよいが、最近あまり行われませんでした。「2万2千件の自殺があった」と聞くと「比較的多いね」という程度に考えていた。ところが平成10年から3万3千に跳ね上がり、2万を中高年男性が占めています。  デュルケームは、自殺は男性に多いと言っていますが、日本では長い間、女性の自殺率が高かったのです。ところが平成10年からは、デュルケームの100年前の分析と同様に、自殺の70%を男性が占めています。特に中高年の比率が高くなって、中高年男性の自殺に注目せざるを得ないわけです。

10万人の中高年者が自殺を試みる

 中高年男性だけで2万を超えるといってもこれは実際に死んだ人の数であって、試みたが何らかの事情で生き返った人がこの4倍ぐらいいると言われています。作家の五木寛之氏は、交通事故死者が1万人を超えたとき「交通戦争」と呼んだが、毎年10万人近い人が自殺を試みるのを何戦争と言うのかと問いかけ、彼は「シャドー・ウォー(心の内戦)」と言っています。イスラエルとパレスチナの間のテロは、10年間合わせても死傷者は多分10万人を超えない。日本では中高年男性だけで5年で10万ですから、五木さんが言うように戦争状態と言わざるを得ません。  一方、今度は若い男性についてです。 私は「非行の社会学」で日本社会学会にデビューしましたが、本を出した1980年(昭和55年)当時も非行が増えていると言われ、新聞に「非行戦後最悪」といった文字が躍っていました。しかし調べると、当時の少年法適用年齢19歳以下の殺人は55件で「戦後最低」なんです。少年の凶悪犯罪は増えていない、減っていると、この時から言っているんです。趨勢は現在も全く変わらない。ところが特異な事件が起こると、いろんなメディアが報道します。この情報量の多さがそのまま発生件数の多さのように思われています。  早稲田大学教授で生物進化学の長谷川真理子さんによると、群れをなすオスの動物として、10代後半、20代前半の男性による殺人を含む犯罪が世界どこでも多いのはある意味で仕方がない。生殖、繁殖期の開始期で闘争心は豊かだし、オスの動物として、いいことではないが仕方がないと思える。ところが日本は違う。彼女は、20代前半の男性による殺人は40年間に13分の1、10代後半も10分の1に減少しているというデータを挙げて問題の所在を違う所に置くわけです。  私も放送番組審議委員をしていて、メディア情報が青少年に与える影響についていろいろ議論がありますが、テレビ番組でちょっと暴力過剰だとか、やんちゃな所があるとすぐ抑えられる。若い諸君の暴力をあおる、犯罪の多さに結びついていると、数値も出さず勝手に思い込んでいるのです。長谷川先生に私も全く賛成なのは、凶悪犯罪が減っているのは、ある意味で抑えつけ過ぎということです。

「ねじれてゆく「若いオスの力」

 卑近な例ですが、関西学院の夏の定期試験で、これが試験を受けに来る女の子の格好かと思うぐらい背中丸出しで、下着のひもが食い込んでいる。それを目の前に60分間十八、九の男性が汗を流し解答している。私が19歳のころを思い出しても、これは拷問に等しいことです。そういう女性の挑発を受けていても、今の子はそんな気持ちにならない。常に抑えてあるということです。

 これは犯罪にも表れています。酒鬼薔薇聖斗や今回の長崎の12歳の少年も、素直に伸びてきているのでなく、非常にねじれた性欲の発現の仕方が起こっています。

 小動物の虐待は私も経験しました。オタマジャクシやアリを焼き殺し、カエルの皮をむく。「むごいことをするな」と父に怒られ、殴られた記憶があります。誰にもこういう時期はあるが、どこかで克服される。そのまま猫にまでいってしまうのはおかしいのです。猫を高い所から落とす、目を突く。酒鬼薔薇聖斗はハトに無残なことをしていました。

 一般の世論はあんなことがあると「もっと抑える」方向へ、テレビ番組もお行儀のいいものへ持っていく。若いオスとしての力の発現について、もう少し考えねばなりません。

 今、メディア漬けが問題になっています。本当の自然、人間関係の中で育つべき能力がメディアの中にいると育ってこない。今やライフハザード、生命力そのものの衰えと言われる時代になっているんです。

仏教者のダンディズム

 レイモンド・チャンドラーがフィリップ・マーロウを主人公にした探偵小説に「強くなければ生きられない。でも優しくなければ生きる値打ちがない」という言葉があります。

 女性に関するジェンダーイメージは非常に変わっている。ところが男らしさのジェンダーイメージは我々中高年の側で特に古いのだと思います。男の強さ、男の優しさということを別の角度から考えるべきだと思います。

 最後に私は仏教者のダンディズムということを考えました。例えば永平寺で、食べ物を作り、ベッドメーキングもする。あれは家事労働です。しかし非常に男らしい。老人介護、子育ても「高い高い」など力が要る。料理も大きな鍋をひっくり返すのは力が要る。いっぺん永平寺で見てきて、男らしさということを考えたらいかがかと思っているのです。