大阪ロータリークラブ

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2003年7月4日(金)第3,982回 例会

新年度を迎えて

岸本 忠三 君

会 長 岸本 忠三

1939年富田林市生まれ。'64年大阪大学医学部卒業、第三内科(山村雄一教授)入局。 '70年から4年間米国ジョーンズホプキンス大学留学。
'79年医学部病理病態学教授、'83年細胞工学センター教授を経て、'91年より第三内科教授。朝日賞、恩賜賞・日本学士院賞をはじめ、文化功労者、日本学士院会員、米国科学アカデミー外国人会員、文化勲章などを受賞。'97年大阪大学総長に就任、現在に至る。当クラブ入会 : '97年10月。ポール ハリス 準フェロー,準米山功労者 (医学研究)

 「2004国際ロータリー国際大会」が大阪で開催されるという記念すべき年に、歴史と伝統を誇る大阪ロータリークラブの会長を務めさせて頂くことを大変光栄に思うとともに責任の重大さを改めて痛感しております。

人との出会いが人生を決める

 「人生は出会いである」と言います。4年前の阪大の入学式で私は次のような話をしました。「医学部五年生の時、山村先生が九州大学の生化学教授から阪大内科の教授に来られた。私は先生の理路整然とした分かりやすい講義に感激し、基礎医学へ進むのを止め、内科教室に入れて頂いた。先生の赴任が1年ずれていたら私の進路は大きく変わっていた。日本には一億二千万人がいる。ヒトが地上に出現して約十万年、その流れの中で2700人が阪大の新入生として1999年の春にここで出会う確率は限りなく低い。“遭うと遭わざるは時なり”“期せずして会うを遭うという。遭うとは志相得るなり”とも言う。良い大学で学ぶとは、良い友に出会うこと、生涯の師を得ることだ」と。

 これはロータリーにもあてはまります。素晴らしい友人、知己を得ること、そのような会員を増やすことではないかと思います。会員の減少が続いています。世界で一年間に40万人の減少です。この2660地区でも96年度5591人だったのが03年には4400人になると予測されています。ロータリーが少しずつ魅力を失ってきたのではないか。急速な社会の変革、人々の考え方の変化に追いついていないのではないか。会員であることが誇りであり、魅力あるものでなければ、人は会員になりたいと思わない。そのためにロータリーの奉仕の原点を再認識することです。

 今年度の国際ロータリーのテーマは、

「Lend A Hand―手を貸そう」です。

・貧困を緩和するために手を貸します。

・読み書きのできない人を教育するために手を貸します。

・病気の災いを和らげるために手を貸します。

・ロータリー家族すべてに親睦の手を貸します。

このRI基本方針に則って具体的に何ができるかを考えることが必要と思います。

会員としての証しを残そう

 我々が子供の頃に猛威を奮った小児麻痺は生ワクチンの普及で、西太平洋からは完全に消滅したとWHOは2年前に宣言しました。しかし、中近東、アフリカにはまだ生ワクチンが飲めない子供がおり、発症は0になっていません。大阪RCはこのため一万数千㌦の寄付をしました。また80周年を記念してアフガニスタンに学校をという活動も行われました。

 宮本輝の最新刊「約束の冬」には、20代で肝臓病を病む女性が、自分が生きたしるしを残したいと「ネパールの奧、学校のないヒマラヤの麓の寒村に300万円あれば学校をつくれる。もし、とびきり優秀な子供がいて教育を受けることができ、それが縁で欧米か日本の大学に留学し、世界の人々に貢献できるような大きな仕事をしたら」として300万円を少しずつ貯金する場面が出てきます。  大阪ロータリーが存在すること、そこの会員であることのしるしを残していくために我々に何ができるかなのです。

 山村先生から学んだことの一つは弟子を人を大切にするということでした。「正宗で鉛筆は削れない。鉛筆を削るには肥後の守が必要である。人には持って生まれた特性がある。その特性を見いだし、大切に育てること」という教えでした。

 今、日本が進む方向は、これでいいのかとの思いがします。リストラ、効率化、競争、果たしてそれで日本は、日本人は幸せになれるのかと疑問を感じます。ヒトのDNAは30億個の文字より成り立っています。遺伝子として使われるのはその中のほんの数%です。 90%は無駄な部分です。大腸菌は約百万個の文字しかありませんが百%遺伝子として使われています。従って大腸菌は文字一つが変化しても死にます。ヒトは沢山変化があっても生きています。この大いなるムダがヒトをヒトたらしめ、強さ、進化の源になっているのだろうと思います。

ゆったりした時間を持つ意味

 効率を重視し、無駄を廃する立場に立てば、ロータリーも無駄ということになりかねませんが、果たしてそうでしょうか。数年前の卒業式で、私はドイツの童話作家ミカエル・エンデの作品「モモ」を紹介しました。時間泥棒に時間を盗まれ、心貧しくなっていく床屋や観光ガイドが登場します。ガイドはよく勉強していて案内が上手で、有名になります。テレビや講演依頼が殺到、飛行機で飛び回ってもこなせず、焼き直しで済ますようになる。金持ちになり、家も建つがそれでいいのかを問いかけています。情報が光の速さで世界を駆けめぐり、人はいよいよ多忙になっていきますが、それが真の幸せや豊かさにつながるのかということなのです。

 ヒトの寿命はゾウより短いがネズミよりはずっと長い。ヒトの心臓の拍動数は一分間に約60回、ネズミはその約10倍、ゾウはヒトの半分です。ヒトもゾウもネズミも一生に打つ拍動数は約20億回で同じです。「ネズミの拍動数で働いてゾウの長さを生きることはできない」というのが神の決めた摂理です。人間はそれを超えようとしています。それが人を幸せにするのか考え直す必要があります。

 そう考えると毎週1回ゆっくりと時間が流れるロータリーの例会はかけがえのないものともいえます。一所懸命務めるつもりですのでどうぞよろしくお願い致します。