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2003年6月6日(金)第3,979回 例会

『新エネルギー技術の最先端』

鈴木  胖 君

会 員 鈴木  胖

1934年広島県生まれ。'58年大阪大学工学部電気工学科卒業。'60年同大学院工学研究科電気工学専攻修士課程修了。その後、助手、助教授を経て、'72年教授(工学部)。'92年定年退官・大阪大学名誉教授。摂南大学教授を経て、2000年姫路工業大学学長。
当クラブ入会:1998年2月20日。
(教育研究期間管理)

 4年半ほど前にもお話しましたが、世の中は非常に変わりました。そのひとつが地球環境をめぐる状況で、いろいろな計画が進んでいます。きょうは画像を使いながら、新エネルギーの世界最先端の様子について、太陽光発電、風力発電、バイオマス(森林資源)利用、燃料電池自動車の順にお話します。

太陽電池シエアは日本が半分

 太陽光発電の本体である太陽電池の世界生産量に占める日本のシエアは、私が聞く最新データでは現在約48%。世界の半分です。しかし欧米が追いかけているので、がんばらねばならない。ちなみに、シャープ・京セラ・三洋電機が日本の大手3社です。

 たまたま三洋電機のあるデータを持ってきましたが、モジュール変換効率が17%と結構高い。最新のものではほぼ20%まできています。進歩が速い。この板は200Wですから15枚並べると3kWで、補助金をもらえる段階になります。

 太陽光発電装置は住宅にも搭載され、積水ハウスが最近売り出したものでは、出力5kWのものを屋根に置くと、普通の状態ならうまく使えば光熱費がゼロになる。およそここまで来ました。

 太陽光発電は、特に発展途上国には非常に有効。電線がないところでも使えるから、技術水準の高い日本が大いに進出していかなければならない。

風力発電に注力するデンマーク

 次に風力発電。この画像はデンマークのウィンドファームつまり大規模風車の基地です。世界の風車の開発力は実はドイツが一番ですが、このデンマークの巨大なシステムにはびっくりします。デンマークのユトランド半島西岸沖の洋上に風力発電所が昨年完成しました。発電機の数は80基。発電量は1基2MWだから80基で160MWつまり16万kW。大規模な発電所です。プロジェクトのコストは2.7億ユーロといいます。

 1基の発電能力が2MW=2,000kWというと、東海道新幹線から見える三洋電機の「ソーラーアーク」が630kWだから、いかに大きいかわかります。羽根は基本的に3枚羽根。円を描いたらその直径は80m、ハブ(柱)の高さは70m。風車の中心部をハブの一番上に置くから、最長時の全体の高さは110m。ビルなら40階建て。そういう巨大な風車をつくっている。  この風車の開発までのデンマークの研究陣容は日本と比べるとけたはずれに厚く、デンマークはいかに得意分野に注力したかがわかります。

 次に、森林エネルギーの利用についてフィンランドを例にお話します。森林エネルギーは循環利用しなければいけない。しかも生産性を向上させねばならない。収穫(伐採)、輸送などの生産性を上げるかぎはハイテクによる機械化です。  画像のようにフィンランドでは、専用の伐採用機械を開発して、人力でなく機械でどんどん作業をする。木の本体は丸太にし、枝葉は機械でバンドリングする。それらを産出現場から道路のある場所へ運び出す。山の場合は傾斜があり地形が複雑なので、6本足で歩く機械をいま開発・実験中です。

 ロボットの研究開発は大阪でも盛んですが、こういう分野にもロボットを応用できるわけです。日本のように森林がたくさんある国では、こういう技術の開発も必要です。

 フィンランドでは森林資源を使って、電気・熱を同時に生み出し供給している。人口2万人ほどのある町の例。主燃料はバイオ燃料です。バーク(枝葉)、木材チップ、ピート(泥炭)を使って発電しています。それらを大型トレーラーで運び込み、細かく砕き、ベルトコンベアで燃料として投入します。ボイラーやタービンは世界最大級の大きさです。フィンランド、スウェーデンなど北欧ではこのように森林資源の利用が進んでいます。

燃料電池も日本が得意な分野

  最後は燃料電池自動車。ホンダなどは一般のユーザーに提供するところまでこぎつけました。ホンダの場合、現在は走行距離350㎞ほどの燃料電池自動車を開発しています。燃料の水素を高圧タンクに蓄える量で走行距離が決まる。燃料電池のタイプは固体高分子膜型です。

 この燃料電池車の特徴は、真ん中に燃料電池、左端にモーターがあって、これで自動車を動かす。普通は電気を蓄える装置つまり電池を使いますが、ホンダの場合はウルトラキャパシタを使っているのが大きな特徴です。フレームの下に燃料電池そして燃料タンクがあり、タンクの上にウルトラキャパシタがあります。

 ベンツ(ダイムラークライスラー社)もがんばっています。ここは燃料電池バスにも力を入れています。今ごろから秋にかけて世界の都市に展開します。アムステルダム、バルセロナ、ハンブルグ、ロンドン、マドリッド、レイキャビク、ストックホルムなど。

 要するにアイスランドのように寒いところからスペインのように暑いところまで、いろんなところで実験する。各都市に3台ずつ走らせるそうです。マドリッドではシティバスとして展開、すでにサービスを開始しています。

 燃料電池自動車の実用・普及も値段が問題ですが、このように実用に供せられるものがこのところ活発に出てきました。  新エネルギーの開発分野はいろいろありますが、日本はよく考え得意なところを手掛けるべきです。太陽光発電と燃料電池。ここらが世界を市場としてがんばれる水準にある日本の分野だと思います。