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2003年4月18日(金)第3,973回 例会

イニシエイションスピーチ うどんよもやま話

薩摩 和男 君

会員 薩摩 和男

1951年生まれ。'67年4月私立灘高校入学。
'70年4月東京大学文科I類入学。 '74年東京大学法学部私法科卒業、同年6月吉兆主人湯木貞一氏のはからいにより、臨済宗妙心寺派禅院『大珠院』に入門。
'75年1月盛永老師の許可を得て吉兆に入門。'78年4月(株)美々卯に入社。'92年2月代表取締役に就任。当クラブ入会:2002年5月31日(ホテル・旅館・料理店)

 美々卯(みみう)はもともと堺のほうの出です。江戸時代から料理屋をしておりました。大正時代の前までは料理屋だったのですが、私の祖父の薩摩平太郎が、料理修行のあと「麺類の店をやる」と美々卯を開いたのが始まりです。うどんすきを考案したのも祖父です。祖父は吉兆のご主人の湯木貞一さんと大変親しくさせていただいておりました。そこで、大学を卒業した私を吉兆に入れて料理の勉強をさせたいのですがと、祖父は湯木さんにお願いしました。

大学を出てまずお寺で修行

すると湯木さんは私に向かって「薩摩君、君は有名な大学を出ているようだし、いろんな勲章を身につけとる。しかし苦労という勲章はないな。私の知り合いのお寺を紹介するから、頭を丸めてそこでお坊さんをやっといで。そこの老師がOKを出したらうちに入れたる」と言われまた。しようがありませんので、頭を丸めてお寺に入りました。結果としては約7カ月で老師にOKを出していただき、吉兆さんのお世話になることができました。しかし修行中は「いつになったらここを出られるのだろう」と悩んだ時期がありました。

 今、社長をやっておりまして、21店舗を経営していますが、時代の変化についていくのが大変です。10年たてば10年だけお客様が世代交代する。それを追っかけていくのに苦労しています。社員にいつも言います。老舗というのは創業のころは前衛的なことをやった店だ。最初は、人々をびっくりさせるような前例のないことをやったのだ。だからヒットして流行った。ところが10年20年と続くと、何となく「先輩のやる通りやりなさい、これがうちの伝統だ」みたいな教え方をしてしまう。頭の中が固定して新しいチャレンジができなくなる。こうして老舗の飲食店もすたれていくと。だから、いかにリフレッシュしていくかが、私や私に続く経営陣の課題だとつくづく思います。

 このことをはっきり思ったのは、数年前に渋谷に店を出したときです。そのとき東京の若い女性たちとお話ししてびっくりしました。「美々卯」という漢字を読んでいただけない。「みみたまご」「びびらん」。しかし思いました。いや待てよ、大阪で長年やっているから皆さんに「みみう」と呼んでいただいているだけのことで、知らない土地へ行ったらこういうことや。それに合わせて自分らが変わらないとあかんと。結局、渋谷の店の名前は「みみう」と平仮名にしました。平仮名「みみう」の持つイメージを出発点にして、店のデザインや料理を考えました。社内には相当抵抗がありましたが、ふたを開けると営業成績は大変好調でした。その後、新しい店には少し新しい要素を取り入れています。

店の浮沈を担う経営者の舌

 私どもの商売では最終的には舌、味が勝負です。しかし味というのは大変難しい。数値化できない。Aさんがおいしいと思うものをBさんがおいしいと思うとは限らない。あるとき、うちの社内で調理師を50人集めて実験したことがあります。ブラインドでどれがどれか伏せて4種類のアナゴを並べました。国産の活け、国産の冷凍、韓国産の活け、韓国産の冷凍。どれが一番おいしいと思うか投票を命じました。意外にも結果はまちまちでした。そのとき思ったのは、なるほどな、韓国産の冷凍が一番おいしいと思う舌の人間に国産の活けが一番おいしいはずだと言ってもムダということです。もっとも、投票を集計したらやっぱり、国産の活けがおいしいと思う人数が一番多かった。

 しかしそのとき、飲食店の経営者の社長として自分の舌というのがいかに大事かがわかりました。私どもの会社は大きな外食産業ではありませんので、結局は社長が味を決めます。「どちらにしますか社長」と言われたときに「こっちがおいしいな」と言ったら、社員は皆「そうですか」と言い、そちらに決まります。だから、もし私の舌が韓国産の冷凍を一番おいしいと思えば、美々卯全体の味がそちらへ偏る。するとお客さんの多数派の好みと違う選択をすることになる。

 したがって客観的に見て、大多数のかたにおいしいと思っていただける味はどのあたりにあるかを私の舌がきっちりマスターし、アップデートしていかないと、美々卯はつぶれてしまう。そう思い至りました。これはえらいこっちゃ、あらゆるものを食べ続け、食べ歩いて、味覚をリフレッシュしておかないといけない。このリサーチが今のところ私の重要な仕事の一つになっております。

麺ブームで新手が次々登場

 今は麺がブームです。ラーメンブームはピークを過ぎましたが根強い。最近は讃岐うどんが東京のほうで盛んです。

 また、コンビニなどを中心に全然違う麺食品が最近出てきました。麺の形をしていますが、うどんでもなければそばでもない。製法や内容は完全に特許で厳密に守られています。そばのように見えるがそばではない。うどんのようだが実はうどんではない。このように食品自体も相当変わってきています。数カ月前になりますがコンビニでは「Goota」というカップ麺が大変評判を呼びました。ゆで卵が1つ丸ごと入っている、厚さ5ミリぐらいのチャーシューが入っている。

 私どももいろいろ試しています。「春野菜のうどんすき」は、心斎橋の店をやるときに出しました。女性客を中心に大変好評で、夏野菜、秋野菜というふうにシリーズでやっています。試行錯誤していますが、うちの子供たちなどに「よそで食べるようやったらうちでお食べ」と安心して言い続けられる店でありたいと思いながら営業しています。