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2024年12月6日(金)第4,945回 例会

精神疾患の親をもつ子ども・若者を取り巻く困難と寄付型NPOとしてのチャレンジ

平 井  登 威 氏

NPO法人CoCoTELI(ココテリ)
理事長
平 井  登 威 

2001年静岡県浜松市生まれ。関西大学4年生(休学中)。精神疾患の親をもつ25歳以下の支援を行うNPO法人CoCoTELI代表。
幼稚園年長時に父親がうつ病になり,虐待や情緒的ケアを経験。精神疾患の親をもつ子ども・若者支援の土壌をつくるために日々奮闘中。
ForbesJAPAN 30 UNDER 30 2024「世界を変える30歳未満」30人の受賞者。

 今日は「親が精神疾患の子ども・若者の支援」について,子どもが抱える課題や,社会に必要なことを話します。
 僕は2001年に浜松で生まれ,’20年に関西大学の社会安全学部に入学しました。現在,休学中です。僕は幼稚園の時に父がうつになり,家庭が不安定にならないようケアしていた原体験から現在の活動を始めました。

子供のころの逆境体験を減らす

 この団体は’20年12月に学生団体として立ち上げましたが,親が精神疾患の子ども・若者の支援は,社会で焦点が当たっていない大きな課題だと気づき,去年5月にNPO法人として活動を始めました。現在は2,000万円ぐらいの規模の寄付型NPOです。精神疾患のある本人だけでなく,家族も生きやすい社会の実現を掲げて活動しています。
 精神疾患の親を持つ子は自身の罹患(りかん)率が有意に高いそうです。遺伝的な要因だけでなく相互作用として環境要因も大きな影響を与えますが,それに対する支援は進んでいません。イギリス,スウェーデンなどでは,子どもの5人に1人は親が精神疾患だそうです。
 特に「逆境的小児期体験」は最近注目されています。例えば心理的虐待や性的虐待,身体的虐待,DV,家族の精神疾患,ネグレクトなど,当てはまる数が多いほど,心身の健康や社会生活への支障が出るリスクは高いそうです。大人になって健康的に過ごすには,小児期の逆境体験を減らす必要があります。また,家族が健康であれば精神疾患を有する本人にもプラスの効果があります。
 その中でも「子ども」に焦点を当てるのは,何かを決める時に親の意見が通りがちなパワーバランスの家庭が多いためです。その課題は社会に認知されておらず,企業と公的な支援の狭間にあり,それを埋める寄付にも限界があります。事例を作り政策に落とし込み,支援のスケールアップを目指しています。
 心身の不調を継続したままの自身が子どもを持つと,その子も「精神疾患の親を持つ子ども」になります。その負の連鎖を予防しないと,支援も飽和状態になりますし,健康的に働ける若者の数も減ってしまいます。

自分を主語に考えるための伴走型支援

 僕たちは現在,住む場所や体調に関わらずサポートできるオンラインの支援や居場所づくりをしており,10歳から25歳の北海道から沖縄までの子どもや若者が悩みを吐き出せる掲示板やイベントを開催しています。身近な人やコミュニティで悩みを話せない子どもともっと話せたら,もっと早く困難に介入できると思っています。
 僕たちが出会う子どもたちは,「唐揚げとハンバーグ,どっち食べたい?」と聞かれた時,ハンバーグが食べたいと思っていたとしても,家庭のことを思うと「唐揚げ」と答えることが多いのです。「自分を主語」に考える経験が希薄であり,まずはその成功体験を積む「伴走型の相談支援」をしています。そこで自分の状況が辛いとか嫌だ,変えたいという言葉が出てくると,それを拾って他団体と連携して支援介入をしていきます。
 子ども期の肯定的な体験も注目されていて,親以外に自分が信頼できる大人が2人以上いることが,その一つです。
 子どもの困難の背景が家庭の問題なので,家庭に介入しないと原因が解決しません。オンラインでは難しいので,地域の団体と連携して支援しています。「闇バイト」に行きかねない状態の子どもには,困ったら計画的に制度を利用できるよう伴走します。同じような経験をした若者が,同じ立場の子どもをサポートする機会もつくっています。週に2,3件は新規の相談があり,本当に大きな課題だと感じています。

より困難が小さいときに介入したい

 当事者の課題は,自分を主語に考える経験が少なく,また友人との人間関係の築き方がわからないこと,親を支えるために家を離れられず進学や就職を諦めてしまうことです。家庭の課題は,親の状態による不安定な生活や貧困,虐待やヤングケアラーです。環境の課題は,自分に合った制度を選ぶことや,制度利用に対する偏見のハードルが高いところです。それらを橋渡しするのが支援者です。
 大切なのは当事者と一緒に頭を悩ませることですが,相談で話したことが,その子に見えていない景色だと,次に相談されなくなります。悩みを話していい相手に選ばれるよう安全安心な場を作っています。
 当事者の子どもたちが,他の家庭と比較して自分の家庭の状況を自覚することもすごく難しいことです。親が少し大変な時に,薬の名前を見て親の病名に気づく子たちも多い。自身の状況を客観視して言語化して「助けて」と言える勇気は本当にハードルが高い。その状態になる前に出会えていたら,より困難が小さい状態で前に進めていたかと思うと,それは大きな課題です。
 生きづらさを抱えている子たち,例えば学校に行きたくないという言葉の背景を想像して支援するのも予防的な観点で重要です。
 スウェーデンでは親が精神科に受診したタイミングで家族も把握して,支援提供や法的な事例に落とし込まれます。企業で休職する人がいれば,その家族にも目を向けて支援する。困難の総量が小さいタイミングで出会えることで生きづらさが予防的に介入できる。それは一団体だけでは社会に広がらないので,政策にすることにチャレンジしたい。また直近5年は調査や社会課題化を進めていきます。
 みなさんも子どもとひとりの人として対等に接する意識を持つことで社会は大きく変わると思います。解決策を一緒に考える時間をいただけるとすごくうれしいです。
(スライドとともに)