日本,米国,スイスの金融機関にて20年以上プライベートバンカーを経験。
2012年よりノーベル平和賞受賞者であるムハマド・ユヌス氏とバングラデシュにて自動車整備士養成学校を運営。’22年より(一社)ソーシャルビジネスバンクにて,寄付者とNPOを繋ぐ活動を開始。寄付者の幸せを願い「温かいお金」の社会循環を実践。企業顧問6社,10以上の財団・社団の理事・評議員等を務める。
私が想定する寄付者は,基本的にお金持ちです。長くプライベートバンカーをして,経営者の悩みを聞かせてもらいました。皆さんお金持ちで表面上は幸せそうですが,悩みを持っています。そういった方々に幸せになってほしいというのが私の活動の原点です。
プライベートバンカーだった当時,後輩たちには「金融商品の提案は誰でもできる。富裕層,経営者が抱える悩みは金融以外がほとんど。それを解消するのが私たちの役割だ」と伝えてきました。当時,日本一信頼されるバンカーになるという思いがあり,結果として,多くの経営者や富裕層に年齢を超えて友人ができたのが一番の財産です。
金融機関に勤務しながら2008年からタイ北部でミャンマー難民の支援活動を始めました。当初は社会勉強をしている程度の思いでしたが,地元の人たちの笑顔や活動家の熱い思いに触れ,また,一緒に活動した経営者が楽しんでいる様子を見ると,ビジネスでは得られない感動を提供できることを知りました。
「社会を思う人と一緒に活動したい」と考え,いったん金融機関を引退して’22年に一般社団法人ソーシャルビジネスバンクを創設しました。私の役割は①寄付者②NPO運営の主体者③寄付者とNPOをつなげる伴走役―の3つです。一般的にNPOは「困っている子どもたちや動物,自然環境を何とかしたい」との思いで矢印が受益者を向きますが,私の場合は矢印が寄付者に向いています。つまり,寄付者が出したお金が社会に循環して,どう役立っているかを実感してもらいたいのです。寄付者とNPOをつないだ寄付額は,この4年間で約3.2億円です。
ボランティア活動の1つの例が「バングラデシュでの人材育成プロジェクト」です。ムハマド・ユヌス氏をご存知ですか。グラミン銀行を作り,世界で5億人が利用するマイクロクレジットを広め,ノーベル平和賞を受賞したほか,社会問題を解決するビジネスを「ソーシャルビジネス」と名付けた人物です。
ユヌス氏が2011年に来日した際,「バングラデシュでは日本車がたくさん走っているが,整備士がいない」と言いました。紆余曲折を経て,自動車整備技術と英語を教える2年制のプログラムを’15年に始めました。その後,「日本で働きたい」との要望を踏まえ,自動車技術は車検点検,日本語検定はN4,N3のレベルに育てる1年制のプロジェクトに変えました。ユヌス氏は「地に足がついたプロジェクトだ」と,とても喜んでいます。
ボランティア活動の2例目は「ドコデモこども食堂」です。ロート製薬創業家の山田安廣氏から「社会に役立つことをしたい」との話をいただき,里親の支援・啓発活動をしている岩朝しのぶ氏を紹介しました。食を通して子どもが孤立しない社会を作りたいという思いが一致し,「ドコデモこども食堂」を作りました。子ども食堂,子どもの居場所支援,勉強支援,ひとり親支援といった地域の支援団体と連携して,経済的事情を抱える家庭に毎月3,000円のクーポンを発行し,子どもたちが地元の飲食店に行き,好きなメニューを選んでご飯を食べるのです。飲食店は定価で提供し,月末締めで寄付者から集めたお金が支払われます。寄付者が出したお金が全額飲食店のクーポンに回る形です。現在,全国90団体と連携して,飲食店174店舗で1万食以上を提供しています。山田氏は「こんな世界があるとは知らなかった。おもしろくない余生を過ごすところでした」と話しており,社会貢献活動に参加して幸せになっている姿を見ると,うれしく思います。
ボランティア活動の3例目は,「子どもたちにメガネを届けるプロジェクト」です。
大塚製薬創業家の大塚芳紘氏が「経済的事情でメガネが買えない子に,地元徳島のNPOを通じてメガネを届けたい」と話し,私がパリミキ創業家の多根幹雄会長を紹介しました。大塚氏がパリミキのチケット購入資金を支援し,多根氏も支援してくれました。徳島のNPOを通じ,経済的事情を抱える家庭にチケットを交付し,地元のパリミキで上限2万円でメガネを買ってもらうプロジェクトがスタートしました。
私は「地域の支援者とNPOがいれば,パリミキは日本中にあるので,どこでもできる」と考え,自分で動きました。これまでに北九州,北関東,博多,兵庫,京都,愛知,四国2県,山口,東京,広島,福井でプロジェクトを実施し,今年は6県を予定しています。
大切にしているのは,①パリミキや地域の支援者,NPOがつながる②各社,各団体がプレスリリースをして盛り上げる③支援を受けた親や子どもの声を届ける④無償で動いてくれるNPOに寄付する―ことです。パリミキは社会貢献を通してブランディングする。地域の企業も社会に知ってもらう。NPOはパリミキや地域の企業と連携してプロジェクトができる。そして何よりメガネの必要な親子にメガネを届ける。4者が幸せになればいいと思い,私は動いています。
「人生を見つけるためには,人生を浪費しなければならない」―これは大西洋無着陸飛行をしたリンドバーグの妻で,随想家のアン・モロー・リンドバーグの言葉です。自分に合う社会貢献活動を見つけるのは難しいので,私は「自分に合う社会貢献活動を見つけるには,時間と労力,実際に寄付すること,時には失敗も必要です」と皆さんに話しています。
プライベートバンカー時代の思いは「日本一信頼されるバンカーになる」でしたが,今は「白いフィクサー(白幕)になる」という思いです。フィクサーと言うと利益や利権を求めるブラックなイメージですが,私は社会を良くしたいと思ったときに一緒に行動してくれる人がたくさんいる,そういう役割を担いたい。お金には色がないと言われます。ただ,お金には温度があります。「温かいお金」を社会に循環することで,寄付者の人生が幸せになることを願っています。
(スライドとともに)