1972年新大阪ホテル(現・リーガロイヤルホテル大阪 ヴィニェット コレクション)に入社,現在に至る。’78年よりソムリエ専任となり,’80~’81年にかけてフランス各地のワイン産地で研修を積む。2003年にはフランス共和国より「農事功労賞 シュヴァリエ」受章,’11年には「黄綬褒章」受章。’10~’15年まで日本ソムリエ協会会長を務め,現在は同協会名誉顧問。
ワインの生産地は,フランス,イタリア,スペイン,ポルトガル,ドイツといった「オールドワールド」が中心ですが,1990年代ごろからはアメリカや南米,オーストラリアなど「ニューワールド」が台頭してきています。
今,注目すべきワインの一つに「地域性やテロワールを意識したワイン」があります。テロワールはフランス語のテール(大地,土)が語源で,原料のブドウ産地の風土を反映したワインの特性のことです。例えば,石灰岩質の土地でできたものはエレガントで軽やか,粘土質の多いところはコクがあってヘビーといった違いがあります。
最近では「地球環境に関与したワイン」も増えています。オーガニックワインはほぼ無農薬で栽培したブドウから作ったもので,ナチュラルワインはブドウジュースを発酵させる際に天然の酵母菌を使い,酸化防止材をあまり入れない,全く入れないものなどです。低アルコールやノンアルコールなど「健康志向のワインや飲料」も無視できなくなっています。「1688」というワインは,フランスのノンアルコールのスパークリングワインです。1688年に亡くなった司教が独特のレシピで作ったものを現代によみがえらせ,フランスでは公式晩餐会でも使われるようになりました。
2年ほど前までは1本5,000円ぐらいだったシャンパンが,ほぼ倍の1万円前後になっています。皆さんよくご存知の「ドン・ペリニヨン」は,昔は1万円,2万円で買えたのが,今は4万円,5万円するので,なかなか手を出せない。それでは「シャンパンに次ぐものは何だ」ということで,今,評判になっているのがイタリア,スペインなどのスパークリングワインです。
イタリアの「フランチャコルタ」は,シャンパンに追いつけ追い越せで,市販価格は5,000円から6,000円です。ミラノの東70~80kmの辺りで作っており,使っているブドウは基本的にフランスと変わらないシャルドネやピノ・ノワールで,作り方もほぼ同じです。
スペインの「カヴァ」は,2,000円前後で買えるのでお得です。バルセロナ近郊のペネデス地方で95%ぐらいが作られています。
フランスのブルゴーニュワインはずいぶんと値上がりしていますが,この地域のスパークリングワインの「クレマン・ド・ブルゴーニュ」は,3,000円,4,000円で買えるので,シャンパンよりお手頃。クレマンというワインはアルザス,ボルドー,ロワール地方にもあります。クレマンという名前が付くのは,スパークリングワインの少し上等なものですが,価格はお手頃です。
イタリアの「プロセッコ」は大きいタンクの中で泡を作って,びんに詰めるので,コスト的に安く,2,000円前後です。
南米のワインを無視せず,もう一度注目してください。最近はヨーロッパの資本が入り,すごくクオリティが上がっています。
例えば,チリの「ドン・メルチョー」という赤ワインは,昔は安かったのですが,今は2万円を超える値段になっています。首都のサンティアゴ周辺でワインが多く作られており,かなり品質が良くなっています。
アンデス山脈を越えたアルゼンチンには,メンドーサという標高800~1,000mぐらいのワイン産地があります。肉を焼く文化に対応して,「マルベック」というすばらしい赤ワインを作っています。焼肉を楽しむ際,このレベルの赤ワインを召し上がれば,それほど懐にも響かないと思いますし,相性十分です。
2,000円,3,000円で十分買えたフランス・ブルゴーニュ地方のワインが,円安で倍の値段になりました。ブルゴーニュの赤ワインと言えば,「ピノ・ノワール」ですが,高くなっていますので,ほかのエリアで考えてみると,最近はニュージーランドに良いピノ・ノワールのワインがあります。
もう1つお勧めしたいのがドイツです。私がこの業界に入った1972年ごろは,ドイツはリースリングというブドウを使った甘口の白ワインが9割以上でしたが,最近は赤ワインにも良いのがあります。初めてドイツのピノ・ノワールを飲んだとき,「これドイツなの?」と思ったほど,おいしいです。しかもフランスに比べると,かなりお手頃です。だまされたと思って一度ドイツのワインもお試しください。ドイツでは,「シュペートブルグンダー」と呼んでいます。
日本のワインも最近はとてもとても良くなってきています。現在,日本にワイナリーは490余りあり,多い順に山梨県,長野県,北海道,山形県です。もう一つうれしいことは,日本のブドウの品質がよくなっていることです。2010年に甲州ブドウが「甲州」という名前で初めて国際ブドウ・ワイン機構(本部・パリ)に登録されました。かつては甘口の白ワインしかなかったのですが,最近は食事に合う辛口のワインに変わり,とても高品質になってきています。「マスカット・ベーリーA」や「山幸(やまさち)」という黒ブドウ品種も国際品種に認められたことは,日本人として誇らしいことだと思います。
それと,「日本ワイン」と「国産ワイン」は違うということを覚えておいてください。日本でできたブドウのみで作られたものが「日本ワイン」で,海外で作ったワインをタンクで持ってきたり,海外で作ったブドウの濃縮果汁を日本に持ってきたりして作ったワインを「国産ワイン」と呼びます。
最後に,ここ大阪はかつて日本有数のブドウ産地だったことを覚えておいて下さい。柏原や羽曳野の辺りは,住宅開発が始まる前の大正末期から昭和にかけて日本で一番のブドウ栽培地だったのです。今でもブドウは作られており,明治時代から続くワイナリーもあり,とてもすばらしいエリアです。「知らんやろ,大阪のワイン,大阪のブドウは一番やったんやで」と,食卓の話題にもなると思います。
(スライドとともに)