京都大学大学院農学研究科を修了後,1985年から森林総合研究所においてナラ枯れや里山保全の研究に携わる。2010年,神戸大学大学院農学研究科教授に就任し,’22年の退職後は神戸大学名誉教授,京都大学生存圏研究所特任教授として活躍。また,日本森林学会の会長・理事などを歴任。’24年1月に神戸市副市長に就任し,SDGsの推進,特に森林・緑化施策を担当。
私は森林総合研究所や大学で40年余り森林病理学や里山管理の研究と指導に携わりました。退職後,自分の会社を作って里山の仕事を続けていたところ,神戸市長から声をかけていただき,2024年から副市長を務めています。私の役目は「資源循環による森林再生」と「SDGs推進」です。とても豊かで,多様な日本の自然を次の世代に渡すには,もう一度できる限り資源循環型の生活に戻し,森林生態系をみんなで見守り,関わっていく形の管理が必要だと考えています。
里山の広葉樹林を林野庁は「天然林」と呼んでいますが,全く天然ではありません。長らく薪炭,肥料の生産に使ってきた場所で,ほとんどは農家の所有です。燃料が不要になり,1950年代から放置されたため,今は大木化し,繁茂し過ぎになっています。暗い森に変化し,生物多様性の低下,災害リスクの上昇,獣害が指摘されています。研究者は2000年ごろから警告していました。里山の林を健康に持続させるには,使って再生させる資源循環に意識を向けていく必要があります。
森林の役目は,①資源供給(農村の現金収入として重要だった)②防災③農村文化④景観,安らぎ⑤CO2吸収⑥生物多様性の維持―などですが,都会の視点では⑤と⑥だけに注目します。里山の林は持ち主が農家なので私有林が多く,再生管理を税金でやろうとしても焼け石に水です。神戸市も結構な予算はありますが,税金の範囲内では100年掛かって半分もできない。つまり①の資源供給による現金収入がないと,②~⑥の機能は維持できないのです。里山の耕作放棄地の復活はボランティアが活発ですが,里山の森林には皆さん全く目を向けない。森林は自然のままが良いという誤解が続いており,状態が悪くなっていることが分かってもらえず,とても残念な思いをしながら仕事をしています。
「森の未来都市神戸」「神戸で進める森と人との関係修復」という取り組みは,かなり崩れてしまった森と人との関係を修復していく市の構想で,「森林・里山の再生」と「まちの緑化」を重視しています。
1970年,1回目の大阪万博が開催された頃から,日本はあらゆるものを輸入に依存し,大量生産,大量消費の生活になる一方で,農林業の衰退を招きました。地域にお金が落ちなくなったのはこの時代からです。人口減少が議論になっている最近では,日本は持続可能な社会なのか,すべてを輸入に頼り,安全・安心な生活ができるのかという疑問を耳にします。しかし,昔の生活に戻せるわけではなく,戻す必要もありません。資源循環をもう1回作るにはどうするか。私の役目としては,溜まりきった里山の木材をどう使うかを示し,不要なものと思っている持ち主に「資産」であることをお知らせしたい。
流通も作る必要があります。里山の木は,北海道と東北の一部を除いて使ってこなかったので,流通がほぼありません。放置で大木化した昔の薪炭林をもう一度利用して再生させることは非常に大事です。ここから資源循環型の社会,地域で経済を回すことに少しでも近づいていきたいというのが,この壮大な計画のスタート地点です。
とても難しいのが「自分事」になるかどうかです。農村部では過疎化,高齢化が進んでおり,都市住民や企業のサポートが必要です。都会人の目線では「野菜,果物おいしいね」「景色がきれいね」で終わってしまう。企業の皆さんが農村部にサテライトオフィスを1軒作るだけでもだいぶ違ってくると思います。
神戸では,“今風”の資源利用を進めており,「持続可能かつビジネスになる」ということが最重点項目です。まずやるべきなのは植林ではなく,今ある大量の木を使うことです。神戸市は行政主導の「リセット伐採」をしています。買ってくれる企業を決めてから伐採します。マグロのトロのように,木も良いところは少しなので,残りを捨てると森が荒れます。枝葉も薪,チップ,肥料といった使い道を見つけて,所有者の収入にすることが大事です。自分の財産だという気持ちを持ってもらわないと先に進まないので,できる限り所有者にお金の形で返し,「ちゃんと管理してください」と伴走していきます。
伐採しても,日本は温暖湿潤なので,3年ぐらいで若木が再生します。もし再生しなければ,他の木を植えるなどして育てて,次の利用で初めて資源循環です。1回サイクルが回るところまで責任を持つことを意識し,当面は行政がかなり管理する必要があると思っています。
一般的な炭の10倍,100倍の値段がする付加価値の高い白炭「KOBE備長炭」で,資源循環を収入にする計画です。神戸には材料になるカシがたくさんあります。徳島県の会社と連携協定を結び,神戸ビーフなどと地産地消できる方向で進めます。試し焼きを2回したら,高級レストランなどの評判が良く,今春から備長炭用炭窯の建設を始めます。国の予算も取れました。木だけ売ってもそれほどの収入にならず,合わせ技が必要なので,里山に適正な値札をつけるという考え方で,企業や移住者の呼び込みにも力を入れているところです。
資源を循環利用していくと,まず山林の里山保全効果が出てきます。良好な住環境や災害防止,農村地域の経済的安定につながります。私が地道にやりたいのは,住民の皆さん,地元企業の方々と一緒に取り組んでいくことです。ボランティア活動でもいいですし,二拠点生活やサテライトオフィスもお勧めですが,高齢化,過疎化で困っている農村部に一度住んでいただくと,状況が目に入りやすくなります。神戸市だけでなく,近畿,京阪神一帯が同じような状況だと思いますので,自然ともっとうまくつき合っていく方法をいろいろ工夫していきたいと考えています。
(スライドとともに)