大阪外国語大学ロシア語学科(現・大阪大学)卒業後1996年産経新聞社入社。モスクワ支局長,リオデジャネイロ支局長,運動部次長,社会部次長など歴任。2021年より現職。専門分野の露・旧ソ連諸国情勢,国際情勢に加え,オリンピック・パラリンピック,捕鯨問題にも詳しい。近著「動物の権利」運動の正体(PHP新書)。
今日は,皆様をウクライナの現場にお連れいたします。私は岩手県生まれ,大阪外国語大学ロシア語学科を卒業し,1996年(平成8年)に産経新聞社に入社,5年間モスクワに住みました。3年前に大和大学の社会学部に入り,昨年3月にフリーのジャーナリストとしてウクライナを訪問しました。
ゼレンスキー大統領は(侵攻前日の)2022年2月23日から毎日夜,国民にメッセージを流しております。私がキーウで聞いたのは「ゼレンスキーは本当の大統領になった。バイデンに会っても,EUで何かあっても,毎日夜,ウクライナ語でメッセージをくれる。」
—今のウクライナはロシアのくびきから外れることに邁進しており,皆さんがウクライナ語を話されています。
私がキーウに入った日,ホテルから5kmぐらい先にミサイルが落ちました。私は岸田前首相がキーウに行く情報を,直前にキャッチしたので現地に行ったのですが,会えませんでした。私はスマホにキーウの空襲警報をセットしており,それが1日3回,4回と鳴ります。私が警報に遭遇したのはタラス・シェフチェンコ公園というキーウ一番の公園でした。すでに’22年2月24日から1,000日近くが経ちました。この前もキーウにミサイルが落ちたのですが,誰も逃げていません。ウクライナは4,000万人だった人口が今3,000万人です。多くの方が海外に逃げています。ただキーウではサイレンが鳴る中,皆さんが日常を暮らしています。
この公園で,ある家族に話を聞きました。「今,空襲警報が鳴っているけれど,怖くないの?」。すると「いいえ,慣れたわ」と言うのです。「ロケット落ちてくるじゃない。大丈夫なの?」と聞くと「キーウにはそんなに落ちないから」と言われました。ミサイルが落ちるかはスマホの警戒レベルでわかります。本当に落ちてくるなら地下に逃げます。皆,逃げないから大丈夫,という非日常が彼らの日常になっています。
京都の寺田バレエの息子さんの寺田宜弘さんは,キーウでバレエをしていて,今は芸術監督をされています。日本では地震があると公演は開かれませんが,キーウではミサイルが落ちた日も公演を開きます。それはミサイルなんかに屈しないで日常を送るんだ,というロシアへの抵抗です。公演には女性も来ていますが,ドレスコードがなく,パンプスも履いていません。寺田さんもバレエダンサーは舞台でも戦っていると言っていました。誰もがロシア軍の侵略と戦っています。
ロシア軍は病院を狙います。病院は大きな病気を抱えていて,逃げられない方々の最後のすみかです。医療体制の弱体化,士気の低下を狙っています。ウクライナは2014年にクリミア半島を奪われ,そこからミサイルを撃たれています。「DVの男が30年前に別れた女性に,お前はやっぱり俺のものだ,と言うのと一緒だ」とキーウの方が言っていました。でもDVどころではなく多くの方々が亡くなっています。そして,病院を狙うのは国際人道法の保護違反です。その代わりに機能しているのは病院列車です。国境なき医師団が患者を西部のリヴィウに連れていきます。この鉄道網がなければ,ウクライナには血が巡らないのと一緒です。
多くの子がトラウマを抱えながら,悲惨な映像を見ています。朝起きて見るし,夜も見て寝る。だれがどこで戦闘しているかがわかり,何かあると心を痛めます。
真実は白も黒もないグレーです。戦争中は1分1秒で現状が変わります。私が一次情報を届けようとしても,ずっと変わってくるのが戦争の現状です。
今の時代は「Withプーチン」です。ゼレンスキーは安易な停戦はしません。今,安易な停戦をすれば,ロシアはまたやってくるから,将来のウクライナのために土となろうじゃないかと戦場に行くのです。ゼレンスキーが領土割譲をのんだら政権が倒れるぐらいウクライナの士気は高いのです。
一方でプーチンがいなくなるとロシアは大混乱となります。ウクライナに核を使おうという方々をプーチンが抑えている。10月下旬にBRICSは5カ国から9カ国に拡大しました。その結果ユナイトできない組織になった。プーチンは何とかして孤立しないように,これらの国々との連携を深めたい。ロシアから日本企業がかなり撤退した代わりに,すべてが中国の企業になり,中国がなければロシアは立ち行かなくなった。
私が産経新聞社でロシア報道をやっていた頃,ロシアは北朝鮮の核開発は絶対に許さなかったのですが,全く変わりました。経験を積んだ北朝鮮兵士が38度線の防衛に回れば,アジアの安全保障環境はまるっきり変わります。農業大国のブラジルは,ロシアやウクライナの肥料がなければ立ち行かないので,BRICSにつながっている。またモンゴル,ベトナム,タイ,ミャンマー,インドがロシアの兵器を買っている。
トランプ氏政権返り咲きで予想される2025年の姿は,モスクワを電撃訪問してトランプ大統領がディールをするのではないか。ジャーナリストのボブ・ウッドワードによると,トランプは’21年から’25年にプーチンと7回電話したそうです。ただトランプ政権の国務長官のポンペオはバイデン政権の武器支援は足りないと言っていた。軍事支援増強を掲げながらディールをするのではないか。そしてトランプは台湾にも相応の負担を求めるし,関税でも相応の負担を求めてくるでしょう。
(スライド・映像とともに)