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2026年1月30日(金)第4,993回 例会

心理学的アプローチによるプロジェクト活性化とイノベーション創出

森    勇 介 氏

大阪大学大学院工学研究科
教授
森    勇 介 

1989年 大阪大学工学部卒業,’91年 同大学院工学研究科修了。助手,講師,助教授を経て,2007年 教授に就任。研究成果事業化のため,’05年(株)創晶,’16年(株)創晶超光を起業。’13年に起業した(株)創晶應心は心理学的アプローチによる創造力活性化を提唱。高野山で得度し,弘法大師の教えに基づいた自己啓発法・人材育成法を開発している。

 なぜ心理学に興味を持ったかというと,大阪大学工学部の教授だった父(故森勇蔵氏)が最大の原因です。ものづくりの天才だった父に幼少期から怒られ続け,トラウマになっていました。大学で理学部に進学したいと父に言うと,「通用せん」と無理やり工学部に行かされるなど,進路に必ず口を挟む父に私は逆らえなかった。父親の言いなりになる人生でいいのかと悩む状況が続きました。
 今振り返ると,父の教育はすごく良い面もありました。父から「先生の言うことは聞くな」と教えられていたので,教科書はあまり読まない,人の言うことも聞かなかった。そのおかげで研究はうまくいきました。私が33年ほど前に発見した紫外線を出す人工結晶「CLBO結晶」は,人と違う発想で,非常識なことをいろいろやったからできたのです。この結晶がなければ,半導体の検査装置は動かない。人工知能(AI)は作れません。

心理学との運命的な出会い

 ちょうど25年前,心理学との運命的な出会いがありました。サンフランシスコで開かれた国際会議で講演した帰り,飛行機で心理学者の田中万里子先生(サンフランシスコ大学名誉教授)の隣に座ったのです。
 「なぜ日本ではベンチャー起業ができないのか?」と質問したところ,田中先生は「メンタルよ。トラウマが問題」と言いました。私が「メンタルが問題ならば,日本からはベンチャーは出ないのでは」と尋ねると,「メンタルは変えられる。トラウマを解消する方法を開発した」と田中先生は言いました。先生との対話を通して,父のことがトラウマになり,父の言うことを聞かなければと思い込んでいた自分に気づきました。私は「これを治したら絶対に人生が良くなる」と思い,田中先生が来日した際,阪大に来ていただき,トラウマを解消してもらいました。
 田中先生のカウンセリングは「ProcessOriented Memory Resolution(POMR)」を活用し,潜在意識にある記憶を塗り替える方法でトラウマを解消します。
 「お父さんに怒られると思うと,体に反応が出るでしょう」と言われました。よく考えると,みぞおちが重くなっていました。
 「それを最初に体験したのはいつですか?」と聞かれ,私が「納屋に閉じ込められ,泣いているシーンが出てきました」と言うと,田中先生は「そのときに『お父さんに逆らったら,またこんなことになる』という潜在意識の記憶ができた」と指摘しました。
 このトラウマをどうやって解消するかというと,イメージの中で,今の私がそこへ行って助けることから始まります。納屋の扉を開けて,出してあげて「お前は悪くない」と。そうすると,泣いていた自分がニコニコしてきました。田中先生が「記念写真を撮り,あなたが安心できる色の額縁に入れましょう」と言うので,「金色が出てきました」と答えました。ここからが本番で,「金色をあなたの頭の上から,体の中を通しなさい」と指示され,私が一生懸命やって通すと,田中先生は「これでトラウマが解消した」と言いました。
 実感はありませんでしたが,その後,私と父が話しているのを見た妻から「あなた,びびってないわね」と言われ,初めて効いていると思いました。この話を大学で話したら「新興宗教ちゃうか」と言われました。
 このカウンセリングを広めるため,「心理学的アプローチによるベンチャー企業創成」というプロジェクトを文部科学省に申請したところ,採択されました。被験者を募集し,約40人が田中先生のカウンセリングを受けました。「自分が思っていることを言えるようになった」「周囲の目を気にし過ぎることが少なくなった」という感想が多く寄せられました。
 トラウマを取ると,自分が思っていることを素直に伝え,相手の話を素直に聞けるようになり,コミュニケーション力が向上します。カウンセリングのおかげで,私はノーベル物理学賞を受賞した名古屋大学の天野浩先生にサンプル提供を依頼し,連携が取れました。カウンセリング前は厚かましいお願いができなかったのですが,それから25年一緒に共同研究をしています。企業の方々との人脈が広がり,医工連携もスタートできました。

文化とトラウマ

 「Culture eats strategy for breakfast」というピーター・ドラッカー博士の名言があります。ストラテジーは頭で考えた戦略で,カルチャーは身に染み込んだ文化やトラウマです。文化やトラウマに従ってしまうと,いくら戦略を考えても実現できないのです。
 イーロン・マスク氏がテスラで成功したのは,「ベストエフォート型」でビジネスをやったからです。失敗は悪という企業文化の自動車業界は「ギャランティ型」ですが,マスク氏はソフトウェアビジネスのように失敗を容認するベストエフォート型を実施したのです。日本はギャランティ型が強くなりがちな文化があります。日本は険しい山と狭い平野なので稲作が主流になり,皆でやる共同体の文化ができた。失敗しないために挑戦はしない,集団に嫌われることはしない―という文化がトラウマになってしまうことが多いのです。狩猟の方は個人行動,自己責任,失敗が当たり前なので,挑戦しやすい文化なのです。

日々心がけること

 阪大工学部では「レジリエンスサポート&トレーニングセンター」を設立し,年間400~500人の学生,教職員がカウンセリングを受けています。自分の能力を引き出すためには,心身ともに健康が大切で,トラウマを解消するにはカウンセリングが手っ取り早い。
 日々心がけることは,①三密加持②悪口を言わない③人のせいにしない④怒らない⑤「ありがとう」を言う―です。①は弘法大師の教えで,思っていること,話していること,実行していることを高いレベルで一致させることです。仏教の教えを集約すると②③④の3つになると言われます。この日々心がけることが「やりにくいな」と思う方は,トラウマがあるかも知れませんので,いつでもご相談いただければと思います。
(スライドとともに)