2010年8月,エコノミストとしてUBS証券に入社後,’16年11月より現職。マクロ経済,為替,債券等の調査分析,投資戦略の顧客コミュニケーションを担当。テレビ東京「Newsモーニングサテライト」や日経CNBCなど,各メディアにコメンテーターとして出演。UBS以前は,’10年までの9年間,内閣府にて政策企画・経済調査に携わり,経済財政の見通し・分析などを担当。
「重力圏からの脱出」というのは,来年の1年を表すであろうという意味でつけた副題です。高いインフレ率,米中対立,トランプ政権の政策の不確実性,民間・公的債務といった,金融市場で投資家のマインドを押し込めるような「重力」を乗り越え,世界経済・市場を新たな成長局面へ加速させることができるかが大きな焦点です。
AIが今後の経済に与える影響についてお話しします。実質GDP成長率に対する寄与度でみると,アメリカではAIに絡む設備投資が個人消費と同じぐらいにまで上がってきています。積極的なAI関連の設備投資が消費の減速を補い,経済を支えているのです。
世界のAI設備投資額は,今年4,200億ドル程度に達し,2030年には1兆3,000億ドルまで拡大する。今後5年間で年平均25%の成長を見込んでいます。データセンターやクラウド技術などにお金が入っていくのですが,「これだけ設備投資して,ちゃんと収益につながるのか」というのが一番の懸念で,金融市場で問われているポイントです。
様々な試算をしており,10%程度の生産性の拡大があれば,設備投資はペイするとみています。AIを製品やサービスで活用している「AI採用率」をみると,2025年に全産業で10%に達しています。今後,生成AIからエージェンティックAI,フィジカルAIへと新しい活用が進んでいく中で,5年,10年のスパンで見れば,AIはまだまだ普及が進み,生産性も急拡大していくと思います。
「AIの普及が進むと,いろんな職が失われるのではないか?」と,よく質問されます。アメリカの職業別就業者シェアの変化をみると,IT化,自動化が進む中で,高スキル技術職や対人サービスでないと難しい医療や介護の分野はシェアが上がり,事務職などはシェアがどんどん減り,「労働市場の両極化」が確認されています。AIの普及拡大も同様の影響をもたらす可能性は十分にあり,人の職はもっともっと姿が変わっていくと思います。
AIの進展もある中で,われわれは来年の経済について悲観的ではありません。アメリカの金利は4%を超えており,まだ利下げの余地がある中で,金利は低下していくと見ています。日銀が利上げして30年ぶりの0.75%となりましたが,インフレ率が高いので,実質の政策金利はまだマイナスです。日銀も1~2回程度であれば利上げできると考えているようですが,実質金利は低下した水準が続き,景気を支えるとみています。
高市政権はAI・半導体,造船など17の戦略分野を指定し,重点的に投資する方針を打ち出しました。税制改正では,企業の設備投資を後押しするため,設備投資減税か「即時償却」を選ぶことができる制度を創設します。さらにコーポレートガバナンス・コードの改定で,なぜ企業が貯蓄をしているのか,どんな目的で企業が原油,金,預金を持っているのか開示を求められることと合わせ,企業の設備投資,現預金の活用を促すと思います。
為替の話で,私が一番重要だと思っているのが,ドルと円の趨勢的な購買力の変化です。
ドルの購買力は上がっています。今年は金利低下で少し下がっていますが,歴史的に見たら大きく上がってきました。問題は円の購買力です。昔1万円で買えたものが,今は3万円出さないと買えない。つまり円の実質価値は3分の1にまで低下し,円の購買力は下がっている。名目の為替レートの下落とインフレの差によって,円の購買力が下がってきているわけです。
理由は簡単で,需要と供給です。この30年,日本は財政拡大,金融緩和で,どんどんお金を刷って,円の供給を増加してきた。一方,円の需要を見ると,貿易収支は赤字で,金融取引も低迷している。円の供給増に対し,需要が低下していることが,円の実質的価値の低下の要因なのです。
今後も財政を出してでも,円の需要,競争力を高めていく必要があります。今,円の価値は1970年代以来の低い水準です。70年代は製造業が頑張って,競争力を高めて,円が高くなりました。まだまだ日本にとっても商機があると思いますので,高市政権にはしっかり後押ししてもらいたいです。
AIと並んで重要なテーマになっていくのが電力・エネルギーで,日本に大きな商機があると思います。エネルギー効率のよい送配電の設備,発電設備の小型化,冷却装置,太陽電池など。日本はアメリカに80兆円投資していく中で,電力・エネルギーでは技術を持っていますので,まだまだ日本の製造業も頑張っていけると思います。
「円のリスク」は,われわれが注視している一つで,1ドル180円,200円にならないように,何とかして止めないといけません。
トルコのリラはどんどん下がっていますが,企業は元気です。競争力がなかったら,アルゼンチンのようになってしまいます。日本の強みを生かしていくように,高市政権には頑張っていただきたい。
2026年にわれわれが注目する投資テーマは,AI関連,電力と電源,健康長寿(ロンジェビティ)の3つです。
健康長寿というのは,アメリカは今後5年以内に60歳以上の人口が2割に達します。医薬品,医療機器,ヘルスケア,ロンジェビティというテーマが構造的にアメリカの経済,マーケットを引っ張っていくとみています。
格差の中では,政治の不安定化が生まれやすく,紛争や対外的な保守的な動きなどは,まだまだ出てくると思います。そういった中で,いかに資産を守っていくか。金であったり,未上場,非上場,へッジファンド,アルゴリズムが売ったり買ったりできないような資産など。リスクヘッジ,リスク管理にも注目しています。
(スライドとともに)