1978年に東京大学法学部卒業後,通商産業省(現・経済産業省)へ入省し,兵庫県出向,財団法人2005年日本国際博覧会協会審議役,経済産業省大臣官房審議官を経て,’08年より財団法人地球環境産業技術研究機構(現・公益財団法人RITE)専務理事に就任。’11年12月より公益財団法人として新たな組織体制下で専務理事を務める。
私は70年前に大阪市で生まれました。これが一つの自慢。京都の小学校に入り,3年生の時に父親の転勤で東京に引っ越し,その後,学校はずっと東京でした。1978年に通産省,今の経済産業省に入り,いろんな政策を行って,2008年に退官して,地球環境産業技術研究機構,略して「RITE(ライト)」の専務理事に就任しました。
RITEは地球環境の保全と世界経済の発展に貢献する産業技術の研究開発がミッションで,1990年に「けいはんな学研都市」にできました。京都府木津川市にあり,職員は197名,年間の予算規模は64億円です。
温暖化対策,二酸化炭素をどうやって減らすかということで,われわれが4本柱と呼んでいるのが,①二酸化炭素を分離・回収したり,有効利用したりする技術 ②回収した二酸化炭素を,再び大気中に出さないように地中に戻す貯留技術 ③植物を原料としてバクテリアで物質変換させるバイオものづくり技術 ④温暖化対策をするときに,どの分野でどういう技術を使い,どれぐらい削減するかのシナリオを作る研究です。
日本では年間約10億トンの二酸化炭素が空中に放出されています。一番いいのは,省エネルギー,原子力発電,燃料転換,新エネルギーなどで,二酸化炭素の原因となる化石燃料を使わないこと,減らすことです。しかし,発電所や産業を全部やめるわけにはいきません。発電所が全体の4割,工場などが約3割を放出しており,「大規模集中型」と呼んでいます。放出される二酸化炭素を効率よく回収して有効利用する,地下に戻すことで温暖化対策ができますが,すべて取り切れず,ある程度は大気に拡散します。「小規模分散型」というのは,自動車などの運輸部門,オフィスビル,商業施設,家庭などで,28%ぐらいの二酸化炭素が毎年放出されています。いわゆるCCS(二酸化炭素を分離回収して地中に貯留する技術)は難しいので,バイオマスを使い,原料のところで対応できないかということで植物を使う。こういったところが私どもの研究と温暖化対策,CO2排出削減との関係です。
1つ目の研究分野は「温暖化対策のシナリオ策定」で,1,000万ぐらいの方程式を使って,コンピューターでのマクロモデルで「将来の温暖化対策」をシミュレートしています。食料のアクセスの問題,将来の人口,温暖化や気候変動,エネルギー問題など,多種多様な問題について世界を54地域に分けて,それぞれの地域で,グローバルでどういう取り組みをしたらいいかを分析しています。
今年2月,政府が2040年の日本のエネルギー構造をどうするべきかを「第7次エネルギー基本計画」にまとめました。RITEは策定のお手伝いをしました。温暖化対策も進んで経済成長が実現できる「成長実現シナリオ」がベストのソリューションです。それがダメでも「再エネをしっかりやるシナリオ」,「水素系の燃料をたくさん導入するシナリオ」,「CCSを積極的にやるシナリオ」こういった代替案がありますが,これらがうまくいかなかった「低成長シナリオ」も用意しています。もう一つ,経済成長は大事だ,ある程度CO2が出ても仕方がないという考えもあるので「排出上振れリスクシナリオ」も検討しています。
この6つのシナリオで,日本経済がどうなっていくかの分析結果ですが,基本的には将来,電力需要は増大するでしょう。ただ,低成長シナリオでは,ちょっと落ち込むかも知れません。いろんな電源のミックスが重要だということ,最終のエネルギー消費量では,電化を促進することにより脱炭素するのが一番いいということです。ただし,水素,アンモニア,e‒メタン,e-fuel,バイオ燃料など代替エネルギー源もうまく組み合わせなければなりません。
それでも二酸化炭素を取りきれないので,ネガティブエミッションとなるDACCS(DirectAir Caputure with Carbon Storage)で,大気から二酸化炭素を回収して地中に戻す,そういった荒療治をしないと,2040年のシナリオは実現できない。ましてや2050年のカーボンニュートラルは実現できません。
2つ目の研究分野は,バイオものづくり技術の開発。植物の糖類をバクテリアが食べて,体内で物質変換をしてバイオ燃料,グリーン化学品に変わる。われわれの特徴は原料です。「非可食」,人様が食べないバイオマスを原料にしています。力を入れているのは,農産廃棄物系のバイオマスで,私が一番推しているのは,みかんの2番絞り汁です。ポンジュースを作っているえひめ飲料さんとのコラボで,ジュースの絞りかすをもう1回絞るのです。糖類がいっぱい入っており,バクテリアが食べる。ジェット燃料やスマホの液晶パネルの原料となるプラスチックに活用しています。
3つ目の研究分野が,CO2の分離・回収・有効利用技術です。排ガスから二酸化炭素を分離回収する技術で①液体吸収技術②固体吸着技術③膜分離技術があります。排出源ごとにガスの性質が違うので,回収技術も3つ開発しています。大気から直接二酸化炭素を回収する技術,Direct Air Captureの開発に一番力を入れています。
4つ目の研究分野が,二酸化炭素を地下に戻す技術,「CO2貯留技術」です。地下1,000m以下には水を含んだ砂地の層があり,「貯留層」と呼んでいます。そこをターゲットに穴を掘ってCO2を入れるのですが,その上に水や空気を通さない「遮蔽層」があるのが望ましい。地下に温度変化があるか,地層がひずんでいないかなど,影響を調べるための「光ファイバーモニタリング技術」の共同研究を海外3カ所で行っています。
大阪・関西万博の会場で「RITE未来の森ネガティブエミッション実証プラント」を展示しています。ぜひお越しください。
(スライドとともに)