(米田会員)本日は大岡仁さんのヴァイオリン,そして崎谷明弘さんのピアノ。リハーサルでお聞きしましたが,すばらしい演奏です。プロフィールをご紹介します。大岡さんは,中学生のときに全日本学生音楽コンクール全国大会第1位。日本音楽コンクール第2位,これは高校生のときに,大学生や一般の社会人も含むコンクールで第2位。数多くある日本のコンクールの中で,この日本音楽コンクールが一番伝統のある,一番難しいと言えばいいんでしょうか,そのコンクールで高校生のときに第2位はすばらしい。東京芸術大学にトップで合格する力を持ちながら,相愛大学に特別奨学生として入学しました。当時,小栗先生というヴァイオリンのすばらしい先生がおられ,彼はその先生のもとで勉強して実力を磨きました。実は私,彼の特待生の入学試験の面接をしておりまして,「最近読んだ本で感銘した本は?」と質問したら,「ヘルマン・ヘッセの『車輪の下』」と彼は答えました。私は勝手に想像したのですが,彼は小さい頃からヴァイオリンをやって,高校生で全国2位になり,将来もヴァイオリニストとして歩む道に決まっていたのでしょうが,ひょっとして物理学が好きで,宇宙の果てを研究したいということもあったかもしれません。しかし,音楽を勉強しているので,やらざるを得ないな,そういう葛藤があって,「車輪の下」の主人公に感銘,共感したのではないかと,私が物語を作ったんですけど,そういう感じを受けました。
彼の大学時代の演奏を聞いたとき,非常にまじめな青年で,音楽も非常にまじめで,その作曲家の楽譜どおりにきちっと演奏する,そういう演奏だった記憶があります。しかし,先ほどリハーサルで聞いたときには,その楽譜を超えた,ロマンティシズムと言いますか,それを感じました。非常にきれいな音で,ロマンティックに,楽譜どおりじゃなくて,その中から彼の感じる音楽,作曲家が感じる音楽をとことん追求した美しい音を彼は奏でており,かなりすばらしい成長を遂げたのではないかと思います。まだ若いですから,これからますます頑張られることでしょう。ついこの間までボン・ベートーヴェン交響楽団の第1ヴァイオリン奏者,そして今年1月からベルリン・コンツェルトハウス管弦楽団第1ヴァイオリン奏者として試用期間開始ですが,そのまま楽団の正式第1ヴァイオリニストになられると思います。
ピアノの崎谷さんですが,大岡さんがヴァイオリンで1位になったときに,ピアノで中学生の1位になったそうです。大学生の頃だと思いますが日本音楽コンクール3位。その他たくさんの賞を受賞し,活躍されています。
きょうは皆さん,こういうお二人の演奏を楽しんでいただきたいと思います。1曲目の作曲家バルトーク(1881年~1945年)は,あまり聞かない名前だと思いますが,当時のオーストリア・ハンガリー帝国のハンガリー王国の地に生まれ,特にハンガリー民族音楽を研究しました。曲名は「ルーマニア民族舞踊」ですが,ルーマニアはハンガリーの一部だったことがあります。
2曲目の作曲家ブラームス(1833年~1897年)は,中学の音楽の授業で,「ドイツの三大B」と名付けたバッハ(Bach),ベートーヴェン(Beethoven),ブラームス(Brahms)というふうに習った記憶があります。
ブラームスは完璧主義者で,作品が人気を博して大成功を手に入れた後も,質素な生活を好み,親戚たちを経済的に援助し,匿名で多くの若い音楽家を支援しました。「偉大な音楽家」と言われるのが嫌いで,地味で目立ちたくない性格というか,人前に出てほめられるのが嫌な性格,そういう人物だったそうです。しかし,音楽の中には非常にロマンティックな彼の情熱が凝縮したものがありまして,ブラームスの「交響曲第1番」は,これはある有名な指揮者が言ったのですが,「ベートーヴェンの交響曲第10番だ」と。ブラームスの音楽は,ベートーヴェンのすばらしい音楽の上にブラームス独特のすばらしい音楽が重ねられると言われています。
♪「ルーマニア民族舞曲 Sz.56」
べーラ・バルトーク作曲
(大岡仁氏)皆さん,こんにちは。きょうはこのようなすばらしい場で演奏させていただき,ありがとうございます。1曲目にバルトーク作曲の「ルーマニア民族舞曲」を演奏させていただきましたが,続きましては,「ブラームスのヴァイオリンソナタ第2番」です。ブラームスは3曲のヴァイオリンソナタを作曲しましたが,この第2番はその中でもとても優雅というか,気品があって温かみのあるソナタとしてとても有名です。今回はピアニストの崎谷様との演奏でリハーサルをするにあたり,ブラームスがどのように書いたのかを分析したときに,円熟期のブラームスの書き方がすごいなと感心することがいっぱいありました。普通ソナタだと,ヴァイオリンとピアノが,伴奏とメロディーを交互に受け渡すような単純なものもあるのですが,この曲では内声部の書き方がとても重要と言いますか,ハーモニーのすごく大事な部分があったり,どの細部も本当に重要に書かれていて,演奏しがいのある音楽です。すばらしいピアニストの崎谷様に伴奏していただくので,その辺りも注目して聞いていただければありがたいと思います。楽しんで聞いてください。
♪「ヴァイオリンソナタ第2番イ長調 作品100」
ヨハネス・ブラームス作曲
1986年生まれ。相愛大学音楽学部を特別奨学生として卒業後,ニュルンベルク音楽大学修士課程を卒業。ベルリン芸術大学ソリストコースでも学ぶ。全日本学生音楽コンクール全国大会第1位。日本音楽コンクール第2位および聴衆賞。タデウシュ・ヴロンスキ国際無伴奏ヴァイオリンコンクール第1位。小澤征爾指揮,桐朋学園同窓会オーケストラと共演。以来,国内外のオーケストラと共演。2025年1月よりベルリン・コンツェルトハウス管弦楽団第1ヴァイオリン奏者として試用期間開始。クァルテット澪標のメンバー。
1988年生まれ。パリ国立高等音楽院・東京藝術大学大学院修士課程を共に首席修了し,同院博士後期課程にて博士号を取得。日本音楽,リヨン・ブゾーニ・ハエン賞・サンタンデールなど,国内外の著名コンクールで入賞や優勝を重ねる。指揮や編曲も手がけるなど,その活動領域を広げている。兵庫県にゆかりの若手・中堅音楽家団体「音みらいHYOGO」代表。神戸女学院大学音楽学部准教授,大阪教育大学・大阪音楽大学・京都堀川音楽学校各非常勤講師。神戸ピアノ三重奏団のメンバー。