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2025年5月23日(金)第4,964回 例会

国力衰退の原因は教育にあり

佐 川  泰 宏 君

会 員 佐 川  泰 宏 

1970年 関西学院大学文学部卒業。同年,(株)東京アカデミー入社。’88年(株)東京アカデミー代表取締役就任。’90年(株)テレコムスタッフ代表取締役就任。2006年10月 当クラブ入会,’13年理事・友好委員長,’20年 理事・役員・副会長,クラブ奉仕(戦略計画)委員長を歴任。現在に至る。

東京アカデミーは元々,東京にありましたが,大阪の会社が次々東京に出ることを憂慮して,20年前に本社を大阪に移しました。

国力の衰退は教育の迷走にも原因がある

 日本の国力にはいろんなデータがありますが,ひどい数字ばかりです。GDPはドイツに抜かれ,今や4位です。国力の衰退の原因はまず「人口の減少」と言われますが,ドイツの人口は日本の6割ぐらいですので,それだけではありません。2番目の原因は「政治の劣化」。議員が世襲になり「家業」の継続が一番大事になってしまいました。国政は続けるだけの人だと困ります。小泉大臣も世襲ですが10年前に自民党農林部会長でえらい目に遭ったのでリベンジに期待しています。石破総理も(2008年の)農林水産大臣でやりたいことはできなかったので,いいチャンスです。私が好きなウルグアイのムヒカ元大統領の名言は「国を治める者の生活レベルは,その国の平均でなければいけない」です。もしそうなると,平均年収は日本人が4,000万円になるか,国会議員が400万円になる必要があります。3番目の原因が今日のテーマの「教育の迷走」です。教育とは人を育てることですが,ビジョンがないのでバラバラな政策をずっとやっています。
 教育の指標には例えば有名な国連のSDGs目標,OECDのウェルビーイング指標やPISAの評価がありますが,いずれも抽象的です。経団連のアンケート「求められる若者像」では1位が「コミュニケーション能力」,2位が「自主性」で十数年不動です。文科省の学習指導要領は10年くらいで変わりますが,現在の1番は「主体的で」,2番「対話的な」,3番「深い学び」です。経団連は2番目までは似ていますが,3番目はかけらもありません。経団連は深い学びを学生に望んでいるわけではなさそうです。ただ文科省も深い学びはうまくいっていないようです。今の高等学校の科目とコマ数は,みなさんのころとほぼ変わらず,80年間で「情報」が最近入ったくらいです。日本は戦後,マッカーサーの教育改革の後,朝鮮戦争の特需があり,大量生産・大量消費を経てジャパン・アズ・ナンバーワン時代まで,なんとなくうまくいっていました。このため原因を見ておらず,変え方もわからないまま,80年間,似たことをやっていました。

深い学びで「マークシート脳」を変える

 この30年,日本は給料が変わらない大停滞期に入っています。教育は時期や必要に合わせてビジョンを変え,内容を変えるのが当たり前ですが,何も変わっていません。原因はマークシートです。マークシートは大学受験に限らずいろんな国家試験を採点します。1969年,立教大学が初めて受験の採点に使ってから,今まで途切れることなく使われています。ただマークシートは解のない問題が採点できないため,われわれの頭脳が世の中には全部正解があるという「マークシート脳」になってしまいました。教養とは思い込みや思考の癖から抜け出し,課題の解決を学ぶ技術や手法ですが,マークシートから得られるのは得点と順位と偏差値だけです。偏差値で大学の順列が決まり,模擬試験で大学がほぼ決まり,その学校歴で会社に就職するという一直線です。高校で失敗するとリベンジしにくい社会構造になりました。就職氷河期の人たちは2,30年たっても普通に就職ができません。このような社会は何とかしたいのですが,30年間給料が上がらない社会は異常です。
 深い学びを追求する上で足りない科目があります。それは旧制高校にあり,リベラルアーツの中心科目である「哲学」です。私の出身の関西学院の附属高校には「ものの見方,考え方」という哲学の科目があり,高校時代で一番印象に残っています。フランスのバカロレア試験は高校卒業かつ大学入学の認定であるため高校生は全員受けますが,その最重要科目は哲学です。2021年の問題は「無意識はあらゆる認識の形式から逃れているか」でした。これを4時間かけてフランスの高校生全員が解きます。フランスは高校3年生の時に哲学の授業が1コマありますが,それでも合格率は3割だそうです。文科省が深い学びを必要とするなら,そういう科目を作り,育てたい日本人のビジョンを持ち,カリキュラムを作る必要があります。それにはこの哲学がヒントになります。

哲学科目と教育を語るエリートが必要だ

 私の提案は,まず高校3年生に週1コマ「哲学」を入れることです。また高校全学年に週1コマ「議論」を導入します。議論は体育祭のあるべき論でもかまいません。日本人はスピーチ力が弱いので,ものを考える習慣が必要です。さらに小中高校の全教諭に二刀流,一人2科目を導入します。地理の代わりに哲学を入れると地理の先生が全員失職してしまうという話になります。そうではなく一科目を一生やる考えを先生に変えてもらいます。物理の先生が化学も教えるようになるだけでなく,理科系の人が現代文も教えるように,分野が違うと教え方が変わるかもしれません。
 ただ日本の教育は少し変えるだけでは良くならないところまで劣化しています。一番大事なのは日本のビジョンを語れるエリートを育てることです。それには毎年100人くらいを大学院まで賄うような制度が必要です。高校無償化にかける1,000億円ぐらいあれば不可能ではないでしょう。
 今,不登校の生徒は小中学校で34万人,高校を入れたら100万人近くいます。学校教育になじめない人がそんなにいるなら教育を変えなければいけません。私は日本のビジョンを語り,教育を語るエリートを育てることが必要だと思っています。
(スライドとともに)