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2024年11月29日(金)第4,944回 例会

アフターコロナの欧州に見る7つの着眼点

佐々木    誠 氏

三井不動産株式会社 S&E総合研究所
上席主任研究員
佐々木    誠 

大阪大学経済学部卒業後,三井不動産(株)入社。ららぽーと,東京ミッドタウン,都心型商業ビルなど,多くの商業施設企画・開発・運営業務や三井不動産S&E総合研究所・上席主任研究員を歴任。執筆書に「北米のファッションストリート」,「世界の都心商業」などがあり,一般雑誌・新聞にも執筆多数。

 コロナの鬱々とした日々を助けてくれたのは阪神タイガースのジャスティン・ボーアの規格外のホームランでした。私は「規格外」という言葉が大好きです。今日は日本にほとんどなく,かつヨーロッパで図抜けて目立つまちづくりを見ていただきます。

まちに緑あふれる建物や道路をつくる

 まず1つ目は「ヴァーティカル・フォレスト(都市型垂直植栽)」です。アムステルダムの複合開発ビル「VALLEY」は,でこぼこした全ての箇所に植栽が乗っている垂直の森です。こういった建物はヨーロッパに広がりつつあります。商業エリアとオフィス,レジデンスのミクストユースです。誰でも途中まで上がれるので,7階あたりから見下ろすと緑でいっぱいです。このような緑コンシャスな建物はアフターコロナの一つの大きな潮流です。グラングリーン大阪もすごく時宜を得た開発でした。パリにも段々畑が垂直に上まであるビルや,新都心ラ・デファンスで,大理石の道を緑にする計画があります。御堂筋を歩道にするのとほぼ近い話です。
 2つ目は「イノベーション・ディストリクトへの挑戦」です。大阪にはイノベーションの拠点が梅田北ヤード第1期に入っていますが,今回訪れたのはバルセロナです。ここでは大学をイノベーションの中心にして,周辺に家や起業家の小さなオフィスを貼り付ける壮大な22@(ヴィンティ・ドス・アローヴァ)という開発が進んでいます。メディア,IT,メドテック,エネルギー,デザインをテーマに大学の学部を引っ越しさせ,関連する企業を集めました。またこれまで世界になかった開発は,道路の片側を森にする計画です。御堂筋の歩道化に近いので,大阪もアフターコロナはかなりイケているかもしれません。
 バルセロナでは,毎年スマートシティ・サミットという国際カンファレンスを開いて,スマートシティのメッカだと訴えています。国際会議を持つのは大事なファクターです。

住む人のためのまちという原点に戻る

 3つ目の「都心のパブリックスペース創出」もバルセロナの話です。ここでは交差点を右側にしか曲がれないようにして通過交通を一切入れません。大幅に交通量が減り,騒音も減りました。また道路の片側に緑を植えたり,ベンチやアートを置いたりしました。これも御堂筋の考え方に似ています。文句を言う住民もいますが,デジタルでデシディムという仕組みを作って議論してもらっています。道路は人のものだという原点に,世界中の大都市が戻ろうとしています。
 4つ目が「デザイナーズ・ミクストユース」というデザイナーや建築家の能力をふんだんに使う開発です。ロンドンのバターシー・パワーステーションは昔の発電所です。建物の形がロンドンっ子に格好いいと評価され,それを残す形で下にはショッピングセンター,上にはアップル社が入り,最上階は分譲マンション,煙突は展望台に変わりました。マンションは破格の値段でしたが,すぐ売り切れました。
 周りの分譲マンションではフランク・ゲーリーが建てたボコボコしたマンションの間取りがどれも微妙に曲がっていて,世界に1戸しかない部屋です。ショッピングセンターは発電所の構造体を使って面影を残していて,世界で一番格好いいところです。Z世代やミレニアル世代には,古く生き残ったものに価値があると考える傾向があります。大阪ガスのビルも半分残しています。
 私は不動産開発におけるクリエイティビティの重要性を感じています。アートのリアルな力は本物を見なければ感じられません。グランフロント大阪もすごくいい開発です。三井不動産も「残しながら,蘇らせながら,創っていく」という標語のもと東京の日本橋で開発をしています。

リアルさやクリエイティビティを追求

 5つ目は「街の集客の核としてのフードホール」です。日本初の「タイムアウトマーケット大阪」の1号店はリスボンです。3棟の市場のうち2棟をフードホールに変えましたが1棟は野菜市場として残っていて,ものすごく本物くさいのです。大テーブルで知らない人同士が食べる雰囲気もすごくいい。
 2階はコワーキングスペースで,1階のフードホールもここ1店だけのいわば「食の起業家」です。上も下も起業家精神がみなぎっていました。リアルな場の価値の中でも大事な「食」を,とことんまで追求しています。
 6つ目の「イマーシブ(没入感や体験を重視した)エンターテインメント」は,日本でも増えてきました。ロンドンのザ・ナウ・ビルディングは待ち合わせに使われる場所で,天高15mの大空間に和尚さんが空を飛び,恐竜が出るわ,マンモスはいるわ,のアートな映像が映し出されます。グラングリーン大阪の「イマーシブ・エンターテインメントの館『VS.』」も見応えがあります。京都府立植物園の“ライトサイクルキョウト”は夜のイマーシブです。
 7つ目は「田園都市型ミクストユース」。「シャトー・ラ・コスト」は200ヘクタールのブドウ畑です。オーナーのパディ・マッキレン氏が香川県直島の芸術村を見て,同じように造りたい,と直島で建築した安藤忠雄に相談しました。畑にジャン・ヌーヴェルなどの建築家が作ったパビリオンが40個点在しています。地方を魅力的にした例には三重県多気町の「VISON(ヴィソン)」,千葉県木更津の「クルックフィールズ」もあります。
 今日紹介したように,まだまだ日本でも実現が期待される「まちづくり」があります。ぜひ皆さんと「まち」を変えていけるとよいと思います。
(スライドとともに)