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2024年8月23日(金)第4,934回 例会

不安と不満が渦巻く世界の選挙

浅 野  貴 昭 氏

住友商事グローバルリサーチ
国際部長/シニアアナリスト
浅 野  貴 昭 

東京大学文学部卒業。ニューヨーク大学にて政治学修士号取得。日本政策投資銀行ワシントン事務所,経済団体勤務などを経て現職。担当分野は米州情勢,経済外交。著書・論文:『Handbook of Japanese Foreign Policy』「経済外交」章を共著(2017年),『TPPでさらに強くなる日本』(共著,2013年)など。

 住友商事グローバルリサーチの浅野です。商社の調査部ですので,国際政治経済の情報を提供するのが任務で,その一つが選挙です。今年は選挙が多く,政治リーダーシップの変動はビジネス環境の変動にもつながります。

世界には怒っている有権者が多い

 今年の世界の選挙は,イギリスやインドを見ると,コロナに伴う物不足,インフレなどが積み重なり,怒っている有権者が多いというのが現状です。8月はバングラデシュの政府に対するデモが大きくなり,4選を決めたばかりのハシナ首相がインドに逃げました。
 アジアでは台湾で1月に総統選がありました。選挙は平和裏に行われ,就任も大きな混乱はありませんでした。蔡英文首相の民進党が総統職を維持し,これまで通りの外交・内政の方針ですが,国会がねじれて,運営に頼清徳新総統が苦慮しています。
 3月はロシアの大統領選がありました。プーチン大統領の得票は87%と圧勝でした。2030年までが任期ですが,もう1回当選すると,’36年まで居続けることになります。国防大臣に経済学者を持ってきたのは,ウクライナとの長期戦に備えて組織を整備し直す意図だと言われています。
 世界最大の民主主義の選挙と言われるインドの選挙もありました。モディ首相が余裕で政権を維持する予想でしたが,与党インド人民党がかなり議席を減らし,連立を組んで政権3期目が発足しました。インド人の専門家によると国民に実利を与えなかったので,お灸を据えられてインドの民主主義には,よかったと言う方が多いようです。

G7サミットの首脳たちには内政に悩み

 6月,イタリアのG7サミットに出た首脳たちは,議長国以外は政権基盤に悩みを抱えていたようです。EUの議会選は国単位で選挙するのですが,右派が台頭して,各国の内政にまで響きました。フランスは解散しましたが,ドイツは解散した瞬間,政権がだめになると言われています。イギリスは総選挙で14年ぶりに政権が交代し,労働党の首相が権力の座に就いております。アメリカは11月に選挙があります。選挙を予定していなかったはずの日本も岸田首相が退陣します。皆,心の中に悩みを抱えながらのサミットでした。
 欧州議会選で,思った以上に右派が台頭して大変だ,と言う理由の一つは,気候変動などのグリーン化政策のスピードが少し変わるのではないかという点です。欧州委員会の委員長も再任され,気候変動対策,脱炭素の目標は変わっておりません。それでも右派には気候変動はウソだと言う人もおり,新たなルールを作り,リーダーシップを取ろうとしています。
 フランスは選挙で右派が議席を増やしたので,中道と左派が連立を組んで,何とか右派を止めました。ただ首相はオリンピックが終わってもまだ出せていません。
 イギリスは,予想どおり労働党に変わりました。前の党首はガチガチの左派でしたが,今のスターマー党首は経済やビジネス活動に理解があり,混乱は今のところないようです。
 イランの大統領選挙は世界のびっくり選挙の一つでした。イランは権力を握る最高指導者らが立候補を絞り込むのですが,改革派と目されるペゼシュキアン氏が大統領になりました。いきなり改革開放,国際協調路線に舵を切ることはないでしょうが,欧米とはうまくやっていきたいそうです。ただアメリカは誰がなろうと政策は変わらないだろうと言っております。

候補者で変わった米大統領選の熱気

 アメリカは,米シカゴの民主党の党大会でカマラ・ハリス副大統領が党の指名を受諾しました。後は11月5日の本選に向けて選挙戦が展開されます。選挙前に候補者のテレビ討論会は行うものなのですが,今回は誰が出るか分かっていて関心が高まっておらず,6月にやったのです。ところがバイデン大統領はパフォーマンスに非常に精彩を欠き,実質的に引きずり降ろされる形になりました。バイデン・トランプだと民主党,共和党とも候補者に満足している党員は20%しかなかったものが,今回,候補者が変わり60%に跳ね上がりました。少なくとも民主党は非常に熱気が高まったようです。
 掲げる政策・公約は伝統的には民主党は大きな政府,労働組合を支持基盤として,貿易は保護主義的と言われています。共和党は小さな政府,減税,大企業の立場をくみ,貿易は自由貿易で,安全保障にも強いと言われてきました。今はトランプ党になり,共和党はブルーカラー層,労働者層を取り込もうとしていて,貿易も非常に保護主義的になりました。ただ大統領が経済を左右できる範囲は限られており,政策は議会を通す必要があります。議会がどう転ぶか,票差や多数派を見ておかなくてはいけません。
 支持率は今朝,47%強がハリス,トランプは44~45%です。3%勝っていても,誤差の範囲内ですので,現段階では伯仲しています。バイデンが辞める前のハリスは,好感度調査では35~36%,不支持が50%を超えていました。国民に大事な課題について聞くと,今は経済とインフレを心配しています。経済手腕に関する信用調査は,今のところトランプが10%ぐらい上回っていますが,ハリスが上回ったりする調査も出てきています。
 激戦州が左右する大統領選挙は,最終的に1億5,000万のうち40万人で決まる構図は今も変わらないのですが,ネバダ,アリゾナ,ジョージアは,ハリスが押さえる可能性があるかもしれません。ただ訴訟などでもめるのも想定できます。世界一の経済,軍隊の国でも,足元がそんな状態で大丈夫かと思いますが。
(スライドとともに)