大阪ロータリークラブ

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2024年6月21日(金)第4,926回 例会

Nakanoshima Qross が実現する健康未来都市

澤    芳 樹 君

会 員 澤    芳 樹 

1980年大阪大学医学部第一外科入局, ’89- ’91年独Max-Planck研究所心臓生理学部門,心臓外科部門に留学, 2006年大阪大学大学院医学系研究科心臓血管外科教授。
医学部附属病院未来医療センター長,臨床医工学融合研究教育センター長,未来医療開発部長,国際医療センター長,医学系研究科長・医学部長などを歴任。’21年3月退官。

 ロータリークラブに入会させていただいて8年目でございます。医者になってもう40数年です。実は「Nakanoshima Qross」(中之島クロス)が6月29日にグランドオープンし,7月から本格的な活動を始めます。「何だこれ?」と思っていらっしゃる方も多いかと思いますし,ロータリーの皆さんにも知ってもらおうと思います。

「民」が支える大阪の医療

 中之島クロスがどんな形でこれまで発展したかというよりも,まずは大阪における医療について説明しますと,やはり大阪は天下の台所で,中之島が中心地です。一方で,薬の街として道修町は江戸時代から栄えてきました。今,田辺製薬(現・田辺三菱製薬),小野薬品,武田薬品,塩野義製薬,大日本製薬(現・住友ファーマ)などが薬を作れるのは,この町があったからです。薬を作る国というのは9つしかなくて,その原動力になったのが中之島でした。
 製薬の源流を抱えるなかで,大阪大学がどう発展をしたかというと,一度,緒方洪庵の適塾は閉鎖されましたが,その後,明治元年に大坂仮病院・仮医学校が設置されました。その仮病院・仮医学校が帝国大学になり,今の大阪大学医学部になりました。
 大大阪時代は,大阪が誇るべき日本で一番大きな都市であった時代です。江戸時代のGDPがほとんど「大坂」からということで,大阪に経済的な力があった最後の時代に「大阪に帝国大学を」という声が噴出しました。ところが,文部省が不要と判断したため,逆に市民や府知事,財界の方々の力と財源によって大阪帝国大学ができました。
 吹田に附属病院が移転してしまう前は,堂島川に沿って阪大病院の長い病棟がありました。移転後は,中之島センター以外は空き地だったのですが,2018年ごろに中之島4丁目を再開発する話が持ち上がり,未来の国際拠点を設けようという計画が始まりました。
 この中之島クロスは,帝国大学と同じで日本生命や関電不動産,京阪ホールディングスなど,再び民の力で設立にこぎつけました。これは大阪の底力だと私は思っています。京阪電鉄が走っており,今後なにわ筋線が完成する’30~’31年ごろには未来の国際拠点として機能していることと思います。

中之島クロスの中身

 中之島クロスですが,建物の高さが違いまして,高い方が「未来医療R&Dセンター棟」(R&D棟,16階建て)で,再生医療を中心に新しい医療分野の開発拠点にします。人と企業との交流の場になります。
 低い方は「未来医療MEDセンター棟」(メディカル棟,11階建て)です。色々な医療機関に入ってもらいます。R&D棟では,研究開発,医療開発のほか,新医療に関する研究とその実証も同じ建物の中にあるメディカル棟で実行します。このユニークさは世界においてもここにしかないと思います。企業は既に41社に参加いただいています。ここは再生医療を中心としながらも,未来医療,再生医療のエコシステムを立ち上げて,細胞の調達から保存・保管,研究開発の支援などをワンストップで行えるような,今までになかった医療を発信していく施設にしたいと思っています。代表の一つが再生医療ですが,他にも遺伝子治療や(AI人工知能)など,ロボットを使った新しい研究開発,治療開発もここで進めていこうと考えています。

医療事業化の国内拠点へ

 私たちが何よりうれしいのは,山中伸弥先生のプロジェクト「my iPSプロジェクト」が中之島クロスでスタートすることです。
 京都大学の中で,これまで基礎研究が培われてきたのですが,山中先生も社会実装を考えたときに,都心部の利便性の高いところの方がビジネスとして展開しやすいというメリットがあります。新ビジネスが生まれるように中之島クロスを運営したいと思っています。
 中之島クロスの,iPS細胞の大量培養は,世界でも実現できている数少ない技術です。日本では山中先生のノーベル賞以後,従来にないぐらいの巨額の研究費がiPS細胞を使った医療開発に投じられています。この分野については,これから新しい産業が起こると言われていますし,それを実現していかないといけません。例えば,大量に心筋細胞をつくる技術を提供して新しい事業を,という話を提案すると多くの企業からお声がけを頂けました。新しいものを作らないと発展しないということを体現するのが中之島クロスの考え方です。
 それから医療のインバウンドも非常に今,増えてきています。中之島クロスの中に「国際医療貢献プラットフォーム」という名前で,海外から自国で治らない医療を日本でやってほしいという希望者を取り扱う部署を立ち上げるつもりです。日本は医療のレベルもホスピタリティも高いのに,事業化できていません。ここでは実現途上で生じた問題を集約して対処するかたちにしようと思っています。
 日本はベンチャーを立ち上げても,スタートアップをつくっても,CEO候補がほとんどいません。IT系は居る方ですが,バイオ系,ヘルスケア系は人材が不足しています。ですから,まずは人材育成。それから,ベンチャースタートアップとインキュベーション(起業支援),最後にオープンイノベーションで全体を発展させることを目指しています。
 大阪,中之島の発展はこれからスタートし,来年はいよいよ万博です。命や健康に関係する事業が進んでいきます。大阪はこのような健康医療に関する大きなまちづくりに,この中之島クロスが貢献していければいいなと考えております。
(スライドとともに)