1984年三井物産株式会社入社。
2000年クアラルンプール支店機械部長,’08年人事・総務部次長,’10年プロジェクト開発第一部長,航空・交通事業部長,’16年理事アジア・大洋州本部副本部長,’18年理事ワシントンDC事務所長を経て,’21年4月より現職。
「流動化する世界情勢」というタイトルでご説明したいと思います。一昨日ワシントン,アメリカから帰ってきたばかりでございまして,約2週間,約50人強の方から話を集中して聞いてまいりました。少しだけ世界情勢について話をした上で,時間の許す限り,大統領選の現状やトランプ政権復活などの話をしたいと思います。
最初に,2024年はどんな年?ということで,私見を大胆に挙げます。中東紛争が拡大するんじゃないかという懸念。それから中国のリスクと台湾有事,北朝鮮のリスクです。
あとは米中対立激化の可能性と,アメリカの大統領選,これはどちらが選ばれても荒れると感じます。
世界的にあちこちで紛争が勃発するかもしれない。ウクライナ戦争は継続し,これが東アジアに波及しないかという最悪のシナリオもあります。大統領選の結果,空白地帯ができて,中国が一気に台湾統一を図ると,日本も韓国も食料,エネルギーが入ってこなくなる危機的状況になり得ます。
外交問題評議会というアメリカで最も権威のある外交問題のシンクタンクが,毎年リスクを並べています。今年のトッププライオリティは8つあって,そのうち3つにアメリカが関わっています。可能性が高くて,影響度が非常に大きいものとして,アメリカ国内のテロ,暴力。2つ目は中東紛争の拡大,長期化。3つ目は米国の不法移民です。残り5つはウクライナ戦争,台湾有事,イラン・イスラエル戦争,米国に対するサイバー攻撃,北朝鮮の攻撃です。
日本を取り巻く安全保障環境ということで,第三次世界大戦を懸念されている声が非常に多いです。
以前,国防長官をしていたロバート・ゲイツが寄稿文の中で,アメリカが機能不全を起こしていて独裁者が危険な賭けに向かおうとしていると述べています。
南シナ海と台湾,関係する日本と韓国もいわば台湾海峡が生命維持装置で,そこが止められることを懸念しています。「世界最悪の安全保障環境」という言葉をよく聞きます。自由・人権尊重・法の支配・民主主義といった普遍的価値を共有しない,チェックアンドバランスの効かない独裁者が統治する,核を保有する3つの国に囲まれていて,台湾統一に必要とあらば武力行使も否定しないと宣言する大国がほかの2ヵ国と連携しつつあり,日本と唯一の同盟国であるアメリカを敵視している環境にあるからです。
台湾海峡の話ですけども,合理的に考えれば,台湾侵攻なんかしないと誰もが思っています。ウクライナもプーチンは流石に侵攻しないだろうと思っていましたが,期待は裏切られました。
教訓は,われわれの考える合理性と独裁者が考える合理性は違うということです。往々にして独裁者には正しい情報が入らず,正しい判断が下せる状況にないというわけです。
近い将来に台湾有事が起きるかどうか,独裁者の誤算やら,偶発的な衝突事故やら,経済的な困窮にあえぐ中国の国民の気をそらせるためにやるとかいろいろあるんですけど,現実のシナリオは,今申し上げたように,いわゆるグレーゾーンだと思います。どうしたらよいかというと,もう抑止力に尽きます。
抑止力には2つあって,1つは,言葉を裏打ちする軍事力。これは日本の場合は反撃能力を整備することです。もう一つは,軍事力を持った上で,状況によっては行使することを明確に表示することです。
アメリカの北朝鮮の専門家2人が,『38North』という専門誌で,金正恩は戦争に踏み切る戦略的決断を下したと指摘しています。最近の言動についても,核兵器を使った軍事的解決を志向するとレポートで語っていて恐い内容だなと思っています
米中対立の今後ですが,対立,衝突,対決も10年以上続くでしょう。アメリカの中国に対する不信感,警戒感,怒りはもう半端ないレベルです。どんどん悪くなっています。
「ウクライナ情勢」は平たく言うと2割弱の土地を今ロシアが占拠しています。ウクライナが簡単に停戦に動けない状況です。
「暴力と内乱の危険性」が非常に高まっているというのがいろいろと指摘されています。
米大統領選は,皆さんご存じの通り,バイデン(81歳)対トランプ(77歳)のアメリカ史上最高齢の戦いになりました。最新の情報で見るとやっぱりバイデンよりトランプが優っているようにみえます。去年11月に民主党に激震が走ったんですけど,6州の激戦州が一番大事なんですが,このうち5州がトランプの優勢を語っているということで,民主党は焦っています。
アメリカの今の有権者の懸念は4つあって,1つ目はバイデンの年齢,2つ目はトランプの起訴,3つ目はバイデンの汚職関与,4つ目はトランプの年齢です。トランプが大統領になった場合,「報復大統領と化す」と言われています。ただし,一般に言われているほど,トランプになっても大変なことは起こらないのではないか,というのが私の結論ではあります。ただ,トランプは本気で中国に怒っています。コロナを隠蔽した結果,アメリカ国民110万人が死に,自分が勝てるはずだった2020年の選挙で負けたことへの恨みがあるからです。
(スライドとともに)