関西学院大学社会学部を卒業後,(財)神戸YMCAを経て1996年難民事業本部入職。難民定住支援,啓発事業,海外難民調査(アフガニスタン,ミャンマー等)を担当。
神戸大学大学院国際協力研究科後期博士課程単位取得退学。大阪樟蔭女子大学,同志社女子大学,京都女子大学,関西学院大学非常勤講師。共著に『難民・強制移動研究のフロンティア』(現代人文社,2014年)
2010年に大阪ロータリークラブにお招きいただき14年経ちましたが,その間,難民に関して変わった部分,変わらない部分,それぞれございます。その辺を中心にお話をしたいと思っています。
まず「難民」の定義を考えてみますが,「政府を批判する新聞を発行し,弾圧を受け,外国へ逃げた人」は難民でしょうか?もう1つ,「政府軍と反政府武装勢力との戦闘が激化したため,隣国へ逃れた人」。この方は難民でしょうか。どんな境遇の人を国際的に「難民」と呼ぶのか。定めたルールとして「難民条約」があります。1951年にできた条約で,日本も’81年に加入していますが「難民」の定義が示されています。
国外に出て,自国の保護を受けることができない,もしくはその保護を受けることを望まない,保護がない状態,この3要件を満たしている人が難民条約上の「難民」になります。
最初の「政府を批判する新聞を発行し,弾圧を受け,外国へ逃げた人」は政府から弾圧を受けているので,迫害を受ける可能性は大いにありそうです。外国にその体があり,保護を受けることもできないので,難民条約上の定義にある「難民」になります。
もう1つの「政府軍と反政府武装勢力との戦闘が激化したため,隣国へ逃れた人」のケース。戦争・内戦が起こり,続いている国は多々あります。この国の人たちが難民条約の定義に当てはまるかどうかを問われると,残念ながら当てはまりません。2年前のウクライナ紛争で日本にも約2,500人が逃げてきていますが難民ではなく,政府は「避難民」と呼んでいます。
一方で,1951年に難民条約ができ,発展途上国が植民地から国になりました。国連の加盟国は193カ国に増えましたが,植民地を支配していた宗主国と独立戦争が起こり戦禍から逃れるために,国境を越えて多くの人が逃げました。国際的にも避難民を保護したいのですが難民の定義に当てはまらない。この問題は国連でも議論され,解決策として定義が狭い難民条約を他の国際法に照らして難民として特別に扱う「補完的保護」が実施されるようになりました。この制度は入管法の改正で昨年12月から日本でも始まっています。
最新の2020年の統計で難民の数は1億人を突破しました。出身国別で難民の数をみると,1位はシリアです。’11年の内戦が終わりません。’20年に初めてこの統計に入ってきたのがウクライナです。ロシアとの紛争が続いています。アフガニスタンは3位です。1979年にソビエトが侵攻して以来,アフガニスタン難民は最多だったのですが今は3番目です。この3カ国で世界の難民の半分を超えます。
難民の受け入れ規模を国別統計でみると,1位がトルコ,イラン,コロンビア,ドイツ,パキスタン,ウガンダ,ロシア,スーダン,ペルー,ポーランドとなります。実はドイツは例外で統計上では圧倒的に低・中所得の国に逃れる難民が多いのです。基本的に難民は遠くに逃げられません。トルコはシリアの隣,イランはアフガンの隣です。7割は隣国に逃げます。
日本には3種類の難民がいます。インドシナ難民については11,319名を受け入れ2005年で受け入れは終わっています。現在は条約上の難民認定と第三国定住という制度での受け入れが続いています。難民条約に則っているので,「迫害される危険性があり国に帰れない」方は,入管に申請・証拠書類を提出し,審査を受ける必要があります。入管庁が面接し,国際機関や現地大使館などに事実確認した上で審査します。
難民条約に則った審査から約40年経って,総計約91,000人が日本に申請しています。その40年間で認定された人は1,100人くらいです。
認定を受ける人は,本当に数十名くらいで,2013年は年間6名しか認定されなかったのですが,2022年は初めて三桁に乗って202名の方が難民に認定されました。202名の内訳の4分の3はアフガン出身です。2021年にタリバン政権が復権して,その政治的混乱の中で何百人がアフガンから日本に逃げてきました。12月に大きな法改正があり,今までは難民認定の是非だけでしたが,不認定でも補完的に保護する制度が始まっています。補完的保護を実施することで難民認定数は増えると思われますが具体的な規模感はまだ不透明です。
第三国定住は,隣国に逃げたものの,その国で生活できず別の第三国が受け入れるというものです。難民認定され,第三国定住で日本に難民として認定された人は「定住者」という在留資格が与えられます。この資格は,日系人と同じ在留資格です。粗く説明すると,選挙権はありませんが,ほぼ日本人と同じ権利を有します。ただ,言語など生活に支障が想定されるので「定住支援」は必須です。難民は日本語もゼロベースです。言語に加え,仕事の習慣や社会保障の仕組みなども学んでもらい,仕事や住居を紹介して社会に送り出します。仕事は紹介しますが,準備期間が短いため斡旋先は製造業が中心になります。職業選択の問題は日本だけではなく,世界共通の課題です。製造業に就いている人の中には元学校の先生や元公務員の人もいます。それでも一から日本語を覚えて,仕事を覚えて人生を切り開く姿に感心させられます。
ロータリークラブが難民支援に貢献されてきたことは,緒方貞子さんの名前を出すまでもありません。今回の補完的保護が始まり,難民を受け入れ始めた今,ロータリーの精神を活かし,彼らのよき隣人になってほしいと思います。
(スライドとともに)