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2022年1月14日(金)第4,818回 例会

大阪中之島美術館の果たす新しい役割

菅 谷  富 夫 氏

大阪中之島美術館 館長 菅 谷  富 夫 

1958年千葉県生まれ。(財)滋賀県陶芸の森学芸員,大阪市立近代美術館建設準備室学芸員を経て2017年より大阪中之島美術館準備室長。’19年より現職。近代デザイン,写真,現代美術の分野を担当する一方,新しい美術館整備を統括する。館外においても上記分野の批評・評論活動を多数行う。

 日頃お世話になっている方やお世話になっていてもなかなかお会いできない方,今日初めてご挨拶させていただいた方もたくさんいらっしゃいますので,こういうところで2月に開館する大阪中之島美術館の紹介をさせていただくのはありがたいことでございます。大阪市としてつくると言ってから40年かかったわけですが,これを機会にまた一層ご支援いただくとともに,身近な存在にしていただけたらと思っております。

中之島4丁目の中心に

 大阪中之島美術館は,単に中之島4丁目にあるというだけではなく,周辺と非常に密接に結びついています。周囲に国立国際美術館,市立科学館,それで建設中の未来医療国際拠点があり,新しい美術館がその中心に位置するという関係になります。
 1階,2階が無料ゾーンで,2階から北側を見ると,800㎡ほどの芝生広場があります。夏には芝生広場でビールを飲みながらパーティーをやったらいいかなと私なんかは思ってしまいますが,そういう用途にも貸し出し可能としています。建物としては,地上5階建てで,普通のビルにしたら10階建てぐらいの高さになり,延べ床約1万7,300㎡ということで,一つの建物としては関西でも大きい部類の美術館です。5階の展示室面積が1,700㎡ぐらいあり,一つの展示室として日本で一番大きい東京・六本木の国立新美術館が約2,000㎡ですから,東京で最大規模の展覧会であっても大阪に持ってこられると思っています。

収蔵品6,000点の評価は総額265億円

 コレクションとしては6,000点を超える作品を収蔵しています。その評価額は,総額で約265億円。これは買ったとき,あるいはご寄贈いただいたときの評価で,現在の評価ではありません。美術館をつくろうという発端の一つになったのが,「山本發次郎コレクション」の寄贈で,大阪生まれの佐伯祐三の作品三十数点が含まれます。そのほか岸田劉生や小出楢重,小磯良平の作品もあり,福田平八郎の作品は国の重要文化財に指定されています。
 4月からは「モディリアーニ展」を開催します。その作品を買った30年前はバブル期で,「高いんじゃないか」といろいろ言われましたけれども,つい4,5年前には,その10倍ぐらいの金額で中国のお金持ちが買ったという話を聞いております。結果的に,高いと言われる時期にはいいものが売りに出ます。その頃買ったものは,今ではマーケットにない状況になるので,数百億円という金額を積んで買わざるを得ないことになります。非常にいい時期に主要なコレクションの構築ができました。日本の美術館の中でも,有数のコレクションといえます。
 また,収蔵品の特徴の一つが,近代デザインです。産業都市,商業都市である大阪で新しい美術館つくるならということで,19世紀から20世紀,現在に至るまでの家具や食器などを集めました。グラフィックデザインについては,サントリーミュージアム「天保山」の世界的なコレクションを寄託していただき,ニューヨークの近代美術館などのデザインコレクションと同種の大コレクションになったと思っています。

新しい美術館像をつくる

 では,どのような美術館にするのかということですが,建物が新しいだけではありません。三つの新しさが生み出す美術館像をつくっていきます。三つの新しさとは,「新しい機能」,「新しい視点」,「新しい活動スタイル」です。
 「新しい機能」は,アーカイブの公開です。作家の資料や手紙,当時の展覧会のチラシなどを相当所蔵していますので,それらを公開していきます。美術研究に重要となる,そのような取り組みは日本の美術館では定着しておらず,先陣を切ってやります。
 二つ目は「新しい視点」です。今まで当たり前だということを,ちょっと視点を変えると当たり前じゃないものがたくさんあって,でもそれはすごい価値のあるものだという視点と,大阪だからできる視点の提示というものを考えています。あともう一つ加えると,女性作家という視点もあります。大阪は戦前から女性作家が多いところです。商家のお嬢さんが習い事をするなかで,たまたま絵を習ってその人の才能とうまく合って,全国的に活躍する作家が何人か登場してきます。そういうことも大阪から発信することで,今までとは違った美術の見方というものを提示できるのではないでしょうか。これも新しい美術館でするべき仕事だろうと思っています。
 三つ目が,「新しい活動スタイル」です。最初は,「大きい美術館をつくって,何でも自分のところでします」と言っていたのですが,財政難ということもあり,どうも自分たちだけでやるよりも外部の専門家,そういうことを専門にしている人たちと一緒にやった方が,効率がいいのではないかと考えました。その一つが,運営そのものを民間と一緒にやるPFIです。それもコンセッション方式という極めて自由度の高い運営方法を取っています。そしていろいろな企業,学校,NPO,大学研究室と一緒になって活動しようと思っています。美術館には10人の学芸員がいますが,外部には何十人も何百人も専門家やそういった活動をされている人がいます。少人数で考えるより,外部の方たちと組んだ方が,可能性がずっと広がります。新しい美術館がアート,デザインのプラットフォームとして機能していくことを願っています。
 地元の皆さん,市民の皆さんに支持される美術館でないと,美術館は長生きできません。皆様方にはぜひ何度も来ていただき,あるいはご支援いただきたいと思っています。
(スライドとともに)