大学卒業後,一般企業,医療介護の現場を経て,2008年よりスクールソーシャルワーカーとして児童福祉分野へ転身。子どもと未来の懸け橋になることを志す。’13年12月“ひとりぼっちをつくらない”を理念に一般社団法人こもれびを設立。障がい児福祉サービスを柱とし,ケア付き子ども食堂など子どもの居場所づくりもおこなう。’21年4月には,制度の狭間で支援が届かない子どもたちを対象にフリースクールを設立。社会福祉士,精神保健福祉士,関西大学非常勤講師,大阪府下の学校でのスーパーバイザーとして活動。
簡単に自己紹介をいたしますと,社会人になってから社会福祉士,精神保健福祉士の資格を取得し,スクールソーシャルワーカーとして教育委員会に配属されました。学校現場に出向き,子どもや保護者の相談に乗りながら子どもたちを育むという活動をやっておりました。その後,一般社団法人「こもれび」を設立し,福祉の立場から何ができるのかというようなことを考えたり,子どもたちの育成に力を入れたりしているところです。
子どもは社会を支える貴重な人財です。しかし今の子どもたちの現状は,未来に向かって真っすぐ進んでいるというわけではなく,多くの子が生きづらさを抱えています。それは,「見ようとしなければ見えない子どもの現状」であり,学校の先生でさえ子どもたちが抱えている問題になかなか気づけていないという現状があります。
児童虐待が深刻な状況にあります。30年間で約180倍に増えており,私も毎日のように虐待に遭っている子どもの対応をしています。児童虐待や子どもの自殺,非行,問題行動,犯罪といった問題には,紐解いていくと一番に貧困という背景が隠れていることが非常に多くあります。また子どもの生きづらさは,子どもの自己責任,努力不足が原因だと言われることもありますが,決してそれだけではありません。例えば不登校は子どものわがままだと思われるかもしれませんが,非常に見えにくい発達障がいが背景にあるケースが目立ちます。非行も,本人を指導すればいいという問題ではなく,両親間のDVなどを機に暴力や支配の関係を学んだ子が愛情の乏しさを感じながら成長すると,自暴自棄になったり,怒りが表出したりして非行という形で現れてくることがあります。
不登校や引きこもり,非行などの問題には必ず背景要因があって,複雑に絡み合っています。手を差し伸べられることなく放置されていることが多く,放置された問題はさらなる悪循環を引き起こし,問題の本質が見えにくくなっていきます。
「こもれび」の活動についてお伝えしたいと思います。始まりは2010年,大阪市西区のマンションで起きた事件でした。3歳と1歳の姉弟がお母さんの育児放棄で餓死しました。自分の暮らす街で起きた悲しい事件でした。
育児放棄したお母さんを責めて何とかなる問題ではないと思いました。お母さんは愛知から大阪に転入して,孤立していました。お母さん自身,ひとり親のお父さんに育てられ,必死で頑張って生きてきましたが,しんどくなって逃げ出してしまった結末でした。専門職の自分にできることは一体何があるのかと,自分に問い続けました。
考えていても前に進めないし,時はどんどん過ぎていきました。3年が経ち,もうこれ以上は待てないと心を決め,夫と2人で「こもれび」を設立いたしました。事件を風化させたくないという思いで,事件が起きた南堀江に活動拠点を置きました。同じ事件を繰り返さない,ひとりぼっちをつくらないということを使命にしています。
行政には,いろんなサービスや支援の制度がありますが,ひとり親で子育てに困っていたあのお母さんは制度に乗っていませんでした。そういった人たちをこちらから見つけて,つながっていくことを大切にしています。社会的にこの人はダメだとか,もうどうしようもないと言われている子どもたちもたくさんいますが,私たちは出会って気づくのです。みんな生きる力はしっかり持っている,みんな可能性がしっかりあると。そこに光を当てていきたいと思うのです。
もう一つのミッションは,福祉のイメージを変えることです。福祉は,人の人生に関わる,とてもすばらしい仕事です。「キラキラ・カッコいい・高収入」の新しい3Kを掲げています。このイメージであれば,いい人材が集まってくれると思っています。
こもれびは,少しずつ活動を積み上げてきました。「夕刻の場 いるどらぺ」という事業では,子ども食堂にも行けない,家で引きこもっている子たちを受け入れて,おなかと心を満たすという活動を行っています。「いるどらぺ」とは,フランス語で「平和な島(場所)」という意味のキラキラネームです。安心・安全で,そして子どもたちが自信を持てたり,いろんな学びができたり,出会いがあったりする場所を目指しています。
最初,子どもたちは何をしゃべっても「わからん」「めんどい」とぶっきらぼうで,スマホをずっと見続けたり,あちこちで物が投げられたりとひやひやしましたが,3年半が経つと,「ちょっと聞いて」と自分たちの日常のことを話したり,仲間と楽しむ時間ができたりと,学校には行っていなくてもこの場所には来てくれるようになりました。勉強を始めて高校に進学したり,不登校を脱出できたりしている子も出てきました。子どもたちの笑顔が私たちのエネルギーの源になっています。
しんどい家庭の子どもたちは,いいモデルがなかなか近くにいないという現状があります。私たちが,言葉遣いや行動でいいモデルを示していくことが大切です。子どもの未来を育むことは,社会の未来を育むことになります。多様な立場の大人がつながり合い,役割を分担し合って,子どもを育む。そんな社会を願っています。今日,ここで出会うことができた皆さまとも,そんな形で何かシェアできることがあればうれしいと思っています。
(スライドとともに)