1983年生まれ。兵庫県出身。高校,大学では硬式野球部で男子と一緒に練習。卒業後,指導者の道に。2012年履正社医療スポーツ専門学校女子硬式野球部監督を経て’14年から現職。’17年女性初の野球女子日本代表監督を務めてアジアカップに優勝,翌’18年のW杯でも優勝に導いた。全国高校女子硬式野球選手権大会では準優勝2回。
関西生まれの関西育ちで,小学校・高校・大学と野球をプレーしてきました。大学卒業後,オーストラリアに渡ったのは,野球を続けたくても,当時,女子野球というスポーツが日本国内では盛んではなく,海外に行くというのが一つの選択肢だったからです。帰国後,女子野球が少しずつ普及し始めて,「よかったら教員として携わらないですか」と声を掛けていただいたのをきっかけに,現在に至ります。今年,女子の高校野球の決勝が初めて甲子園で行われました。私自身,甲子園に選手として出たかったと強く感じています。
3つ年上の姉が野球をしていたこともあり,小学1年から野球を始めました。4,5年生のときに全国大会で準優勝し,6年生でキャプテンを任せられました。絶対優勝するんだと,毎日コツコツ練習に励みましたが,敗退。自分の力のなさをすごく痛感しました。
中学時代も野球を続けたかったのですが,都会のチームに行くというハードルが高く,これも姉の影響でソフトボール部に入りました。県大会に出場でき,満足なソフトボール競技生活でした。高校進学の際には,地元で一番強い野球部がある小野高校に入学しました。しかし前例がないということで野球部に入部できず,中学生チームに入りました。中学生と一緒に野球に打ち込んでいると,「あの子,やっぱり野球やりたいみたいやで」と高校にも伝わり,平日の練習は参加できるようになりました。でもメインの練習は壁当てで,一緒に練習するのはやはり危ないと,壁当てをやり続ける3年間でした。高校時代は,本当に体力と根性を鍛える3年間でした。
仙台大学に進むことが決まり,食堂でアルバイトをしていたとき,大阪体育大学の水泳部が合宿をしていました。超大盛のご飯を並べていたら,「君,いいね!」と水泳部の監督にほめていただきました。大学で野球をしたいことを伝えると,なんと教え子が仙台大学の野球部の監督をしているとのことで,この奇跡で無事,野球部に入部できました。
多い部員数を減らすため,最初の1ヵ月間はひたすら走る,バットを振るという練習でしたが,高校のときの壁当てのおかげで体力には自信がありました。難なくクリアし,仙台六大学野球に女子選手として初めて登録され,新人戦に出場するところまでいきました。公式戦の出場は,1試合2打席1安打。本気で頑張れた4年間でした。
ただ日本代表になることができず,21歳のとき,オーストラリアのリーグに挑戦します。語学にてこずり,日常生活でも文化の違いにかなり戸惑いました。しかし,野球の方は,リーグ戦で優勝し,州の代表にも選ばれました。野球を続けてきて本当に良かったと思える経験をさせてもらいました。
その後帰国して指導者としてスタートします。女子野球の人口は増えてきており,履正社高校にも女子野球部をつくりたいという話をさせていただきました。当時の理事長は「大阪で100校目でいいんじゃない?」とおっしゃっていましたが,結局は1校目の女子野球部ということになり,理事長のご決断には本当に感謝しています。
チームは2014年,部員5人,指導者,私1人から始まりました。まだまだこれからというスポーツをやるんだから,しんどい環境とわかったうえで野球をしている子たちが多いんです。優勝して喜ぶのは本当に一瞬ですが,そこに向かって努力したり,耐えたりする生活を全うしてほしいという気持ちから,チームのスローガンとして,「一瞬の感動を求めて」という言葉を掲げています。
私たちのチームは今春の選抜大会で準優勝を果たします。そして今年4月28日,女子野球の歴史が動きました。夏の選手権大会の決勝が甲子園で開催されることが発表されたのです。チームのみんなは本当にワクワクして,小さなだるまに「甲子園初優勝」との目標をしたためて夏に臨みました。
子どもの数が減る中,女子硬式野球のチーム数,競技人口はますます増えています。女子高校野球のチーム数も,来年には50校を超え,全国大会で決勝に進むのも難しい状況となっています。
夏の大会で,私たちのチームは残念ながら3回戦で負けてしまいました。甲子園での決勝は8月23日にナイターで行われ,優勝は神戸弘陵学園高校,準優勝は高知中央高校が輝き,歴史的な一歩となりました。
女子野球の子たちは,とにかく野球が大好きだということを,グラウンドで目一杯表現しています。アウトを取ってめちゃくちゃうれしそうにベンチに戻ってくるときの彼女たちの笑顔が素敵で,監督の私も頑張らないといけないなと思う日々です。
私たちは,自分たちで競技レベルを上げていくのはもちろんですけれども,小学生・中学生の女子が,「甲子園で野球やりたいから野球を続けよう」と思えるようなきっかけづくりをしていきたいと考えています。12月には小学生の女子向けの野球教室を催す企画を選手たちと練っているところです。
新チームはスタートしました。女子野球の発展とその後の将来のために頑張っていけたらなと思っています。女子野球というスポーツを知ってもらえる機会をいただき,ありがとうございました。女子野球をどうぞよろしくお願いいたします。
(スライド・映像とともに)