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2026年5月29日(金)第5,007回 例会

人創りとDMOによる地方創生

大 社    充 氏

NPO法人 デスティネーション総研 代表
関西国際大学教授 平安女学院大学客員教授
大 社    充 

1961年兵庫県宝塚市生まれ。’85年京都大学卒業後,松下政経塾へ入塾。’87年からエルダーホステル協会創設に参画。2000年に同協会を法人化し,専務理事に就任。観光まちづくりと観光人材育成に取り組む。’11年「DMO推進機構」を設立する。’19年から京都大学経営管理大学院で「デスティネーションマネジメント論」を担当し,政府や地方自治体の審議会等の委員を歴任。’21年から芸術文化観光専門大学の教授を兼任。

 きょうは観光地域づくり(DMO)の話と,京大アメフトの話をしたいと思います。
 第2次安倍政権が2014年に打ち出した「地方創生」は,増田寛也元総務相が座長を務めた日本創成会議が発表した「増田レポート」がきっかけでした。’10年~’40年の30年間で,20歳~39歳の若年女性人口が50%以上減少する市区町村が全国の約半数に上るという報告は衝撃的でした。私が20代の頃,全国に市町村は3,300ありました。今は1,700ぐらいと半分になり,30年以内に多くが消滅する。バランスの取れた国土を維持するには,地方の活性化が不可欠,となったわけです。
 いま日本の人口は1億2,000万人ですが,20年後には1億人になり,50年もすると8,000万人に減るとみられています。地方創生が始まって10年が経ちましたが,出生率は上がらず,人口減少,東京一極集中は止まっていません。

観光とまちづくりの一体化

 観光が地域づくりとどうつながっているのかをお話しします。2000年代以降の地方の大きな変化として,宿泊施設,飲食店,土産物屋といった観光関連の事業者がまちづくりに取り組むようになりました。かつて観光は,観光事業者がやるものと思われていたのですが,地域の衰退が進むと,「地域や街の魅力,価値の向上を図らないと,自分たちの商売に先はない」と考えるようになったのです。
 滋賀県の人口動態をみてみましょう。高島市の人口は’21年~’24年の3年間で1,847人減,年平均600人以上減っています。1人当たりの年間平均消費額を100万円として,人口が600人減ると,町に落ちるお金が年間6億円,10年で60億円なくなります。人口減少は地域事業者に大きなインパクトを与えます。地域を持続可能にするには,外部から需要を取り込むことが必要で,その取り組みが観光です。持続可能なまちづくりを進めるには,外から人に来てもらって消費してもらう。観光とまちづくりが一体化する取り組みが,この20年ほどの間に一気に進んできました。

お金の流れを可視化

 地域に発生する観光消費の流れをみていきましょう。1万人の観光客が来て1人5,000円使うと,5,000万円がまちに落ちる。その内訳が,飲食3,000円,土産品2,000円だとすると,土産物購入の消費額は2,000万円。さらに,その土産物の原材料比率が50%であれば,原材料の経済効果は1,000万円になる。問題は地域内調達率で,原材料の9割を地元から調達していれば地元に900万円残るが,9割を域外から調達していると100万しか残らない。つまり,お金がどういうふうに流れているかを,可視化することが重要なのです。
 例えば,箱根は山地で住める場所が少ない。箱根で働いている人の多くは小田原に住んでいるので,箱根の観光が活発になり,従業員の数や給与が増えたら,小田原の個人消費が拡大し,飲食店やスーパーの景気が良くなる。複合的な産業である観光のお金がどう流れ,地域の人々の暮らしにどのような便益をもたらしているか,これらを可視化して適切な手を打っていく必要があるのです。
 長年,地域観光は「勘と経験と思い込み(KKO)」で進めてきました。それを科学的なアプローチ,つまりデータに基づいたマーケティングや地域の経済振興を図る体制に変えよう―ということになり,従来の観光行政と観光協会の体制から,マネジメントとマーケティングの専門家集団で組織されるDMOに移管していこうとなったのです。
 ただ,10年経ちましたが,あまりうまくいっていないのが実態です。世界的にもDMOの主たる役割は地域マーケティングだったのですが,近年はマネジメントの比重が大きくなってきています。産業振興を図りながら住民の暮らしの質を向上させ,様々な事業者にも便益が行き渡る仕組みを作っていく観光地の経営が重要になっています。それを担うのがDMOや行政ですが,日本でももう少し頑張ろうというのが現状です。

京大アメフトと人づくり

 京都大学アメフト部は1982年~’96年の間に,関西学生リーグで10回,甲子園ボウルで6回,全日本選手権ライスボウルで4回優勝しています。ところがこの30年ほど優勝から遠ざかっています。
 元監督の水野弥一さんの「名(迷)言」に「ベストは尽くすもんじゃない,超えるもんや」があります。ベストというのは,その日,その時,その人が思っているもので,そこを目指すのではなく,それを超えなければ意味がないというのが水野さんの考え方でした。
 記憶に残っているのは「リーダーとは」の話です。毎晩,羊の群れに狼が来て,羊を1匹ずつ食べる。ある晩,やってきた狼に1匹の羊が突然突進すると,周りの羊たちも突進して狼を撃退し,その後,狼が来なくなった。「1匹目の命をかけて突っ込んでいくやつがリーダーや」と学生時代に教わりました。
 100対0で関学に負けている時代,水野さんは「関学に勝つチームを作る」と言った。「関学に勝つチームを作る」と決めたことがすべての原点であり,一種の「狂」を持って「やる」と決めた水野さんの本気度が,選手に伝わるというのが基本だったと思います。
 米大統領ジョン・F・ケネディは’62年9月の演説で“We choose to go to the Moon”とアポロ計画をぶち上げ,宇宙飛行士を月面に送り,無事に帰還させると宣言しました。できるかどうか分からない,どうすればそうなるかも分からないことをまず決めたから,’69年に人類を月面に送ることができた。水野さんが圧倒的な熱量でもって勝つチームを作ると決めた時も同じで,方法論は分からなかった。
 京大アメフトが30年勝てない理由は何か。今の学生はみんな本当にまじめな好青年ばかりです。ただ,自分の知っていること,自分のできることは一生懸命やるが,自分の分からない世界にはチャレンジしません。ブレイクスルーがベストを超えることや,現代風の「狂」をいかに今の学生とともに創っていくかが,われわれのテーマだと思っています。
(スライドとともに)