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2025年6月6日(金)第4,966回 例会

グローバルサプライチェーンの再構築から見る台日連携

張   惠 莉 氏

台湾貿易センター
大阪事務所長
張   惠 莉 

淡江大学卒業
1991. 4 ~:中華民国対外貿易発展協会(TAITRA)
1998.12~2003. 2 :TAITRA 東京事務所課長
2007. 8 ~2012. 9 :TAITRA 大阪事務所所長
2022. 4 ~:TAITRA大阪事務所所長
/【兼任】TAITRA福岡事務所所長(~2025.2)
/玉山デジタルテック株式会社代表取締役社長

米国関税と半導体のサプライチェーン

 近年,グローバルサプライチェーンが米中貿易摩擦,戦争や紛争,半導体供給などで寸断されるリスクが増えています。企業や各国政府はその重要性を再認識し,多様化や強化を図る必要に迫られています。
 現在最も懸念されている米国の関税政策について台湾への追加関税は32%です。台湾は2024年の輸出総額のうち対米が23%,その約7割を上位30品目が占めています。電子情報分野の追加関税は,半導体が未発表ですが,その他は32%が追加されます。機械,重電機器と電線・ケーブルや紡織も32%です。影響について,機械分野は主に中・小型の工作機械や産業機械が対象です。重電機器は認証取得が必要なため,短期間での代替が困難です。紡織ではテキスタイルは対米輸出が53%あり影響が大きそうです。鉄鋼・アルミニウム製品は追加関税が25%から50%に引き上げられた場合,ファスナー製品に影響が出そうです。またハンドツールや水まわりハードウエアは,短期的な利益の減少が予想されます。輸送用機械・機器では,自動車部品が国内生産に中長期の影響がありそうです。自転車も部品への影響を注視する必要があります。
 頼総統は相互関税の改善や業界支援策など五つの戦略を発表しました。日本の経済産業省に当たる台湾経済部は,企業融資の拡充や海外受注の活動強化など,日本円にして2,000億円規模の支援策を計画しています。
 グローバルサプライチェーンを語る上で半導体分野は避けて通れません。日本は半導体の素材は世界シェアの5割,製造装置は3割を占めており,台湾企業が製造プロセス技術や生産能力を提供することでウィンウィンの関係を築けます。台湾の大手企業TSMCの日本進出をきっかけに,特に九州では台湾企業の投資が進んでいます。貿易・産業・技術の連携をワンストップで支援できるように,この4月に私どもの台湾貿易センターの福岡事務所内に新たに「台湾貿易投資センター」を開設しました。両国が得意分野を持ち寄り,半導体でサプライチェーンを構築して,グローバル市場での共存共栄を目指します。
 台湾のICT産業を紹介するプラットフォームの一つがコンピューター見本市です。先月開催された当センターTAITRA(タイトラ)主催のCOMPUTEX TAIPEI 2025は,ICT専門国際見本市として世界2位,アジア1位の規模です。AIを牽引する企業が多数出展し,来場者数は過去最高でした。台湾はTSMCが世界のファウンドリー市場でシェア6割を超えるなど,半導体の主要なサプライヤーが集まる特別な地であり,世界の市場で重要な役割を果たしています。

インドやアフリカの市場を共同で開拓

 私どもは新たなグローバルサプライチェーン構築に向けた「台日第三国市場共同開拓プロジェクト」で,両国の相互補完性を活かし共同で市場を開拓しています。ターゲットは,地理的に優位で成長の可能性がある東南アジア諸国や新興のインドです。日本の高度な技術力と台湾の柔軟な対応力や国際ネットワークをもとに,両国が第三国で協業することで経済の結びつきや貿易の強化が期待できます。このプロジェクトはASEAN諸国をターゲットに2017年にスタートし,昨年までに110件の案件を推進しました。インドに設立された台湾企業は’17年は約80社でしたが昨年は250社に増加しており,インドへのシフトが一目瞭然です。アフリカの事業も増えており,注目は自動車部品や機械類です。
 現在,インドに進出する約1,400社の日本企業の半数は製造業で,その約8割は自動車と部品関連です。台湾は電子産業が多く,協業は相性がよいと言えます。またアフリカに進出した日本企業は,電子部品や自動車関連,一般機械,台湾企業は繊維や自動車部品,ICT関連です。日台企業の連携チャンスは多く,日本貿易振興機構(ジェトロ)と協力しながら取り組みます。
 TAITRAは海外に60以上の事務所を構え,台湾企業の貿易を促進しており,大阪事務所は中国・四国・関西・東海・北陸が担当です。年間30件近い国際専門市も主催しております。日本では今年2月に2年連続で台湾電子部品調達商談会を開催しました。生活用品とパテント商品の商談会,精密加工品・ハイエンド金属製品・ハンドツール調達の商談会も長年,日本企業に役立てていただいております。

万博で世界をつなぎ、よりよい暮らしへ

 万博に出展しているTECH WORLDは、台湾貿易センターが設立した玉山デジタルテックによる民間パビリオンです。ライフ劇場では、巨大な柱に映る生命や自然の映像に連動して足元の560台のタブレットが美しい画像を映し出しながら揺れ動く演出や、裸眼で立体的に見える3Dの蝶が実物の胡蝶蘭の周りを優雅に舞う様子が楽しめます。フューチャー劇場では、半導体が現在の日常生活や未来の暮らしをどのように豊かにしていくのかを体感できます。AIギャラリーはAIが名画やアートを現代の風景と融合させるお勧めのコーナーです。ネイチャー劇場の映像には日本統治時代に台湾を深く愛した博物学者・鹿野忠雄氏のあらゆるものを平等な視点で見つめるというメッセージが込められており、雄大な風景にスモークやヒノキの香りの演出を加えた臨場感を体験できます。パビリオンの外観は高くそびえる山々がコンセプトで、「世界をつなぎ、より良い未来の暮らしへ」がテーマです。自然や生命を分け隔てなく見つめる心、世界が共によくなるという想いを皆様に届けられたら幸いです。
(スライドとともに)