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2021年1月29日(金)第4,775回 例会

グローバルな潮流が産業に及ぼす影響 ~新型コロナウイルスの影響も踏まえて~

中 村  浩 之 氏

(株)みずほ銀行
執行役員 産業調査部長
中 村  浩 之 

1969年生まれ。’92年京都大学経済学部卒業。同年日本興業銀行入行,2007年みずほコーポレート銀行審査管理部参事役,’12年同営業第十四部チーフリレーションシップマネージャー,’13年同産業調査部次長,’19年同産業調査部長,’20年同執行役員産業調査部長(現職)。筑波大学客員教授,日本証券アナリスト協会産業研究会産業部会長。

 新型コロナウイルスについて話をする時,私は3つの軸を頭に置きながら考えるようにしています。1つ目が「需要の変化」。直接的に需要が減る,場合によっては増えることもあったわけですが,業種によっても企業によっても異なり,それが与えるインパクトもそれぞれ違っています。2つ目が「価値観,評価軸の変化」。行動の変化がコロナ禍によって起き,様々な価値がいろいろなところで変わっています。あるものは一過性,あるものは部分的に残っていく。その区別をしていくのです。3つ目は,もともとあったデジタル,サスティナビリティーといったトレンドがはやくなっていく,ということです。この変化は今後の企業,産業を考えるうえで,とても重要です。
 経済見通しの前提として,ワクチンがどう普及していくのかが重要です。先進国では来年1~3月ぐらいまでに集団免疫を,新興国は少し遅れて,という前提です。一方,人の移動が以前と同じようには戻らないなかで,経済活動が戻るためにはデジタル,リモートという新しい技術,方法が重要です。回復のペースにはばらつきがあり,日本は先進国のなかで一番遅くなるのではないかとみています。
 本題に入ります。3つの潮流をテーマにします。1つ目が「デジタル」で,非接触という行動様式の変化が,デジタル化,リモート化を加速させました。2つ目が「国際秩序の変化」「米中対立」です。ハイテク分野のデカップリングが現実化してきました。3つ目が「サスティナビリティー」です。

デジタルテクノロジー

 1つ目の「デジタルテクノロジー」は,既存産業に新しいテクノロジーが加わり,新ビジネス領域が生まれてくることです。人の移動や接触を代替するサービスと,これを支えるソフトウェア,デジタル基盤需要が拡大し,定着してきたと思います。
 一方で日本のデジタル後進性がこのコロナ禍で課題になりました。菅政権の重要テーマになっており,今年9月にデジタル庁を発足させ,デジタルガバメント,マイナンバーの普及などに取り組んでいくことになります。企業でもデジタルトランスフォーメーション(DX)が話題になっています。
 日本のデジタル化はなかなか難しい面もあり,市場規模は世界で2番目ぐらいですが,人材の絶対数が少なく,ユーザー企業ではなくIT企業に偏在しているという極めていびつな構造にあります。企業がデジタル化を進めるうえで,人材がネックになるというのが現状です。

米中対立

 2つ目の「米中対立」は貿易・技術のみならず価値観,イデオロギー,さらには根っこには安全保障という問題があります。バイデン政権になり,米国単独主義から多国間協調に移っていくということで,日本としてはアメリカとの協調,あるいは欧州も含めた協調を日本の利害の中でどう判断していくかが重要になります。
 アメリカによる中国に対するハイテク規制について,その理由を整理しておきます。1つ目は優位性です。中国では民間技術が軍事転用されやすいので,軍事面での優位性を確保するために民間ハイテク技術を規制するのです。2つ目は独立性です。重要技術の中国などへの依存を回避するために,国産化も含めた取り組みをしていく必要があると考えています。3つ目は安全性で,クリーンネットワークといわれています。いろいろな情報が中国に流れることを防ぐのです。

サスティナビリティー

 最後のテーマが「サスティナビリティー」です。脱炭素化を中心に加速しています。企業にとってはこの脱炭素がもたらすリスクと機会,この両方にどのように対応していくか,ということになります。国をまたがった形で,サプライチェーン全体でどう脱炭素を実現するか。どこでモノをつくるのか,どこから調達するのか,こういったことも変わってくるというインパクトが,このテーマにはあります。
 サスティナビリティーが注目を集めるなか,今まで企業はその事業の取捨選択をコア・ノンコアという軸で見直してきました。ここにサスティナビリティーという軸を入れたうえで,改めて見直していくということが必要になっています。今一度,自分の企業の存在意義,パーパスを定め直してみようという動きも出てきています。ステークホルダーとのエンゲージメントを軸にしていこう,といった問題意識を持っていらっしゃる経営者も増えていると感じています。
 まとめになりますが,3つの潮流の変化ということで,デジタルテクノロジーのさらなる進展としては,需要の多様化,あるいは付加価値の領域の変化。米中対立の激化では,米中デカップリングの加速,それがもたらすサプライチェーンの変化。サスティナビリティーの潮流の加速では,脱炭素の足並み統一,「グリーン」競争の加速。こういう中で「機会」と「リスク」を申し上げてきました。
 いずれにしても,こういったものは必ず「光」と「影」を生み出します。それによって産業とか業界の構造が変化する。それに合わせてそれぞれの会社が,どうトランスフォーメーションしていくかが重要になってくる。そんな1年になるのかなということで,私からのお話は終わらせていただきます。ご清聴ありがとうございました。
(Zoom参加で卓話,スライドとともに)