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2020年10月16日(金)第4,768回 例会

目からうろこの天気予報

南  利 幸 氏

気象予報士 南  利 幸 

1965年生まれ。’90年広島大学大学院生物圏科学研究科修了(気候学専攻)。気象予報士,技術士(応用理学),防災士,京都府立大学非常勤講師等。’90年(財)日本気象協会関西支社入社。2006年(財)日本気象協会退職。’12年(株)南気象予報士事務所設立。現在の担当番組・NHK総合テレビ「おはよう日本」(土・日・祝:午前5時50分~9時),MBSラジオ「こんちわコンちゃんお昼ですよ!」他。

 今年の8月は相当気温が高くなりまして,近畿もほとんどのところが,平年と比べると2度以上気温が高くなりました。8月の平均気温は大阪は30.7度で,統計開始から一番高くなっています。ここ130年ぐらいの歴史の中で一番気温が高かった8月になりました。大阪だけではなく,京都も神戸も彦根も奈良も和歌山も,100年以上ずっと観測していますけれど,その中で一番気温が高い8月になりました。

最近の暑さは「災害級」

 気象庁も最近は「暑さは災害である」と言っています。最近の暑さは災害級の暑さになっているということが,この数字から見てもわかるのではないかなと思います。
 大阪は都市化の影響があるので上がりやすくはなっていますが,近畿でもあまり都市化の影響のないところ,和歌山の潮岬とか,豊岡などでもそれなりに1990年以降気温が上がっていますので,やはり温暖化の影響で気温が高くなっていると思います。
 1月から12月までの1980年代の気温と,最近10年間のを並べて差をみると,大阪の80年代の8月が,大体今の7月になっていて,夏の始まりが早くなっています。8月も気温が上がっていますから,未知の世界に入ってきているということでもあります。
 増加する局地的な豪雨について紹介します。気象台とか旧測候所は100年以上データがあります。1時間に50mm以上の雨が降ると,道路が少し水浸しになったり,道路際の側溝があふれたりします。そういう雨は70年代,80年代,また90年代の半ばぐらいまではそんなに多くなかったのですが,90年代後半ぐらいから回数が増えてきています。
 どうしてかというと,やはり気温が高くなっているからです。中学校で習うグラフで,「飽和水蒸気量」というものがありまして,1㎥中の空気の中に水蒸気がどれくらい入るかは,気温によって変わりますよということです。最近は気温が高くなっていますから,水蒸気の量は結構増え,激しい雨が降りやすくなります。こういう1時間に50mm以上の雨を降らせる雲というのは「積乱雲」です。入道雲,雷雲と言ったりします。
 局地的な雨で注意しないといけない点ですが,天気予報の「曇り所により雨」という予報が出たとき,マークは「雲だけ」なんです。

「線状降水帯」により被害

 「所により」は,定義では,「現象が地域的に散在して,その合計の面積は50%未満」です。大阪に「曇り所により雨」という予報が出たときに,箕面,枚方,泉佐野の3ヵ所に降る場合,この3ヵ所の地域を足しても大阪府の半分になりません。降らない所のほうが多いので,マークにすると「曇り」になるということです。
 今,積乱雲で局地的な現象が非常に多いので,「所により」っていうことが結構あります。「所により」は気をつけないといけないです。
 一例をご紹介しますけれども,2014年8月19日から20日,広島で豪雨がありました。
 このときの雨雲ですが,8月19日の夜の8時,9時ぐらいに一度広島市街地で雨が降りました。1時間程度で抜けていくんですけれども,真夜中になって,「線状降水帯」と言いますものができて,これにより被害が発生してしまいました。
 線状降水帯というのはこのときから言葉としてメジャーになりましたが,それ以前も線状降水帯によって被害がよく発生していました。線状降水帯が発生すると,必ず被害が発生します。最近では’15(平成27)年関東・東北豪雨,鬼怒川があふれたというときに線状降水帯が出ています。’18(平成30)年7月の豪雨は,岡山の倉敷の真備で小田川が氾濫したというのもそうですけども,これもあちらこちらで線状降水帯ができています。気温が高くなっているので,非常にこういう雨が降りやすくなっているということです。

進行速度が遅い台風も

 こういう局地的な被害もあれば,広範囲にわたって被害が発生している場合もあります。去年の台風19号は大型で,非常に強い台風が静岡の伊豆半島に上陸しました。10月の台風の割には進行速度が遅くて,結構近づいていても時速30km。普通だったら,日本付近にやってくると時速50kmから60kmぐらいで進んでいくんですけれども,速度が遅かったということもあって,雨が同じような場所でずっと降り続いて広範囲にわたって被害が発生しました。
 その原因というのも,一つはやはり海水温が高いからです。温暖化の影響で海水温がかなり高くなっていて,平年と比べて水温が高くなっているので,水蒸気も結構豊富になっています。台風が近くにやってきても衰えない。それによって,激しい雨が非常に降りやすい。最近は,偏西風が日本付近に下りてくるのも遅くなっていますから,ゆっくりとやってくる台風で大雨が結構長引くということが多くなっています。
 海水温も高くなって水蒸気も結構多くなっていますから,この先も局地的な非常に激しい雨は増え,台風も衰えずにやってくる可能性が高くなっているという状態です。多分,来年,再来年もさらに激しい状態が起きる可能性は十分あるのではないかなと思います。
(スライドとともに)