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2005年10月14日(金)第4,088回 例会

音声研究の目的と方法

尹   英 和 氏

米山奨学生 尹   英 和

1971年韓国大邱市生まれ。'94年啓明大学日語日文学科卒業,学士号取得。'98年同校修士課程を中退し桃山学院大学に交換留学。 '99年から大阪大学文学研究科研究生として学び,現在同大学大学院文学研究科で文化表現論日本語学科博士課程に在籍中。 '03年4月からYD米山奨学生として当クラブ受入れ。'05年4月からクラブ支援米山奨学生として再びお世話している。

 きょうは私の専門分野について申し上げることになっていますが,まだ,専門分野については研究している,勉強している立場なので,用意はしましたが何か不足な部分が多いかもしれません。失敗とかあってもご理解をよろしくお願い申し上げます。

コミュニケーションの方法は多様

 以前,ある方に私の専門分野について,「専門分野は何なのか?」というふうな質問をされたことがあるのですが,そのとき私は「音声です」というふうに答えました。そうすると「えっ,温泉を勉強しているのですか?」と聞き返されたことがあります。
 私たちは日常生活の中で,さまざまな形でコミュニケーションを行っています。例えば,ドアの外でトントンたたくのは,「これから入っていいですか?」という意味をあらわします。また,トイレでは「中に誰かいますか?」という意味になるし,中からトントンという音がしたら「いますよ」という意味になります。ボクシングのとき,白いタオルを投げることがあると思うんです。その白いタオルを投げるというのは,「これ以上試合を続けると危ないから,すぐ中止しなさい」という意味をあらわします。
 このようにさまざまなコミュニケーションの方法があるのですが,その中で特に一番効率がよく複雑な内容も伝えられ,一番使われる方法が,話し言葉によるコミュニケーションだと思います。人が話すというのは,特に口や鼻辺りのところから音を出す。ドアの音とか,ボクシングのタオルとかを音声とは言いません。特に人間が話し言葉によるコミュニケーションに用いる音が「音声」で,これを研究するのが「音声学」です。
 音声には3つの側面があります。1つは伝えたい内容を,話し言葉として発する話し手側,2つ目は音声を聞き,それを言葉として理解する聞き手側,3つ目は話し手が発した音声を,この媒体の空気を伝わって聞き手に伝達するという側面。その中で,話し手側について研究する分野を調音音声学といいます。媒体の空気の振動を通した物理側を研究する分野を音響音声学といいます。聞き手側の研究分野を聴覚音声学といいます。
 音声を研究する分野の歴史を振り返ってみると,一番長いのが調音音声学という分野です。これは昔から行われてきて,特に18,19世紀を契機にものすごく進歩発展した分野になります。音響音声学はパソコン,コンピューターの発展とともに進歩した学問です。その次の聴覚音声学ですが,これから研究が期待される分野で,それほどまだ研究の業績がない分野になります。私は音響音声学的なものの研究を行っています。

パソコンが支える音響音声学

 音声の4つの要素について聴覚音声学的には「高さ・長さ・強さ・音色」という要素があります。それを音響音声学的用語に言いかえると,高さは「ピッチ」,長さは「持続時間」,強さは「音圧」,音色は同じ「音色」という用語を使います。ピッチの場合にはヘルツ,持続時間はミリセカンド,音圧はデシベルという単位を使っています。
 調べたい内容が決まると,それをいろいろな機械を使って音声データを収録します。収録するときにはテープレコーダー,MD,HDD,またDATという機材を使います。次に集めたデータをパソコンに格納します。取り込んだ音声を,音声分析用のソフトを立ち上げて分析します。ソフトを立ち上げると音声波形・ピッチ曲線・スペクトログラムという画面が出てくるのですが,その画面を見ながら測ります。
 私が修士論文で何をしたかと言うと,修士論文では,友達同士で,日本語で友達を誘うとき,「飲もう」とか「食べにいこう」という言葉をよく使うと思います。文末に上昇イントネーションを伴うことが多いんですが,韓国から来ている学習者の場合は,この文末,最後のところを上げずにそのまま平らに伸ばして言う。「 飲もう→」「食べにいこう→」と。これが相手には誘う音として聞こえなくて,聞いた相手は,何も返事してくれない。誘っているのに返事をしてくれないことで,人間関係はぎくしゃくします。

相互理解は互いの音声を知ることから

 次に,博士論文で今やっているんですが,博士論文では日本語のリズムを扱っています。主に長さ,持続時間をはかっていますが,日本語では「過度」と「カード」,「来てください」と「切ってください」というふうに,音の長さによって意味が全然違う単語が多いんです。この長短の区別というのは学習者にとってとても難しい。この長短をどういうふうにすればうまく話せるかということが私の博士論文の主なテーマになっています。博士論文以外では大量の音声データを集めるフォーカス,データベース化の作業に参加しています。主に大阪大学を中心にやっている作業なんですが,音声研究するためには,先ほど申し上げたように分析する材料としての音声が必要なんですが,研究しているときに外に出て集めるというのは本当に大変な作業になります。
 音声を研究する目的についてですが,理系の場合の音声研究は,主に人間と機械の対話をさせるためにやっています。例えば,駅とか銀行の音声案内とか,またカーナビゲーションの音声とか,それは音声研究を行った成果だと申し上げることができます。文系で音声研究を行う主な目的は外国語の学習のためです。お互いにお互いの音声についてよく知っておかないとコミュニケーション上の誤解が続くと思います。そういうふうに外国語の教育へ音声を応用したいと思い,現在私は音声研究を行っているところです。

米山月間に因んで

米山奨学委員長 領木 新一郎

 今月は米山月間ですので、米山奨学会の最近の状況をご報告させて頂きます。

 米山記念奨学会は、1954年以来、半世紀に亘り、世界104カ国、1万2,706人に及ぶ 外国人留学生を支援してまいりました。同奨学会の趣旨は、尹英和さんのような優秀な外国人留学生に奨学金を支給し、国際理解と親善に寄与することであります。


 この目的の達成に向けて、奨学会の運営についても、これまでに少しずつ改善がはかられてまいりましたが、昨今においては、「学生の出身国のバランス」、「奨学支援終了後のフォローのあり方」、「寄付金の減少」などのテーマについて、問題提起がなされ、活発な議論が行われております。

 このような議論を受けて、来期からは、新しく「現地採用ロータリー米山奨学金」が ベトナムを対象にスタートし、また「地区奨励米山奨学金」が新設されるなど、時代の変化に対応し、地区の主体性を尊重する制度への改編が進められる予定でございます。


 米山奨学会の課題のひとつに寄付金の減少があげられておりますが、米山奨学会の事業は、会員の皆様からの寄付金に支えられており、寄付金の減少は、事業の根幹を揺るがす大きな問題です。皆様には、寄付のご協力を切にお願い申し上げたいと存じます。

 RI2660地区では、本年度の寄付金額の目標を会員一人当たり2万円に設定して取組んでおりますが、当クラブの場合は、5,000円は 普通寄付金として 年会費から拠出させていただき、残りの1万5,000円については、皆様の特別寄付に期待しているところでございます。趣旨をご理解いただきまして、ぜひともご協力いただきますよう、よろしくお願いいたします。ありがとうございました。