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2003年4月4日(金)第3,971回 例会

歴史を深く吸い込み、未来を想う
-1900年への旅 アメリカの世紀,アジアの自尊

寺島 実郎 氏

(株)三井物産戦略研究所 所長 寺島 実郎

1947年北海道生まれ。'73年早稲田大学大学院政治学研究科修士課程修了。同年三井物産(株)入社。'83年ブルッキングス研究所(在ワシントンDC)に出向。'91年米国三井物産ワシントン事務所長。'99年(株)三井物産戦略研究所所長。'01年(財)日本総合研究所理事長。

 昨年末に「歴史を深く吸い込み、未来を想う」という本を新潮社から出しました。同社の国際情報誌に「1900年への旅」というタイトルで連載してきたものです。今回出したのはアメリカ太平洋編です。その連載のなかで「20世紀の日本とは何だったのか」を私なりに考えました。

20世紀に人口を3倍にした日本

  結論のポイントの一つは、日本の20世紀とは「人口を3倍にした100年だった」ことです。今から100年前の日本は人口4,400万人のアジアの一島国でした。今は1億2,700万人に迫ろうとしています。

 われわれの先輩たちは偉大でした。戦争に明け暮れて人口が急減した25年間をはさみながらも、日本の人口を3倍にした。

 ところが、日本の人口は2006年にピークアウトし、その後は年平均60万人ずつ減る。われわれは今から3年後に日本の人口のピークに立ち会おうとしている。そこからはつるべ落とし。極端な移民政策への転換などがない限り、2050年には1億人を割る。

 昨年、人口学の新しいシミュレーションの結果が発表になりました。それによると、このままでは2100年には日本の人口は5,000万人台に落ちる。100年前4,400万人でスタートしたのに元の木阿弥。日本の人口を1億人ぐらいで静止状態にすることを真剣に考えておかなくては大変なことになります。

人口減少時代の経営は未踏地

 ビジネスの感覚からはこう言えます。今までわれわれは、戦後の50年間で日本の人口が5,000万人ふえたこの流れを前提にビジネスモデルをつくってきた。ところがあと3年したら、半世紀で2,700万人の人口が減るというサイクルに入る。これは誰も体験したことのないゾーンです。こういうときの経営戦力・経営企画は難しい。象徴的な表現をするなら、あと4~5年たったら日本人は「移民かロボットか」という選択を迫られるでしょう。

 「20世紀の日本とはなんだったのか」の2つ目のポイントのキーワードは「アングロサクソンとの同盟」です。日本の20世紀の国際関係を見ると、20世紀100年間のうち驚いたことに75年間つまり4分の3をアングロサクソンの国との二国間同盟で生きた。アジアにはこういう国はほかにありません。英国との20年間にわたる同盟、そしておよそ55年間におよぶ米国との同盟です。

 日本は日英同盟に支えられて日露戦争から第一次世界大戦まで世界史の中に彗星のごとく登場した。その後、満州国の夢を見て真珠湾へとたどり、結局25年間のダッチロールを経験。しかし敗戦後は、新手のアングロサクソンの国、米国との二国間同盟に支えられて復興・成長した。

 しかしここで、「ではこの国は今後どういう国際環境を生きていくべきか」という重要な議論があります。一つの見識として受けとめなければならないのは、サウジアラビア大使・タイ大使などを経験して外交評論家になられた岡崎久彦さんに代表される意見です。岡崎さんの考えは「日本はアングロサクソン同盟を持ったときは安定していた。だから、どんなに焦燥感にかられても米国との同盟軸を見失ってはいけない」というものです。

 しかし私は違う考えを持っています。日本が21世紀も岡崎さんの路線で生きていけるならそれはそれで幸せかもしれない。しかし多分そうはいかないでしょう。なぜなら、日本がしがみつこうとする米国自身に変化が起こっているからです。米国のアジア太平洋戦略の本質的変化が起こっています。

 「中国という要素に注目しなければならない」というのが私の考えの要諦です。米国のアジア外交は過去において、「日本をアジア外交の機軸とするか」「中国をアジア外交の機軸とするか」という論争を繰り返してきました。

 日本は敗戦後わずか6年で国際社会に復帰できました。イラクが湾岸戦争に敗れて10年以上たちますが、今どういう状態か。それを思えば、日本はなぜ6年で復帰できたかを静かに考えるべきです。僥倖にも近いタイミングで中国が2つに割れたことが大きい。もし蒋介石が中国本土を掌握し続けていたなら、日本の戦後復興は30年遅れただろうといわれています。なぜなら、その場合は戦後のアジアは戦勝国の米国・中国が仕切り、米国のアジアへの投資も支援も全部中国にいっただろうから。中国という要素がいかに大きく日米間に横たわっているか、この仮定からも容易に想像できます。

中国が日米間の巨大な存在に

 いま歴史の流れが変わり始めています。米国の目には、アジア太平洋において中国の台頭という要素が非常に重くなってきている。21世紀には中国経済は日本どころか米国をも追い抜くのではないかという予測が出ていること、米国のビジネス界にとって中国市場は魅力的なこと、そして中国の政治的軍事的脅威の増大というネガティブな要素。米国の中国への関心はいやがうえにも高まっています。「日本も同盟国として大切だけれども、中国の台頭も気になるね」ということです。

 日米間でエールを交換していればこの国は安定していられるという時代は、構造的に終わり始めています。われわれは、日本が日米中のトライアングルの一翼を明確に占める、強い存在感を持つ国になるよう、自分たちの意志で踏み出さなければなりません。

 われわれの現在の歴史観は、おそらく米国一極支配の時代が21世紀は続く、というものかもしれません。しかし私はかなりの確信を込めて申し上げますが、今われわれは、アメリカニズムの終焉というか、その終わりの初め、みたいな世界史の曲がり角に立ち会っているのかもしれないということです。